家に住みついて幸運を呼ぶ、世界の不思議な『座敷童子』系の妖精伝承
座敷童子(ざしきわらし)という妖怪の話を聞いたことがある人は多いだろう。
この妖怪は東北地方に伝わり、子供の姿で家に住みつき、その家に幸運をもたらす存在として知られている。しかし座敷童子が去ってしまった家は没落したり、住人が病気に罹るなどの不幸に見舞われることもあるという。
このように座敷童子は福の神のような存在であるが、実は類似した妖怪や精霊の伝承は世界中に存在する。
各地で家に憑りつき、幸福や災厄をもたらすものとして語られているのだ。
本稿では各国に伝わる、家に住みつき、幸運や不幸を呼ぶ妖怪や精霊の伝承についていくつか解説していきたい。
1. シルキー
シルキー(Silky)は、イギリスの伝承に登場する妖精である。
古い屋敷に代々住みつく霊的な存在として知られ、絹製の白色や灰色のドレスをまとって現れるという。
シルキーは心優しく、家事の手伝いをして住民を助けるありがたい存在とされている。
しかし、もし怒らせてしまうと、ポルターガイストのような超常現象を引き起こし、住民を家から追い出してしまうことがあるという。
2. キキーモラ
キキーモラ(Kikimora)は、スラヴ地方に伝わる妖怪である。
その姿は地域によって異なり、老婆のような姿で描かれることもあれば、狼の顔、鳥のくちばし、ヤギの角、鶏の足を合わせ持つ合成獣として語られることもある。
キキーモラは家に棲みつく妖怪で、通常は人前に姿を見せないが、夜中に住人が寝静まった頃、掃除や機織りなどを手伝ってくれるありがたい存在とされる。
しかし一方で、キキーモラは邪悪な側面も持ち、機織りの音で住民の眠りを妨げたり、時には首を絞めるなどの悪事を働くこともあるという。
また、不潔な家にはキキーモラが棲みつきやすいとされている。
善良なキキーモラなら歓迎されるが、悪質なキキーモラがやって来た場合は厄介である。日常から掃除を怠らず、家を清潔に保つことが大切であろう。
3. ラウリエッドゥ
ラウリエッドゥ(Laurieddhu)、またの名をスカッツァムリエッドゥは、イタリアに伝わる妖精である。
帽子を被った小人のような姿をしているが、全身が毛むくじゃらで顔は醜いとされている。
この妖精も日中は姿を隠し、夜間に行動する。
いたずら好きな性格で、騒音を立てて住人の安眠を妨げたり、食料をつまみ食いしたりするなど、迷惑な行為を楽しむという。また、その体格に見合わない非常に重い体重を持ち、寝ている人間にのしかかり苦しめることを特に好むと伝えられている。
反面、子供には優しく、仲良くなった子供には隠された財宝のありかや、宝くじの当選番号を教えることもあるそうだ。
しかし、ラウリエッドゥは好色な一面も持っており、気に入った女性を誘惑し、あわよくば関係を持とうとすることもあるので、やはり厄介な妖精であることに間違いはないだろう。
4. ザルティス
ザルティス(Zaltys)は、バルト地方で崇拝されていた蛇である。
ザルティスが棲みつく家には、豊作や家畜や住人の健康、雷避けといった幸運がもたらされると信じられ、人々はこの蛇を大切に扱っていた。
バルト地方ではかつてサウレ(Saulė)という太陽の女神が信仰されており、ザルティスはサウレの神使と考えられていた。このため、ザルティスを無闇に殺すことは女神の怒りを買う行為と見なされ、厳しく禁じられていた。
ザルティスの正体はヨーロッパヤマカガシという蛇で、日本のヤマカガシと違い毒を持たず、暖を求めて民家に入り込むことがしばしばあった。
北欧の主流な暖房器具といえば、かまどである。
かまどの火は女神サウレの象徴でもあったため、火のそばで佇むヨーロッパヤマカガシを当時の人々は「女神のお気に入りの生物」だと考えたのだ。
バルト三国の一つであるリトアニアは、独自の多神教信仰を持つ国家であったが、キリスト教徒の攻撃を受け、1397年にカトリックを国教とした。
それでも、ザルティスを含む古代の神々への信仰は近世まで続いていたとされる。
5. 金霊
金霊(かなだま)は、日本に伝わるお金の精霊である。
江戸時代の妖怪画家・鳥山石燕の画集『今昔画図続百鬼』には、金霊の神通力によって宙に舞う大量の金貨が描かれている。
石燕の解説によれば、金霊は金の「気」であるという。
中国の詩集『唐詩選』には、「不貪夜識金銀気」という言葉があり、これは欲がない人ほど夜に立ち上る金銀財宝の気配を感じ取れるという意味である。また、儒教の書物『論語』には「富貴在天」という言葉があり、これは富を得るかどうかは天命で決まるという教えだ。
つまり、欲望を持たず善行を積む者にこそ金運は舞い込み、神が福を与えるとされている。
とはいえ、現実には悪人の方が金を得やすい場合もあり、この石燕の解説を理想主義的と見る向きもあるかもしれない。それでも正しく生きる者ならば、悪銭ではなく、正当な方法で財を得たいと考えるのが自然だろう。
また、日本各地には金霊に似た妖怪、金玉(かねだま)の伝説も残っている。
金玉は光り輝く球体や火の玉として現れ、それを手に入れた者は大金持ちになれるとされる。ただし、金玉は丁重に扱わなければならず、少しでも傷をつければ家は没落し、血筋も絶えるので注意が必要とのことだ。
参考 : 『今昔画図続百鬼』『神魔精妖名辞典』他
文 / 草の実堂編集部