とんねるず「星降る夜にセレナーデ」冬がはじまる夜に聴きたい、心温まるラブバラード(第四夜)
リレー連載【冬がはじまる夜に聴きたい、心温まるラブバラード】第四夜
星降る夜にセレナーデ / とんねるず
作詞:松井五郎
作曲:玉置浩二
編曲:星勝
発売:1989年5月17日(アルバム「市川と宮嶋」収録)
真っ当なラブバラードとしてファンの間でも人気が高い「星降る夜にセレナーデ」
長かった夏も終わり、だんだんと空気が冷たく感じられるようになる11月。そんな肌寒くなる夜に聴きたくなる心温まるバラードとして、とんねるずの「星降る夜にセレナーデ」を紹介したい。
コメディアンであるがゆえに、「一気!」や「ガラガラヘビがやってくる」などのようなおちゃらけた曲や、多数のパロディソングを発表していることから、とんねるずはバラエティー色の強い曲しか歌っていないのではと思いがちである。だが、「一番偉い人へ」のようにグッと心をつかまれる正統派ソングも存在する。この「星降る夜にセレナーデ」もそのうちの1つで、おふざけなしの真っ当なラブバラードとしてファンの間でも人気が高い。
この曲は、1989年に発売された『市川と宮嶋』というアルバムの中に収録された曲で、シングルカットはされていない。知る人ぞ知る曲のように思えるが、彼らの冠番組である『とんねるずのみなさんのおかげです』(フジテレビ系)の初期エンディングテーマとして、1988年10月から1年間使用されていたので、聴いたことがある人も多いかもしれない。
「スターダスト」へのオマージュ?
バラエティー番組なのにエンディングテーマがバラード? そんなふうに思った人も多かったかもしれないが、これに関しては、ある種のノスタルジーを意識して制作されたようだ。2023年に配信されたAbemaの番組で石橋貴明が語ったエピソードによれば、『シャボン玉ホリデー』のような余韻を持つ番組にしたくて松井五郎と玉置浩二に作詞作曲を依頼したという。
『シャボン玉ホリデー』とは、1961年から1972年まで日本テレビ系で放送された、ザ・ピーナッツやハナ肇とクレージーキャッツを中心に繰り広げられたバラエティーショー。歌やコントの賑やかな番組の終わりに流れていたのは、ザ・ピーナッツが歌うホーギー・カーマイケル作曲の名曲「スターダスト」だった。
言われてみればたしかに、「星降る夜にセレナーデ」も曲名からして「スターダスト」へのオマージュを感じさせる。これもある意味、とんねるず流のふざけないパロディソングだったのかもしれない。楽しい時間の終わりに流れる “夢のあと” を醸し出す効果を狙った粋な演出。お笑いという枠を超えて、“人の心に残るエンターテインメント” を届けようとする姿勢がそこにはあったのだ。
楽曲制作陣は安全地帯チーム
また、この曲は『市川と宮嶋』だけでなく、1994年に発売されたベストアルバム『足跡』でもラストを飾る位置に収録された。“足跡” というタイトルの締めにこの曲を置く構成は、とんねるず自身の歩んできた時間を静かに見つめるような思いが込められているのだろう。
前述の通り、作詞は松井五郎、作曲は玉置浩二。編曲も星勝ということで、楽曲制作陣は安全地帯チームであることが分かる。冬がはじまる夜に聴きたくなる優しくも切ないサウンドと、どんな思い出も温かく包み込んでくれているような歌詞が印象的だ。
そしていつか
またふたりで
戻ってこようね
別れを歌いながらも、再会の約束を残すこのフレーズは、“終わりの向こう側” を照らす希望の光のように聴こえる。発表当時、安全地帯が活動休止を控えていたこともあり、活動再開を暗示させるよう歌詞に余白を作っていたと思うのは邪推だろうか。しかし今この言葉をとんねるずが歌うと、恋人たちの歌というより、長年の相棒同士の絆のようにも感じられるのだ。
武道館公演のラストを飾った「星降る夜にセレナーデ」
2024年11月8日と9日に、約29年ぶりとなる “歌手・とんねるず” としての公演が日本武道館で開かれたことは記憶に新しい。2日間とも超満員の大盛況。そのラストを飾ったのは、やはり「星降る夜にセレナーデ」だった。私は初日公演でその瞬間を見届けたが、石橋貴明が “今回のライブをとんねるずの卒業式にする” と言った瞬間、会場の空気が少し変わった。曲中は、スマホのライトによる満天の星空のような美しい景色が広がっていたが、その光を見つめながら、多くの観客が同じ気持ちを抱いていたと思う。
―― この時間が終わってほしくないという願いと、もしかしたら本当にこれが最後になるのではという不安だ。だが翌日、石橋は2日間のライブを経て “卒業式を考える必要はまだない” と撤回してくれたそうだ。そのエピソードを聞いたとき、あの「♪そしていつか またふたりで 戻ってこようね」というフレーズがふと頭に浮かんだ。この曲を歌い続けてくれる限り、とんねるずはまたステージに戻り、2人の物語はまだまだ続いていくと確信した瞬間だった。
別れではなく、“また会うための終わり” を幾度となく穏やかに教えてくれた「星降る夜にセレナーデ」。石橋貴明と木梨憲武という唯一無二の二人がステージに立つ姿を、もう一度見ることができる日が来るのを願わずにはいられない。そしてタカさん、どうか闘病を持ち前の帝京魂で乗り越え、再びあの笑顔でテレビやステージに戻ってきてほしい。