東屋には、ホスピタリティが詰まっている。高橋英樹さんに伺う“街の休息地”の魅力
公園の一角に、休憩や眺望などの目的で設置される、柱と屋根で作られた建物「東屋（あずまや）」。見つけるとちょっとうれしい存在だ。都市やテクノスケープをテーマに楽曲制作や同人誌の発行などを手掛けるユニット「Mitaka Sound」のメンバー・高橋英樹さんは、活動の一環として長年、東屋の鑑賞を続けている。
高橋英樹
東京を拠点に、都市をテーマとした楽曲制作から同人誌『テクノスケープガイド』の発行まで、いろいろ幅広く手掛けている2人組ユニット「Mitaka Sound」のメンバー（写真右）。活動の一環として東屋の鑑賞も続けている。
公園のセーブポイント・東屋
「工場や団地、ジャンクションなどの写真を撮るのが趣味で、25年前に音楽ユニットを結成して、そうした巨大建造物に合うような楽曲制作を始めました。
活動開始と同時期にツイッター（現X）を始めて、大山顕さんや内海慶一さんといった都市鑑賞者の方々とも、SNSを介して交流が生まれるように」
「大山さんであれば団地、内海さんであればピクトさんのように、自分自身も何かテーマを決めて収集したいなと考えていた時、それまで撮りためた写真をふと見返したところ、東屋の写真が何枚もあったんです。
公園に行った時、セーブポイントのように、無意識に撮っていたんでしょうね。以来、自覚的に撮り集めるようになりました。
つる植物を這（は）わせて日陰を作るパーゴラや西洋風のガゼボ、日差しを防ぐシェルターなども、東屋の仲間として鑑賞しています」
あるとうれしい場所にある東屋。ホスピタリティにグッとくる
これまで撮影した東屋は600枚以上。すべて、日常生活の中で自然と出合ったものだ。
「東屋のいいところでもあり、ちょっと大変なところでもあるんですが、たいていの場合、誰かが座っていたり休憩していたりするんです。
カメラを構えて横で待つわけにもいきませんよね。なので、自宅の近所やどこかへ散歩に行ったついでに公園へ寄り、人がいないのを見計らって撮るということの繰り返しです。
慣れてくると、子どもの声や住宅地の向こうに見える木々の様子、地形などで、『こっちに行くと公園がありそうだぞ』という感覚が身についてきます（笑）。
東屋探しは、公園探しの楽しさとも通じますね」
ちなみに東屋自体は公園内でどんな場所にあるのだろうか。
「東屋が素晴らしいのは、見晴らしがいい場所や、坂道を上った先など、あるとうれしい場所にあるところ。
設計した人はちゃんと考えてくれているんだなと、グッときてしまいます。当たり前ですが、ちゃんと公園を整備してくれていることを実感するんです」
東屋がありそうな場所をゲーム感覚で探そう
高橋さんがこれまで訪れた中で、特に印象的だった東屋は、岡山・倉敷市。瀬戸大橋を見渡せる鷲羽山（わしゅうざん）の山頂に、なんと「東屋展望台」という名の展望台がある。
「瀬戸大橋がドーンと目の前に広がる最高のロケーションなんです。
東屋の中心に広いベンチまであり、私にとっての理想の東屋と言えるかもしれません。橋や高速道路などドボク系の景色が好きな人にもおすすめです」
これから東屋を楽しんでみたいという方に向けて、おすすめの味わい方を伺ってみた。
「まずは住宅地を散策して公園を見つけるところから始めるといいのかな、と思います。
東屋は、写真を撮ろうと思っても、必ず撮れるものではありません。
その公園に東屋があるかどうか、東屋を撮影できるかどうかというところまで、一連のゲームのように楽しんでみるのがおすすめです。
新宿御苑のような大きな公園の場合は、園内マップを見ながら景色の良さそうな場所を見定めて、『ここに東屋がありそうだぞ』と予測するのも楽しいと思います」
鑑賞を続けるうちに、公園以外の休憩スポットにも目が留まるようになったそう。
「街中で、雨宿りできるようになった東屋的な休憩場所を見かけると、『休める場所を作ってくれてありがとう』と感謝してしまいます。バス停などに近隣の方が置いた『野良イス』にも、同じような優しさを感じますね」
東屋は、ホスピタリティと優しさが詰まった、街の休息地なのだ。
取材・構成＝村田あやこ ※記事内の写真はすべて高橋英樹さん提供
『散歩の達人』2025年5月号より
村田 あやこ
路上園芸鑑賞家／ライター
福岡生まれ。街角の園芸活動や植物に魅了され、「路上園芸学会」を名乗り撮影・記録。書籍やウェブマガジンへのコラム寄稿やイベントなどを通し、魅力の発信を続ける。著書に『たのしい路上園芸観察』（グラフィック社）。寄稿書籍に『街角図鑑』『街角図鑑 街と境界編』（ともに三土たつお編著／実業之日本社）。