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第12回 設立から5年で様変わりの様相を見せるAEW~日本人レスラーが今後もメインストリームに立ち続ける方策とは?~

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第12回 設立から5年で様変わりの様相を見せるAEW~日本人レスラーが今後もメインストリームに立ち続ける方策とは?~

試合だけでなく、プロモにおいても卓越した才能を見せつけてファンを熱狂させるウィル・オスプレイ(写真右)
果たして日本人レスラーもこれだけのパフォーマンスを発揮できるか?
– 2024年11月13日(現地時間)コネチカット州ブリッジポート トータル・モートゲージ・アリーナ –

旗揚げによる団体設立から5年―。アメリカマット界に彗星の如く勃興し、メジャー団体の雄となったAEWだが、ロースターと呼ばれる所属選手の拡大はもちろん、次から次へと紡がれていくストーリーラインは、もはや団体スタート当時とは全くの別物と呼んでいいほど、極めて複雑な広がりを見せている。

それに伴って、AEWに移籍した数多くの日本人レスラーの活躍を、今後も大いに期待したいところだが、この変革期にあって、”ただ移籍した”だけではこの先に続く光明を見いだせないのではないか、という危惧を抱いているのは、果たして筆者だけであろうか。

そこで今回は、現在のAEWにおけるおおまかな勢力図を紹介するとともに、これから日本人レスラーがさらにAEWの中で、トップレスラーとしての存在感を増す方策について考察してみたいと思う。

■AEWにおける複雑なほどの群雄割拠

まず、アメプロのベースとなる「正義vs悪」の勧善懲悪の構図において、各レスラーがベビーフェイスかヒール、いずれかの旗色の”ユニット”を結成し、それらが軍団抗争の形でさまざまな試合を行っていくスタイルが、AEWでも基本的なストーリー構造だ。そこで反則や不透明裁定など、観客にとってストレスの溜まるヒールによる展開が幾重にも重なり、もつれにもつれた因縁が、およそ月に一度のペースで行われるPPV大会の試合で一応の決着を見る、というオーソドックスな流れだ。

現在、団体内のユニットは10を超えるほどかなりの数に上っているが、それを整理しているのがAEWでも複数用意されている王座ベルトの存在である。男女それぞれの世界王座を筆頭に、インターナショナル王座、コンチネンタルクラウン王座、ROH世界王座、FTW王座、TNT王座、タッグ王座、トリオ王座、tbs王座と、いった具合に多数の王座ベルトが存在するのだ。

一見すると、その数の多さに面食らってしまいそうだが、実は一つの王座を巡って争っているレスラーやユニットは、原則的にその他の王座に絡むことがない、という暗黙のルールが根底にはある。つまり、視聴者はどれだけ多くの軍団抗争が起きようとも、そのユニットが一体どの王座を狙って争っているのかを把握してしまえば、極めてスムーズに多くの試合模様を別々に楽しむことができるようになっている。例えて言うなら、一つの漫画雑誌に掲載される連載漫画のように、それぞれが全く別々の連続したストーリーでありながら、その雑誌の掲載作品であるという点では共通している、と言えば分かりやすいだろうか。

■男子日本人レスラー達の現在の立ち位置

では、こうした構図がある中で、これまでこのコラムで紹介してきた日本人レスラー達の立ち位置は、現時点でどうなっているのだろうか。代表的な日本人男子レスラーをピックアップしてみよう。

まずはオカダ・カズチカ。オカダは現在、THE ELITE(ジ・エリート)というヒールユニットに属し、コンチネンタルクラウン王座も保持するチャンピオンであり、同王座を巡るストーリーのトップに君臨する存在だ。だが、どういうわけか、この王座自体のストーリーラインが全く盛り上がってこない。無論、幾度となく対戦相手を退けて王座の防衛を果たしているものの、どこか一回切りの扱いという印象は拭えず、先の例で言うなら、週刊漫画の中でも、特別読み切り漫画のような扱いなのである。

