【「朝霧JAM2024」2日目リポート 】 ELEPHANT GYMの超絶技巧、森山直太朗の名唱。秋風吹き抜ける朝霧高原に音楽広がる
静岡新聞論説委員がお届けするアート&カルチャーに関するコラム。今回は10月12~13日に富士宮市で行われた野外音楽フェスティバル「朝霧JAM」のリポート第2弾。(文・写真=論説委員・橋爪充)
朝霧JAM2日目は、恒例のラジオ体操で午前10時スタート。「朝霧JAMに来る人はみんないい人だなあ」。秋鹿博実行委員長の滋味あふれるあいさつに続き、レインボーステージ前のスペースに整然と並んだ推定1000人がそろって手足を動かす。
ステージでは引き続き、富士宮市で活動する和太鼓団体「本門寺重須孝行太鼓保存会」の演奏。10人以上の整ったフォーメーションと、担ぎ桶太鼓の両面打ちが、会場のボルテージを上げていく。朝霧JAMでは10年以上前からおなじみの同保存会だが、出演のたびに「エンタメ度」を上げているのが分かる。
そのままレインボーにとどまり、台湾から来た3人組バンドELEPHANT GYMを見る。ギター、ドラムスを左右に従えたKT Changのベースプレイに驚愕。近年の音源で「予習」してライブに臨んだが、予想を遥かに超える超絶技巧に思わず笑ってしまった。左右の指が指板の上で独立した生き物のように動き回り、太くしなやかな音がはじき出される。
キング・クリムゾンのトニー・レヴィンがスティックを弾く姿、音に近いか。指が通常のベースプレーヤーの倍速で動いているように聴こえる。ギターTell Chang、ドラムスChia-Chin Tuがあえて隙間の多い音像を構築し、ベースの自由度を高めているのもニクい。
流ちょうな日本語のMCを交え、日本語詞の楽曲も披露。ライブ中に観客のテントが上昇気流で舞い上がり、ステージ後ろに「不時着」するアクシデントもあったが、3人のフレンドリーな雰囲気は最後まで崩れなかった。
ムーンシャインで荒谷翔大の中音域を生かした端正なR&Bサウンドを堪能した後、再びレインボーへ。
ラッパーJJJはDJにAru-2を迎え、さらにアップライトベース、箏、尺八を加えた特別編成でステージに臨んだ。ダークな雰囲気の「 Cyberpunk」で幕開けし、Daichi Yamamotoの声を交えた「Taxi」で前半の盛り上がりを作る。後半はゲストにCampanellaを迎えた「Friendskill」でラップの技術の高さを見せつけた。うなる低音の後ろの方からキラキラした箏の音が差し込んでくるのは、ちょっと得がたい体験だった。
続く森山直太朗はバンジョー、フィドル、チェロ、ピアノ、打楽器のバックメンバーとともに登場。「さくら(独唱)」「生きとし生ける物へ」とつなぎ、冒頭から会場を掌握した。自らもギターをかき鳴らし、トラッドやカントリーの香りが漂う楽曲を次々繰り出した。
「夏の終わり」の後は「これをもって、長かった、本当に長かった夏も終わりです。お疲れさまでした!」とのMC。客席、大いに沸く。ピアノをバックに丁寧に歌い上げた最終曲「生きてることが辛いなら」は、魂がこもった伸びやかな歌声が染みた。目頭を押さえる人多数。間違いなく今年の朝霧JAMのハイライトの一つだった。
森山の演奏の余韻に浸りながら、足を伸ばしてレインボーから徒歩10分ほどの「第3のステージ」カーニバル・スターへ。「こだまレコード」(富士市)のプロデューサーTOP DOCA率いるSKA SHUFFLEがジャマイカのスカを7インチレコードで聴かせていた。
東京の中南米音楽バンドTROPICOSはサックス、トランペットなど管楽器3人を含む9人で小さなステージを占拠。コンガやティパレスを交え、マンボやカリプソの楽しいリズムで観客を踊らせた。
キャンプサイトにあるカーニバルスターから、坂を下ってムーンシャイン。SEのようなものがないまま、GHOSTLY KISSESの演奏が静かに始まった。フランス系カナダ人のシンガー・ソングライター、マルチ・インストゥルメンタリストのMargaux Sauveは、衣装や髪を留める装具も黒で統一。沈鬱なビートにすーっと伸びる清らかな歌声が合わさり、聴いているとまるで体が浄化されていくような気分。
今年5月の最新アルバム「Darkroom」からの楽曲を中心に演奏したか。指先を柔らかくくねらせる妖艶なダンスは、彼女のダークでゴシックな世界観がよく表現されていた。
日が暮れたレインボーは、STUTSから羊文学へのフィナーレリレー。テントの片付けなど雑務に追われ、ステージ前で聴くことはできず。ステージ中央に構え、フィンガードラムをたたきながら各メンバーに指示を出すSTUTSはまるでクラシック音楽の指揮者のようだった。あるいは、パーラメントにおけるジョージ・クリントンか。吉田町出身のラッパーKMC、JJJに続いて登場のCampanellaが共演曲を披露し、「夜を使いはたして」で最高潮を迎えた。
サポートドラマーを迎えた羊文学のステージは、帰路につかねばならない時間にさしかかったためほとんど見ることができず。シャトルバスの中にも響く、塩塚モエカの力強い歌声を聴いているうちに、「来年もここに戻ってくる」という気持ちが募った。