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第31回中国地区合同手話研修会(2024年7月20日・21日開催)~ 中国地区の手話学習者が集い交流した2日間

倉敷とことこ

第31回中国地区合同手話研修会(2024年7月20日・21日開催)~ 中国地区の手話学習者が集い交流した2日間

2024年の春先、矢掛町に在住する手話学習者から「7月に開催される中国地区合同手話研修会に参加しませんか?」と連絡をもらいました。

同じタイミングで、聴覚障がいのある友人や手話通訳者たちが、頻繁に倉敷市内で集まっていたのでそのワケを聞いてみると、「中国地区合同手話研修会の準備をしているよ」とのこと。

手話学習初心者から手話を日常的に使う人たちまで、みんなが口にする「中国地区合同手話研修会」とはいったいどのような集まりなのだろうと興味をもち、私も参加してきました。

第31回中国地区合同手話研修会とは

第31回中国地区合同手話研修会は、中国地区手話サークル連絡協議会と全国手話通訳問題研究会中国ブロックが主催した研修会です。

2024年は7月20日(土)と21日(日)の二日間「晴れの国 手と手でつながる仲間の輪」のテーマの元、岡山県総合福祉・ボランティア・NPO会館きらめきプラザで開催されました。

主管したのは、全国手話通訳問題研究会岡山県支部と公益社団法人 岡山県聴覚障害者福祉協会などで組織された、第31回中国地区合同手話研修会実行委員会です。

二日間の日程は、以下のとおりです。

大盛況の会場

開会式で、岡山県聴覚障害者センターの所長が「自分はここの所長になって5年目だが、こんなに人が入った会議室を見たのは初めてだ」と言っていたように、開会式が始まる頃には左右の通路にも椅子を置くほどの大盛況。

翌日の記念講演会は記念講演会が始まる45分前から整理券が配布され、会場に入れなかった参加者は別室にてオンライン配信動画を視聴するほど多くの参加者が訪れました。

満席の会場

私は、初日におこなわれた開会式と分科会、二日目におこなわれた記念講演会以降のプログラムに参加したので、そのようすをレポートします。

分科会のようす

全国手話通訳問題研究会岡山県支部では、毎年独自に研修会を開催していて複数の分科会に分かれてそれぞれに学びを深めています。2024年は岡山県だけでなく中国地区中から参加者が集まる大きな研修会となりましたが、例年のノウハウを生かしながら以下の五つの分科会を設定。

第1分科会:入門講座「手話を学ぼう、手話で学ぼう」
第2分科会:健康「ストレッチと健康」
第3分科会:手話サークル「手話サークルの今2024」
第4分科会:くらし(防災)「みんなで学ぼう、防災のこと」
第5分科会:福祉「ろう者に通じる手話を学び広めていこう」

中国地区の防災で喫緊の課題といえば豪雨災害

私は、宮城県出身なので災害というと東日本大震災が記憶に新しいです。

2023年12月に関東から倉敷に移住してきましたが、自分の住んでいる地域で聴覚障がいのある私がどのようなことを備える必要があるのか把握していません。そこで、第4分科会:くらし(防災)「みんなで学ぼう、防災のこと~災害への備え、できていますか?自分たちにできることは何か、みんなで一緒に考えましょう!」に参加しました。

第4分科会は、以下の流れで進行しました。

・地域の取り組みを出し合おう
・防災についての知識を学ぼう
・グループワークで考えよう~マイ・タイムラインを作ってみよう~

まずは、グループごとに自分たちの暮らす地域ではどのような防災の取り組みがおこなわれているのか話し合います。

私のグループでは、倉敷市の聴覚障がい者に避難所で自分が聴覚障がい者だと知らせるバンダナが配布されている事例や、広島県で聴覚障がいのある当事者団体と手話サークルや要約筆記サークルなどが一緒に防災のための勉強会をしている事例などが、挙がりました。

