百田夏菜子「ビタミンB」これで “ももクロ” はメンバー全員がソロアルバムをリリース!
ももクロのリーダー百田夏菜子のソロアルバム「ビタミンB」
2025年2月12日、ももいろクローバーZのリーダー、百田夏菜子のファーストソロアルバム『ビタミンB』がリリースされた。グループとしての活動だけでなく、メンバーの積極的なソロ活動も、ももいろクローバーZの特徴のひとつだ。
ソロ活動の先鞭を切ったのは高城れに。彼女が2015年にソロコンサートをスタートさせたのを皮切りに、翌2016年には有安杏果と佐々木彩夏もソロコンサートを行い、多くのファンに支持され大成功を収めた。また、有安杏果は2018年1月にグループを離れ、その後ソロ活動に専念することになる。その意味で彼女のソロ活動はグループ卒業へのステップとなったが、高城れにと佐々木彩夏の場合は、その後もももいろクローバーZの活動を主体としながら、ソロコンサートも継続していくというスタイルをとっている。
ソロ活動を続けることによってソロ曲が増えたメンバーがアルバムを発表する動きも生まれ、有安杏果の『ココロノオト』(2017年)、佐々木彩夏の『A-rin Assort』(2020年)、高城れにの『れにちゃんWORLD』(2021年)と、それぞれがソロアルバムを発表した。
メンバー全員がソロアルバムをリリース
こうした動きに対して、メンバーの中でも玉井詩織と百田夏菜子は、単独でドラマや映画に出演するなどの活動はあったが、ソロコンサートには前向きではなかった。しかし、コロナ禍によるコンサートの自粛などの動きが緩和されつつあった2021年10月17日に百田夏菜子が『Talk With Me 〜シンデレラタイム〜』と題するコンサートを敢行する。そこには、リスナーと直接会うことが出来ない期間を体験した百田夏菜子の危機感も反映されていたのではないか。そして、当初1回限りかもしれないと言われていたソロコンサートは、その後も継続されるようになった。
最後までソロコンサートを行ってこなかった玉井詩織も2024年にソロアルバム『colorS』を発表。それに伴ってコンサート『いろいろ』を開催したのをきっかけにソロでのライブ活動が活発化。ここに来てメンバー全員がソロコンサートを行う動きを見せるようになっている。こうしてメンバー全員がソロコンサートを継続するとともに、百田夏菜子が『ビタミンB』を出したことによって、ももいろクローバーZはメンバー全員がソロアルバムをリリースしたことになった。これだけ積極的にソロ活動を展開しているアイドルグループというのは、あまり前例がないのではないか。
不思議なテイストがある百田夏菜子のステージ
さらに興味深いのは、メンバーのソロコンサートがももいろクローバーZとしてのステージとはかなり違う表情を持っていること。しかもそれぞれのステージがまさに4人4様と言えるほど異なる個性を見せていることだ。
例えば、高城れにのステージが積極的にファンと寄り添おうとする温もりと優しさにあふれたものであるのに対し、佐々木彩夏のステージはゴージャスなミュージカルのように緻密に演出されたショーの醍醐味を感じさせるものだ。また、玉井詩織のステージは、よりストレートに音楽に向き合ったミュージシャンのテイストが伝わってくるものになっている。
そして百田夏菜子のステージは、ファンタジックさを感じさせながら、プライベートな彼女の想いを垣間見させてくれるような不思議なテイストがある。そして、ステージを重ねるごとに、そこによりポップな楽しさやドライブ感などのダイナミズムが加わり、見ごたえのあるものになっている。こうしたソロコンサートのニュアンスの違いは、ソロコンサートのプロデュースをメンバー自身が行っていることが大きな要因だろう。
気志團の綾小路翔が書き下ろした「惚れたが勝ちの I LOVE YOU」
