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【駿府博物館の特別展「永井秀幸の世界~とびでる!錯覚3Dアート~」】 スマートフォン撮影が前提。美術展の新しい形。モノノケ的存在に見る高度な作家

アットエス

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は静岡市駿河区の駿府博物館で4月26日に開幕した特別展「永井秀幸の世界~とびでる!錯覚3Dアート~」を題材に。

3Dアーティスト・絵本作家の永井秀幸が鉛筆で描いた3Dアートの展覧会。L字、平面などさまざまなバリエーションの約50点を展示している。

4日に足を運んだが、来館者の幅広い年齢層に驚かされた。私が鑑賞中、3世代の家族を2組見かけた。全作品の写真撮影が許されているため、スマートフォンのシャッター音が間断なく響く。「こっちの位置からだと平面だけど」「こっちからだと起きてるように見える」など、楽しそうな会話があちこちで聞こえる。

一般的な美術館の鑑賞マナーとは異なるが、そこがいい。来館者の中には、博物館に通う習慣がない方もいただろう。本展はそうした層にも「届いて」いると言える。博物館が、地域のエンターテインメント施設として機能している。

永井さんの作品は、エンターテインメントとしての楽しさを喚起する一方で、いわゆる作家性も極めて高い。HBから8Bまでの鉛筆を使い分けるというが、特に影の描写における繊細な筆跡が印象に残る。鉛筆を寝かしてなでるように黒を置いているところもあれば、細い線を束ねているところもある。

作品に登場する人形(ひとがた)の「もの」たちは、どこかモノノケ然としている。日常に潜むこの世ならざる「もの」。ちょっとカーテンの影に目を移すとそこにいそうな「もの」。見えない人には見えないが、見える人には家の中のあちこちで目にする「もの」。もしかすると座敷童に近いかもしれない。

スケッチ帳を破って飛び出す絵柄が多いのも、そうした印象に拍車をかける。白い紙一枚を隔てた向こう側の世界から、私たちの部屋にしみ出してきた「モノノケ」。永井さんの作品は、そんな視点で見ることもできる。

(は)

<DATA>
■駿府博物館「永井秀幸の世界~とびでる!錯覚3Dアート~」
住所:静岡市駿河区登呂3-1-1  
開館:午前10時~午後5時
休館日:月曜(祝日の場合は開館し翌平日休館)
観覧料(当日):一般(高校生以上)800円、中学生以下・障害者手帳提示無料
会期:6月15日(日)まで

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