性暴力やDV被害を減らすカギは加害者対応 ストレスを制御できる人とできない人の差は…
■静岡市で性教協の大規模セミナー 性暴力の対応もテーマに
被害者の救済やケアが必要なのは言うまでもない。ただ、加害者にも目を向けなければ、性暴力やDV(ドメスティック・バイオレンス)などの暴力の問題は解決しない。今夏に静岡市で開催された一般社団法人「“人間と性”教育研究協議会(以下、性教協)」のセミナーから性教育を考えるシリーズ。今回は性暴力の加害者対応を掘り下げる。【全3回の2回目】
性教協は性教育を研究する日本の代表的な団体の1つで、静岡県を含む全国にサークルが存在している。大規模なセミナーも毎年開催しており、今夏は静岡市が会場となった。
今夏のセミナーでは性教育の様々なテーマを設けた分科会や模擬授業が実施される中、藤枝市在住のカウンセラー松林三樹夫さんは「性暴力問題への対応力を高めるために」と題した分科会で講師を務めた。
松林さんは中学校の教師を経て、約20年前からカウンセラーとして活動している。藤枝市内のカウンセリングルームには性暴力の被害者だけではなく、加害者も訪れる。松林さんは「性暴力を予防する最大の方法は社会・家庭からの暴力根絶と性教育の充実」と力を込める。新たな被害者を生まないために、加害者をつくらない仕組みづくりが不可欠なのだ。
■鈍感力ではない ストレスが暴力と直結する人としない人の差
松林さんは、性暴力やDVなどの加害者は心の傷や過度なストレスを抑えきれずに周囲の人を傷つける行為に及んでしまうと説明する。イメージはコップの水があふれる状況。ストレスという水が心のコップにたまっていき、限界に達すると水はこぼれる。水があふれた時、性暴力やDVという形を取ってしまうという。
もちろん、誰もがストレスを感じながら日々を生きている。全員が暴力的になるわけではない。松林さんは「心のコップの水があふれた時、暴力に表れる人は3割と言われています。あと3割は自分で抱え込み、1割は遊びやスポーツ等で解消します。残りの3割は強いストレスや虐待を受けても、水があふれる前に解消する方法を身に付けています」と説明する。
コップの水があふれた時、ネガティブな行動に出る人と出ない人の差は“鈍感力”ではないという。ストレス発散の手段を知らないと、自傷行為や自殺といった自らに暴力の矛先を向ける行為に走ったり、あるいは周りへの暴力に及んだりする。松林さんは、こう話す。
「ストレスの限界に達する前に、話を聞いてくれる人や信頼できる人に愚痴をこぼしたり、相談したりできると乗り越えていけます。そういう存在が身近にいない場合は、カウンセリングを受けるのも1つの手段です」
■「愚痴はこぼして良い」 暴力や自殺に発展させないストレス解消法
性加害や自殺者の割合が女性と比べて男性が圧倒的に多いのは、松林さんの話と密接にかかわっている。厚生労働省によると、昨年1年間の自殺者は2万1818人。そのうち、女性が171人減少の6964人だったのに対し、男性は108人増加の1万4854人と全体の68%を占めている。松林さんが語る。
「自殺者の男女比率は毎年、変わりません。男性は弱音を吐くことが恥ずかしいと考えて我慢してしまう傾向が強いです。弱音を口にせずに自殺してしまう、または身近な人に暴力をふるってしまう。女性の多くは友人などに愚痴をこぼしたりして発散します。愚痴はこぼして良いんです。カウンセリングは愚痴をこぼす究極の場所だと私は思っています」
辛い経験を口にすると、当時の記憶がよみがえって強いストレスを感じる「フラッシュバック」に悩む人もいる。松林さんは「フラッシュバックが起きるのは心にとげが刺さっている状態」と表現し、とげを抜くには1度や2度ではなく、継続的に人と話す場が必要になると指摘する。
松林さんのカウンセリングでは、相手の話を聞くだけではなく、憎しみの対象を段ボールに見立てて抑えてきた感情をぶつけさせるなど様々な手法を用いている。その中の1つが、絵画療法だ。日本児童画研究会の創始者で絵画療法の第一人者でもある浅利篤さんの方法をアレンジして、相手の深層心理を読み解いていく。
■絵画で分かる深層心理 性暴力やDV加害者を減らす手段に
浅利さんの絵画療法ではカウンセリングに来た人に対して自由に絵を描かせて、その内容から分析を進める。一方、松林さんは太陽、雲、山、家、木など題材を限定してから描かせる。
例えば、太陽は父親を表しており、その色や大きさによって注がれた愛情の大小が分かり、発する光が曲線で描かれた場合には暴力に苦しんできた可能性がある。木は自分や家族を象徴し、枝がないと友達が少ないことを表わしていたりする。松林さんは「絵画療法では本人も意識していない面を推し測ることができる」と話す。
性暴力を根絶するには、加害者をなくす取り組みが不可欠となる。ストレスも自分で抑えられないほど深刻な事態となれば、被害者が出てしまい、加害者の治療にも時間がかかる。「愚痴や悩みを吐き出せると心に余裕が生まれます。日本でもカウンセリングが一般的になってほしいと思っています」と松林さん。心のコップの水があふれる前に、継続的に話を聞いてもらえる家族や友人、カウンセラーを見つけておきたい。
(間 淳/Jun Aida)