そうしたテイストの違いはそれぞれのソロアルバムからも感じさることができる。アルバム『ビタミンB』に収録されているのは全13曲。気志團の綾小路翔が書き下ろした「惚れたが勝ちの I LOVE YOU」や、ナオト・インティライミが提供した「わかってるのに」なども目を引くが、なによりこのアルバムの特徴と言えるのが13曲中8曲の歌詞を百田夏菜子自身が書いていることだ。その意味で『ビタミンB』は多分にシンガーソングライターのアルバムなのだ。
彼女が詞を書いている曲には「それぞれのミライ」「ひかり」「今日の君へ」など、自分の内面を見つめながら前を向こうとしているもの、そして「クリスマスしよ♡」のようなかわいらしさにあふれたものもあれば、生きることの葛藤を感じさせる「未知数」や、人を傷つける悪意に対する怒りを込めた「Doubt」のように、“明るい百田夏菜子” といったイメージとは真逆な、これまで彼女が見せなかった面を感じさせる曲もある。
こうした百田夏菜子のパーソナルな匂いを良い意味でポップにコーティングしているのが1曲目に置かれた「惚れたが勝ちの I LOVE YOU」だ。サルサのリズムに乗せて、終戦直後に大流行した並木路子の「リンゴの唄」からキャンディーズ、山口百恵、松田聖子、ビューティ・ペアなどのヒット曲のエッセンスをまぶしながら、ポジティブな人生観を歌い上げる歌謡テイストナンバー。下世話なインパクトにあふれていながらも、その奥に真っすぐな人生観が貫かれている。まさに綾小路翔ならではのメッセージソングであり、百田夏菜子への深いオマージュを感じさせる曲だ。
メッセージと楽しさを同時に感じさせてくれるアルバム「ビタミンB」
これとは逆の形で百田夏菜子の新境地を引き出しているのが「わかってるのに」だ。「♪わかってるのに」という言葉を繰り返しながら言葉の表情を変化させていくこの曲は、百田夏菜子自身の口癖から生まれたもので、2021年のファーストソロライブから歌われていた。今回のレコーディングではナオト・インティライミがボーカル・ディレクションを行い、リビングのソファの前にマイクを置き、スタジオとはまったく違う環境でより自然で深い彼女の感情を引き出している。
この他、ハードロック仕様の「ビタミンB」、リゾート気分の「熱帯夜Fantagy」などの個性的な曲も収められて、シンガーソングライターのアルバムであると同時に、バリエーション豊かなバラエティアルバムにもなっている。まさに『ビタミンB』はメッセージと楽しさを同時に感じさせてくれるアルバムなのだ。
と、ここまで書いてきて気づいた。アルバムとしての表情は確かに違うのだけれど、このアルバムから伝わる感覚は、まさにこれまで、ももいろクローバーZのアルバムから感じてきたものと通ずるということを。そういえば、少し前のラジオで小坂大魔王が “百田夏菜子こそがももクロなのだということがわかるアルバム” というニュアンスの発言をしていたけれど、まさにその通りだ。
百田夏菜子、玉井詩織、佐々木彩夏、高城れにが、ソロアルバムやソロコンサートで表現しているものは、各人がグループで見せる表情とは違っている。けれど、彼女たちはももいろクローバーZと違うものを目指している訳ではない。ももいろクローバーZをより活性化させていくために、そのピースである自分たちがそれぞれの武器を磨くことで、グループを次のステップに進めていこうとしているのではないだろうか。
だから、こうしたメンバーのソロ活動を、グループの活動とは別物や反動と考えるのではなく、ソロ活動も含めたトータルな動き全体がももいろクローバーZの活動なのだと捉え、俯瞰で見ていくことによっていろいろと楽しい発見ができる。そんな気がしている。
ちなみに『ビタミンB』というタイトルは、ももいろクローバーZのテレビ番組で “ニュートンがリンゴで発見” という問いに対して、百田夏菜子が “ビタミンB” と答えたというファンの間では有名なエピソードに由来するもの。人々を引き付ける引力のような魅力をもったアルバムでありたいという思いもこめられている。