【高知家の後継者募集】オーシャンビューの絶景ポイントに立つ喫茶店を引き継ぐ 高知県須崎市野見湾を望む「海の見える オフタイム」
緑の半島に囲まれた海面が陽光に蒼く輝く。池のようにも見える湾内には、養殖の小割が浮かび、時折小舟が行き交う。
ここは高知県の中西部、須崎市の野見湾を望む半島。絶景のビューポイントに立つ喫茶店からの風景だ。
店の名は「海の見えるオフタイム」。
海側は全面が大きな窓になっており、どの席からも風光明媚な野見湾の自然が楽しめる。
テラスに出ると、小鳥たちのさえずりが聞こえ、爽やかな海風が通り過ぎていく。
オフタイムは、オーナーの竹林幸子さん(77)が妹の小笠原香代さん(75)と共に開業した店。
竹林さんは、持ち帰り弁当のチェーン店を5店舗切り回す敏腕経営者だったが、夫の幹矩(つねのり)さんの介護のために、10年ほど前に全店舗を売却した。
幹矩さんを看取った後、「もう一度、何か事業を」と一念発起、須崎市街地で長い間、「オフタイム」という喫茶店を経営していた小笠原さんを誘ったという。
今の店舗はもともと竹林夫妻が住居用に建築していたもの。幹矩さんがこの地域の出身だったこともあり、「海の見える住居」にこだわった洒落たデザインの家にしつらえていた。
厨房などを設置するなど喫茶店仕様にすれば、すぐに立派な店舗に生まれ変わることができた。
こうした経緯から、「海の見えるオフタイム」として3年前に新装オープンしたわけだ。
「老後の楽しみにゆったり経営していこう」と、PRは全くしていなかった。
メニューは「日替わりランチ」のみで、完全予約制というやり方だったにもかかわらず、景色の素晴らしさと料理の美味しさが瞬く間に浸透、口コミやSNSで評判はすぐに広がっていった。
「私たちは何にもしていませんが、お客さんが、写真を撮ってSNSで発信してくれるんです。市外や県外からのお客さんが本当に多かったんですよ」
土日の営業日は予約でいつも満杯に。飛び込みで来る遠方のお客さんもおり、無理を言って詰めてもらったりしたが、それでも入らない時は、「お断りするのが本当に苦痛でした」と繁盛ぶりを振り返る。
ただ、竹林さんも寄る年波には勝てず、病気を患ったこともあり、「押し寄せるお客さんに対応できなくなってきた」そう。
このため、今のうちに身を引こうと決断。今春、すっぱりと店を閉めた。
ただ、「お客さんが喜んでくれるこの環境を誰かが引き継いでくれたら嬉しい」という思いもあり、全国に引き継ぎ手を呼び掛けることに決めたという。
喫茶店は木造平屋建て約80平方メートル。テーブルの配置にもよるが、15人前後は入れるスペースがある。
また、もともと住居だったため、居住用の部屋と風呂も完備。厨房は改装したばかりなので新しい。
乗用車6台収容の駐車場を完備。店舗につながる小道や壁には、線路の枕木を使うなどエクステリアにもこだわっており、海の見える景色と見事にマッチしている。
「思い出は楽しいことばかり。みんな喜んで下さって、幸せになって帰ってくれる。それがすごく嬉しくて、やりがいがありました。私たちは引退しますが、ぜひ店を未来に残してほしいです」
店の窓側の斜面には、麒麟桜が植栽されており、毎春ピンク色の美しい花を咲かせ、お客さんの目を楽しませていた。
ただ、閉店を決めた今年の春には、なぜか枯れてしまったのだそうだ。
姉妹の店の閉店と共に咲くのをやめた桜花。次の承継者が新たな夢をこの地に植栽し、喫茶店から見える絶景に彩りを添えてほしい。
店舗情報
海の見える オフタイム
高知県須崎市野見 字南山131-12
経営は上手く行っているのに、後継者がいないために廃業せざるを得ない――そんな悩みを持つ企業が全国的に激増し、大きな社会問題になっている。
高齢化先進県である高知県は全国に輪をかけて、事業承継の課題が山積している。
「県内での事業承継を少しでも増やしたい」。このコーナーは、事業を譲りたい人と受け継ぎたい人を繋ぐ連載です。
高知県事業承継・引継ぎ支援センター
電話:088-802-6002
メール:kochi-center@kochi-hikitsugi.go.jp
担当:野本、谷