他のグループでは、平成30年7月豪雨の被災者もおり、中国地区では特に豪雨災害への対策が喫緊の課題であることが共有されました。

マイ・タイムラインの提案

続いて、日本防災士機構の防災士である下山勝申(しもやま まさのぶ)氏を講師に招いて防災についての知識を深めます。

左:下山勝申(しもやま まさのぶ)氏、右:手話通訳者

下山氏曰く、人の心理的側面として、「自分は大丈夫」「今回は大丈夫」といった思い込みが強いほど災害時に逃げ遅れるそうです。一方で、自分の周りの人が避難する姿を見たり周りの人から避難を促されたりすると、人は動けます。そのため、周囲の人たちと協力して防災に取り組む必要性が示されました。

その具体例として挙がったのが「マイ・タイムライン」の作成。災害発生3日前から災害が発生する瞬間まで、自分たちがどのような行動を取れるのかを視覚的に整理していく方法です。

下山氏の話を受けて、グループごとに「マイ・タイムライン」の作成を始めました。

マイ・タイムライン

どのグループもモバイルバッテリーの用意やスマートフォンの充電を最重要視しているようす。電話の音声やラジオの音声を聴き取れない聴覚障がい者が多いので、ビデオ通話や文字・動画による情報収集、避難所内での筆談にもスマートフォンは欠かせませんよね。

このように最初は個人でできる行動ばかりに着目されがちでした。しかし、大きな模造紙にグループごとの「マイ・タイムライン」を作成していくなかで、「障がいのある人の避難状況を確認する人を決める」「近所にどんな要支援者がいるのか把握する」など徐々に周囲の人たちと共同で防災に取り組んでいく必要性を感じ始めます。

ご近所との関係が希薄な今、「手話サークル」単位で防災の提案

私のグループは、岡山市や倉敷市、広島県尾道市といった市制が置かれる比較的大きな街に住む人が集まりました。そのため、あまり「ご近所」という概念がありません。

一方で、今回の研修会は「手話研修会」ということもあり、手話サークルに所属している参加者が多くいました。ご近所同士と言われてもパッと頭に浮かばなくても、手話サークルの仲間を思い浮かべると「〇〇さんの避難状況は、確認したいな」「みんなと非常持出袋の中身を確認したいな」と、より具体的な相手が思い浮かびます。

このような参加者同士のやり取りに、下山氏からは「聴覚障がいのある防災士手話通訳のできる防災士が増えることで、より自分たちのニーズに合った防災の取り組みができるようになるのでは」との提案もありました。

実際に聴覚障がいのある防災士や手話通訳のできる防災士は存在するそうですよ。

記念講演のようす

二日目は記念講演から始まりました。

講師は、ドラマ「silent」やNHK Eテレ「みんなの手話」にも出演経験がある、手話エンターテイナー・役者・国際手話通訳など幅広く活動するろう者(聴覚障がい者)の那須映里(なす えり)さん。

ろう者が対等に生きられる社会とは、国際交流と国際手話、テレビドラマに出演して」という演題の元、那須さんの活動や経験と共に手話を学ぶ人たちに訴えたいことをろう者の視点からの講演です。

那須映里(なす えり)さん

那須さんは20代の女性ということもあり、初日以上に若い世代も多く会場に集まりました。会場を二か所に分け、一か所はライブ会場、もう一か所はオンラインでの配信が上映される盛況ぶり。

メイン会場への入場は朝8時45分から整理券の配布がありましたが、早い人は朝8時頃から並んで待っていたのだとか。私は受付開始とほぼ同時に会場に到着し、なんとかライブ会場入場の整理券をゲット。

国際手話の紹介

那須さんの講演ではまず、那須さんの留学や海外でのインターン経験などの話をもとに国際手話の紹介がありました。

音声による言語が国ごとに異なるように、手話も国ごとに異なります。音声言語は、植民地支配などの歴史的背景の影響もあり、中南米ではスペイン語、アフリカ諸国ではフランス語が公用語になっている国もあります。しかし、手話はそのような影響をあまり受けておらず、国ごとに手話があることがほとんどです。

では、手話を使う異なる国同士の人たちは、どのような言語でやり取りをするのでしょうか。音声言語だと、英語を採用することが多いかもしれませんが、手話では国際手話が採用されています。

