舞台『東京リベンジャーズ』主演・木津つばさが花垣武道と生きた5年ーー心理的にも限界な時、支えたくれた仲間へ「尊敬しています」
最愛の恋人を失う現在を変えるために、過去へ何度もタイムリープする大人気作『東京卍リベンジャーズ』(和久井健/講談社)。多くの媒体でメディアミックスがされ、そのうちの舞台版(以下、『リベステ』)の最新公演となる『東京リベンジャーズーThe LAST LEAP-』が、6月26日(木)に大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA WWホールにていよいよ始まった。2021年8月の幕開けから約4年間にわたり毎年上演されてきたが、今回のエピソードで一区切りを迎える。主人公の花垣武道(タケミチ)を演じるのは俳優、木津つばさ。彼に今までの振り返りを含めたインタビューを決行した心理的にも体力的にもつらいシーンが多い中、木津にとってどのような作品になったのだろうか。
●限界だった時、仲間たちに支えられていた
――今までの公演の中で、楽しかった、高揚したシーンはどこでしょうか。
みんなが笑顔になれるシーンは楽しかったですね。あとはアドリブシーンも結構楽しかったな。僕は溝中(五人衆:タケミチ、千堂敦、山本タクヤ、鈴木マコト、山岸一司の不良5人グループ)が好きなんです。僕は過去と現在を行き来するのに何度も着替えないといけないんですが、そういう時に溝中メンバーが舞台の上で頑張っているのを見ているとありがとうって思う。個人的にすごく楽しかったのは第3弾の時で、ハッピーニューイヤーのシーンですね。
――逆に一番しんどかったシーンは?
選びきれないって言ったらずるい発言になっちゃうかな。体力的にはすべてがしんどかったのですが、心理的なところではヒナが目の前で死んでしまうところですね。車の事故で炎の中に巻き込まれてしまうあのシーンは、現実味がないようにも思えるけれど現実なんです。今回も少しそのシーンが入る予定です。演出の伊勢直弘さんのこだわりかと思いますが、『リベステ』は「音」で記憶を想起する演出が使われています。ぜひ見返してみてください。タケミチの記憶、トラウマのような時にも「音」と結びついていて、過去がフラッシュバックするんですよね。
――タケミチにとっては本当にしんどくなるシーンが多かったと思いますが、公演の間はどのように気持ちのリセットをされていたのですか?
もう寝るしかないです。特に前回第4弾の時は、ストーリーがとてつもなくしんどくて、限界を迎えていたんです。そんな時に、(タケミチの)幼馴染でもある鶴蝶役の岩城直弥が「ゲームしよう」って誘ってくれるんですよね。そういうのがあって実は耐えられていたのかもしれません。仲間に助けられていましたね。ほかには家でゲームしたり、マッサージをしてもらったり。一回一回気を抜く瞬間っていうのは非常に大事なものなんですが、公演は全力なので終わってもアドレナリンがすごく出ている状態で! それを押さえつけながらいかに休息を取るかを考えた結果、今はジブリのBGMを流しながら寝ています。少しでも早く休むためには非常に効果的でした。
――『リベステ』は上映会やアフタートーク、Blu-ray発売イベント等、公演外でのイベントも多いですが、ファンの反応は?
一作目から変わらず温かな応援をいただいています。原作が好きな方、僕たち役者を応援してくださっている方だけでなく、『東京リベンジャーズ』を知らないまま来てくださる方もいるんです。お話的には、喧嘩とか不良とか男くさいところとか、好き嫌いが分かれやすい内容なのかなと思うんですが、来てくださる方はみんな温かい反応をしてくださる。男が全力で体当たりしていく物語を長時間見続けてくれて、上映会にも足を運んでくれて、殴り合いのシーンや僕たちの話をニコニコしながら見聞きして、最後に笑顔になって帰ってくれる。こうして応援してくださる皆様に最後まで全力でお届けできたらと思います。
●じっくりゆっくり自分たちを見つめ直してきた
――稽古場の雰囲気は?
ここで一度『リベステ』は一区切りなので、しっかり届けるぞという気持ちが明確にあります。稽古場でもディスカッションがすごく多くて、伊勢さんを交えて「みんなで舞台を作っていく」という熱量をより一層強く感じますね。そういう心の一体感が『リベステ』の良さだなと。稽古場での過ごし方はみんなプロフェッショナルです。『リベステ』という素敵な作品を背負って、各々がしっかり自分の役割を全うできるように努力しています。稽古期間中もっとチャレンジしたいという気持ちもあるし、体力面も含めて充実した稽古期間になりそうです。そしてそのままこの勢いで大阪に乗り込んでいこうと思います。公演が始まったらあっという間なんだろうなぁ……。毎年『リベステ』をやっていたので、一年に一回は金髪になって、体力が底を尽きることがルーティーン化されていましたね。
――ディスカッションを多くされているんですね。
多いですね。役者同士での話し合いもたくさんあるし、演出助手でパーちん(林田春樹)役の中島大地くんと伊勢さんとの協議もあるし。お芝居についての熱量ある話をする時間がすごくたくさんある印象です。
――今まで濃密な時間を過ごした安心のメンバーたちなんですね。
そうですね。みんなここまでたくさんの想いを背負って来たから。1年に何度か公演をやるような作品もある中、『リベステ』はじっくりゆっくり自分たちを見つめながら進んできました。歩みを止めることなく、良いペースでここまで来れたなって思います。作品にガッと命を込められる人たちが集まっているので、みんなのことを尊敬しています。 稽古場での居方や雰囲気を見ていても、ふざけるところは全力でふざけて遊んで、締まるところはしっかり絞る、メリハリがかっこいいです。
――『リベステ』でのムードメーカーは誰でしょう。
みんなかな。体力的にも精神的にもしんどい話をしているので、プライベートではみんな笑顔でいたいなというところは共通していると思います。強いて言うなら菊池修司(半間修二役)ですね。居てくれるとすごく助かりますね。優しくて笑顔になれる人、させてくれる人です。でももしかしたら勝手に楽しんでいるだけかも(笑)?
