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【居所不明児童】の現実 自身も不登校・深夜徘徊をした〔児童文学作家〕が描く「居所不明児童たち」の絶望と希望

コクリコ

【居所不明児童】の現実 自身も不登校・深夜徘徊をした〔児童文学作家〕が描く「居所不明児童たち」の絶望と希望

「居所不明児童」の現実を知り、5年ほどの歳月をかけて書き上げた『少年と悪魔』。著者である児童文学作家の佐藤まどかさんに、その執筆背景や自身の少女時代を振り返りながら、本に込められた思いをお話しいただきました。

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住民登録はあるけれど、自治体がその居住実態を把握できない「居所不明児童」やそもそも戸籍がない、また育児放棄や虐待、毒親に苦しめられているといった境遇にある子どもたちがいます。彼らは、親や家庭、学校に問題を抱え、家出や深夜徘徊、ひいては犯罪に巻き込まれ行方不明になってしまうケースも少なくありません。

児童文学作家の佐藤まどかさんは、とある「居所不明児童」だった青年に出会ったことをきっかけに、こうした子どもたちのことを書きたいと思い、5年近い構想と執筆の時間をかけて三部作の第1作『少年と悪魔』を刊行しました。この長い執筆期間の背景には、彼らの実態を知るほどに絶望してしまうような現実があったからだといいます。

今回、「居所不明児童」の物語を描いた『少年と悪魔』の執筆の背景について、自身の少女時代を振り返りながら、本に込められた思いをお話しいただきました。 

佐藤まどか
児童文学作家
『水色の足ひれ』(第22回ニッサン童話と絵本のグランプリ童話大賞受賞・BL出版)で作家デビュー。主な著書に『スーパーキッズ 最低で最高のボクたち』(第28回うつのみやこども賞受賞)『ぼくのネコがロボットになった』『リジェクション 心臓と死体と時速200km』(以上、講談社)、『セイギのミカタ』(フレーベル館)、『つくられた心』(ポプラ社)、『一〇五度』(第64回青少年読書感想文全国コンクール中学生部門課題図書)『アドリブ』(第60回日本児童文学者協会賞受賞)『世界とキレル』(いずれも、あすなろ書房)など。イタリア在住。日本児童文学者協会会員。季節風同人。

「居所不明児童」の存在を知る

数年前、たまたま居所不明児童だった青年のことを知りました。

お父さんから虐待され、ホームレスにまでなったのに、お父さんから離れられず、お父さんが亡くなったときには号泣した少年。彼にとってお父さんは絶対的な存在だったのです。そんな厳しい子ども時代を経て立派な大人になった彼の話を聞いて感銘を受け、同じような境遇の子どもたちがどのくらいいるのか、調べました。

育児放棄をする無責任な親や毒親に苦しめられている子どもたち。居所不明児童や国籍のない子どもたち。家出をしたまま社会の闇に紛れていく子どもたち。彼らの小さな叫び声は届かずとも、社会の表舞台からそっと消えていく子どもたちはたくさんいます。

出版社の方々と雑談をしていて、こういう子どもたちのことを書きたいと宣言してから、三部作の第1作『少年と悪魔』を書き始めるまでに、5年近い年月が過ぎました。時間がかかった理由は、現実を知れば知るほど深刻な問題であることがわかって、絶望したからです。

不登校になり、深夜徘徊した少女時代

私自身、少女時代に家庭や学校の問題を抱えていました。不登校になり、夜中に家を抜け出して新宿や渋谷で深夜徘徊をしたことがあります。家出もしました。40年以上も前のことですから、まだトーヨコキッズという存在がなかった時代です。でも、居場所がないと感じる子どもたちは、当時もたくさんいました。

未成年の深夜徘徊の一斉補導で、新宿警察署に連れていかれたこともあります。そのときは、明け方に母が迎えに来てくれたことや初めて補導されたことなどから、もう二度と深夜徘徊をしないことを約束に、学校には連絡せずに帰してもらうことができました。そのときの警察の方の話によると、深夜徘徊で補導された子どもを迎えに来る親はほとんどいない、とのことでした。

ちなみに、令和5年における全国の不良行為少年(犯罪少年、触法少年及び虞犯少年には該当しないが、飲酒、喫煙、深夜はいかいその他自己又は他人の徳性を害する行為をしている少年をいう)の補導人員は32万1689人(前年比8.3%増)で、そのうち深夜徘徊が16万5973人(51.6%)、喫煙9万7698人(30.4%)と多く、この2つの理由が補導人員総数の約8割を占めたそうです(警察庁生活安全局の資料による)。

私はそれっきり深夜徘徊や家出をやめることができたのですが、あのまま繰り返していたら、いずれは本当の悪の道──麻薬や、売春や、盗難などを始めていたかもしれません。

生まれながらに「不良」の子どもはいない

私の家庭は確かに複雑でしたが、それまで私の存在をすっかり忘れて病弱の兄にかかりきりだった母が「そういえば自分には娘もいるんだった」と思い出して迎えに来てくれたのは、救いでした。そしてなによりも、私自身に夢ができて、それに向かって突進し始めたことが、危ない道から抜け出せた最も大きな理由だったと思います。

しかし、補導された子どもたちのなかには、家に帰されてからも虐待が続いたり、善人ぶった大人に保護されたと思ったら売春や麻薬を強要され、さらなる地獄に落ちていく子も少なくありません。

生まれながらにして不良の子どもはいません。私自身の経験からも、それは確信できます。生まれたときは、みんな無垢な赤ちゃんなのです。絶望的な環境で育っても、あなたは道を踏み違えない自信がありますか? どんなにひどい親でも、尊敬し、愛することができますか?

遠い国の話ではなく、いまここで起きていること

絵:いとうあつき(『少年と悪魔』装画より引用)

戸籍がそもそもなかったり、親の都合で国内を転々として居所不明児童になり学校にも通えなくなったり、ホームレスになったり、虐待されて家出をしてそのまま行方不明になる子どもはたくさんいます。虐待されて亡くなる子もいます。

親や保護者、同居人からスリ、置き引き、ひったくり、売春などの犯罪行為をさせられたり殴られたりしても、親から遠ざかれない子どもたちがいます。彼らが孤独だからです。彼らは、そういった憎むべき親しか頼れない、と感じているからです。子どもには愛が必要なのです。彼らは、本当は助けてほしくて、「ぼくたちはここにいる!」と叫びたいのではないでしょうか。

そんな子どもたちのことを「ニュースで見る問題児たち」という遠い存在としてではなく、彼らひとりひとりの人生を浮き彫りにしたくて、物語を書きました。

書いている最中、胃がキリキリ痛みました。書いては中断し、書いては中断しました。あまり生々しい表現にすると児童書としてふさわしくないため、その調整にも大変時間がかかりました。知った途端に吐きたくなるような事実がたくさんありますから。

こういう子どもたちの人生は、胃に痛みを感じながら書き、読む必要があると思います。「あら、かわいそうな子がいるのねえ」などと軽く流してはいけない、壮絶な事実がたくさんあるのです。そして、救われた子どもたちもたくさんいます。そこに、希望も感じました。

ずいぶん時間がかかってしまいましたが、彼らひとりひとりの人生の例を、少年Aや少女Bではなく、名のある少年や少女の物語として、知っていただければ幸いです。

『少年と悪魔』

『少年と悪魔』 佐藤まどか 作/いとうあつき 絵

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