対して、インターナショナル王座を初戴冠した竹下幸之介は、現在悪徳マネージャーとして常に会場の大ブーイングの”喝采”を浴びまくる、ドン・キャラス率いるユニットに属しているのだが、こちらは同王座をめぐるストーリー展開が極めて活況を呈している。もちろん、竹下の実力もあってこそだが、加えて同じユニットに属するかつての新日本から移籍したカイル・フレッチャーと、同じく新日本からの移籍を果たしたウィル・オスプレイとの凄まじい抗争ぶりが、日に日に苛烈さを増しているのだ。

そして、もう一人。柴田勝頼はどうかと言えば、彼も2024年初頭からサモア・ジョーとフックというAEWでも人気レスラーの二人と行動を共にするユニットに属し、彼らを中心としたストーリーも好評を博していたのだが、サモアの突然の休場からユニットは雲散霧消してしまい、現在はいずれかの王座戦のメインストリームに乗っているとは言い難い。

果たして、三者三様。プロレスの試合という実力については、いずれも甲乙つけがたい三人だが、こと番組内の起用に関して一体なぜこれだけの差が、生まれてきてしまうのだろうか。

■突破口として必要となるプロモの力量

これには、AEWが団体として目指す方針による各レスラーへのプッシュの仕方や、試合構成などの様々な要因が考えられるため、「これが原因である」と一概に言うことはできない。放送ごとに、どれだけの視聴者が番組を楽しんだか、あるいはつまらなく感じたかという詳細なデータを分析した上で、 次週以降のストーリー展開にも細かな修正を入れるのが常と言われる中で、その理由を特定するのは容易ではなさそうだ。

だが、筆者がこのコラムで幾度か語っている通り、やはり日本人レスラーによるプロモにおけるパフォーマンスの低さが番組内、ひいては王座を巡るストーリーラインを構築するにあたって、大きく立ち塞がる障壁になっているのは否めないように思えるのだ。レスラーである以上に、一人の演者である能力について、AEWの中で疑問符がついてしまっているのではないだろうか。

現に、今年からAEWに移籍を果たしたオスプレイを引き合いに出してしまうのだが、既に折り紙つきの超一流のレスリングセンスはもとより、プロモにおいても堂々たる存在感を放って旧来の所属レスラー達とも渡り合っている。観客の反応も極めて上々だ。しかもPPV大会ではメインイベントに抜擢されることも多く、そうでなくとも常にメインに匹敵するような試合でのインパクトを残し続けている。

そして、先の竹下の場合でいえば、彼の所属するユニット自体に注目が集まっており、その一員としてのキャラクター性がぴったりとマッチしたことで、より注目を集める存在になり得ている。だが、それも極めて計算づくで、プロモでの役割をしっかりと果たしているように見えるのだ。筆者のいうプロモにおけるパフォーマンスとは、何も自身がマイク片手に饒舌に話すというだけではない、独自の”生き残りの術”というべきものだ。それはレスラーの個々がそれぞれの特性や個性に合わせて磨き、成長させ、身につけていかなければならない大きな課題だ。

NPBからMLBという野球界における移籍劇と同様に、新日本を筆頭に多くの日本人レスラーが海を渡ってアメリカマット界に上る流れは、おそらく今後も止まることはないだろう。だが、日本での人気をかさに着て”ビッグネーム”というだけで移籍するだけでは、早晩息が続かなくなるという過酷な厳しさがある現実も、決して忘れてはならない重要なファクターの一つなのだ。

現時点では、ストーリーに”絡む”という形で紹介することが常になっている日本人レスラーが多い中、そうではなくストーリーを自らが中心となって牽引するような真の活躍を、筆者としては切に願ってやまないのである。

岩下 英幸


(いわした・ひでゆき)

AEWインフルエンサー。ゲームクリエイター。1970年、千葉県生まれ。幼い頃からゲームセンターやファミコンに親しみ、それが高じてゲーム業界入り。プロレスを題材に開発した「バーチャル・プロレスリング」シリーズが国内外で高い評価を獲得し、米ゲームエキスポ「E3」では、格闘ゲーム部門の最優秀賞を2年連続で受賞する快挙を達成。現在、奥深いプロレス知識をもとにAEWにまつわる執筆活動中。最新作は2023年製作の「AEW : FIGHT FOREVER」。

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