――公演があった4年間で、変化を感じた人はいますか?
稀咲鉄太役の結城伽寿也くんですね。彼はすっごく優しくて人が良い。そんな人が稀咲をやって大丈夫かなと思うこともあったんです。自分への挑戦だったんだろうし、その中でも自分を見つけて乗り越えてきた活躍を(タケミチ役の)僕は途中からずっと追ってきています。でももしかしたら一番変わったのは僕かもしれない。役を背負って彼の人生を生きていると、登場人物たちに自分が引っ張られていくような感覚があります。『リベステ』を通じて、みんなが僕を変えてくれやがりました。それに伴って自分もみんなを変えることができているかもしれませんね。
――どんなところが変わったと思われますか?
登場人物たちみんなの呼吸や言葉――受け取るものがたくさんあるからこそ、その中で自然と変化していく感覚です。少年の頃と今の自分の映像を照らし合わせてみると、特に変化を感じやすいです。タケミチはみんなの強さを知って、自分の弱さを認めて、だからこそ立ち上がれるヒーローだと思っています。彼は今回もすごく良い台詞を言うんですよ。「オレにできる事は一つ!! 諦めねぇ!!! 死んでも諦めねぇ事だ!!」って。演じてきたからこそわかりますが、最初は「俺は何もできねえ」って言うタケミチの人任せなところにイライラして、「頑張りなさいよ! 一歩踏み出さないと何も変わらないよ」って思っていたんですが、今は息を吐くように名言を言える男になりました。原作者である和久井健先生の気持ちが詰まっていますね。僕も「覚悟」という意味で変われたなって思います。
●可動域を超えないと表現として「甘え」になってしまう
――Xでは「全身筋肉痛」と仰っていましたが、全身運動なのでしょうか。
殴られて走って、また殴られて転がって走って……! 誰一人として筋肉痛になっていない人はいないと思います。4年間この現場で全身筋肉痛と向き合ってきて、そんな痺れで「『リベステ』やっているなー」という実感がわきます。僕はこれがすごく嬉しくて、むしろこれがないと『リベステ』は始まってないと思うくらいまであります。年々きつくなっている感じもありますが。
――木津さんはダンスも得意とされていますし、身体を使うのは得意そうですが……。
ダンスの時に使う筋肉とは全然違いますね。あくまでもお芝居ですが、本当に殴られている感覚があるように痛くて。そんな領域まで来てしまいました。ダンスの動きは自分の可動域の範囲内で処理ができるんですが、殴られる時はその可動域を超えないと、僕の中では表現として「甘え」になってしまう。だったらもう全力で殴られた方に首をぶん回しています。
――ここは絶対に注目してほしいというシーンは?
何歳になっても青春は青春だなと思います。僕たちは本当にお芝居が大好きです。役者や作品を含めて一期一会であり、覚悟を持って板の上に立ってお客様と向かい合うわけじゃないですか。そうして戦って全力で熱い物語を届けている。そんな姿こそが一番見応えがあるものだと思います。シーンに限ってしまうと、決められません。どんな舞台でもみんなの息遣いや呼吸ひとつひとつ、勢いや姿勢というものを全身で体感してほしいなと。COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール、そしてKAAT 神奈川芸術劇場という素敵な劇場で、全力のぶつかり合いを見てもらいたいなと思います。
――『東京卍リベンジャーズ』にはたくさんメディアミックス作品があります。アニメ、ミュージカル、ドラマ、映画……それぞれに良い面があると思いますが、『リベステ』にしかない魅力とは。
そんなモン、見たらわかりますよ。和久井先生が命がけで描いてきた作品に対して、死力を尽くして全力で向き合うっていうのは、当たり前であり絶対条件でもある。自分たちができることをずっと考えながらやってきました。この舞台の良さ、僕らにしかないものは、見てもらった皆さん個々に抱く多くの感想それそのものなんじゃないかなと思います。例えばストーリーのアツさ、青春、勢い、テンポの良さ、喧嘩の本気度、マイキー(佐野万次郎)かっこいいとか、(松野)千冬かわいいかっこいいとかもね。そういうもの含めて全部魅力になっている。僕は誰よりもでっかい声出して頑張るんで。舞台の良さは、自分の目で見たらわかります。確かめに観に来てください。
――公演の意気込みと、皆さんにメッセージをお願いします。
長い間応援ありがとうございます。お客様が舞台『東京リベンジャーズ』という作品を愛してくださったからこそ、第5弾まで続けられることができました。『リベステ』は一区切りを迎えます。もちろんここで一区切りになることへの賛否も受け止めています。未来を変えることってもちろん容易ではないですが、僕たちが未来を変えるには「今」動くしかありません。最後まで伝説を作るつもりで「『リベステ』は最高の作品だったでしょう!」とみんなでいつまでも自慢できるような作品にしたいなと思います。
――ありがとうございました。
最初は優しげに受け答えしていた木津も、今回の公演の話になると表情が一変。熱心に魅力を語り、多くの人の想いや人生を背負っているという「覚悟」を感じられた。その様はまさに花垣武道。本気度がビリビリと痛いほどに伝わってくるインタビューとなった。
舞台『東京リベンジャーズーThe LAST LEAP-』は6月26日(木)から29日(日)まで大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール、7月3日(木)から10日(木)までKAAT神奈川芸術劇場〈ホール〉にて上演。キャスト陣登壇のアフタートーク回も注目だ。
取材・文=松本裕美 撮影=泉健也