国際手話はどの国の言語でもないという意味でも平等なサインですが、日本で生活している手話学習者やろう者にはまだ馴染みがありません。

会場後方には、モニターも設けられました

那須さん曰く、国際手話は言語ではなくサイン
単語の羅列のようなものなのだとか。そのため心情を表現する場面には向いていませんが、デフリンピック(聴覚障がい者のためのオリンピック)の中継や選手への指示など事実を伝える場では、世界各国共通のサインとして用いられているそうです。

来年(2025年)は、日本でデフリンピックが開催されます。聴覚障がいのある観光客も世界各国から訪れることが予想されるので、ホスト国として国際手話にも関心をもちたいと思いました。

ろう者の活躍が手話通訳者の活躍につながる

休憩を挟んで、後半は手話エンターテイナー・役者・国際手話通訳など幅広い分野で活躍する那須さんから、その場面で求められている役割で手話の表現方法を変えているというお話がありました。

手話エンターテイナーや役者は「演技」をするために感情を豊かに表します。一方で、国際手話通訳の場面は「通訳」することが目的のため、感情は入れずに事実を通訳していくそうです。長時間一人で手話表現をする際には腕の負担を減らすために、表現を大きくしすぎないなどの調整もしているとのこと。

このように那須さんがろう者として社会参加していくために欠かせない存在が、手話通訳者です。

感情表現が必要となる場面では特に、スタッフとの入念な打ち合わせが必要ですし、ドラマ撮影の現場はさまざまな音情報が行き交うため手話通訳なしで仕事をすることは難しいと言います。

日ごろ自分を支えてくれる手話通訳者へ感謝の想いと同時に「ろう者が社会で活躍することで、手話通訳者の仕事もどんどん増えていく。だからこそ、対等な社会を実現していくべく、ろう者と手話通訳者が手を取り合っていくべきだ」と語りました。

講演後、オンライン会場の参加者とも交流する那須さん
那須さんの手話を音声日本語へ読み取り通訳するスタッフ

私も聴覚障がいがあるので、公私ともに手話通訳を依頼する機会が日常的にあります。

そのような場面では「通訳をしてもらっている」という感謝と、通訳者が忙しいなか私のために時間を割いてくれているという申し訳なさのような気持ちを感じています。

しかし那須さんの話を聞いて、私が手話通訳を依頼することで手話通訳者の仕事が増えたり手話通訳者の技術向上に貢献できたりするのかもしれない、と気付きました。

これから手話通訳を依頼するときは受け身ではなく、通訳者と共に表現を磨いたり通訳者が活躍できる場面を一緒に考えていったりすることも視野に入れて通訳を受けたい、と思える貴重な学びとなりました。

手話学習初心者から手話を生活言語とするろう者までが一堂に会した研修会

今回の手話研修会は、手話通訳者だけでなく手話学習初心者から普段の生活で手話を用いるろう者まで、さまざまな立場の人が集いました。私にこの研修会の存在を教えてくれた人も、手話学習を始めて間もない初心者です。

初日の分科会会場も、手話学習初心者、手話通訳者、ろう者がともに手話を用いての学びを深めました。もちろん手話の技術には個人差がありますが、参加者同士が円滑なコミュニケーションを取れているか実行委員が細やかに気配りして必要に応じて実行委員が通訳をしたり、参加者同士で通訳をしたりする姿が多く見られたことも印象に残っています。

会場は、音声・手話・要約筆記と情報保障が整備されていました

手話には方言もあるので、同じ中国地区の参加者同士でも初めて見る表現があります。お互いに「〇〇ってどういう意味?」と尋ね合いながら地域特有の表現を教え合い「これって方言だったんだ!」と驚く姿もありましたよ。

おわりに

普段の生活ではなかなか手話をする人に出会う機会がありませんが、会場に入りきらないほど手話に関心のある人が集う会場を見て新鮮な気持ちになりました。

2024年10月18日(金)~20日(日)は倉敷市を会場に第54回全国ろうあ女性集会、2025年夏には日本でデフリンピックが開催されます。岡山県だけでなく中国地区の手話に関係する人たちが顔見知りになり交流を深めた本研修会をきっかけに、手と手でつながる仲間の輪がさらに広がっていってほしいと思います。

2025年の中国地区合同手話研修会は、お隣の広島県で開催予定だそうですよ。

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