東京のど真ん中から新種発見? 皇居に隣接する北の丸公園で<カワモズク科>の藻類が見つかる
日本で最も人口密度の高い東京都。
都心部では著しく都市化が進んでおり、一見して生物の多様性は低いと思われがちです。
しかし、東京23区の中心に位置する皇居は動植物の多様性が高いことが知られ、過去に行われた調査で多種多様な動植物が発見されています。
現在、国立科学博物館が実施している第3期調査でも、皇居の生物多様性の高さが確認されており、その比較として行われた調査では皇居に隣接する「北の丸公園」から新種のカワモズク科が発見されました。
淡水域に生育する<カワモズク>
カワモズク科藻類は河川や湖沼に生息する淡水紅藻の一群です。この一群は世界で約240種が知られ、日本では23種1変種1品種が生育すると言われています。
見た目は日本で広く食用とされているナガマツモ科の褐藻であるモズク類に似ますが、両者は異なる一群です。
また、カワモズク科の多くは生存に湧水かそれに近い澄んだ水流が必要ですが、近年の都市化による湧水の消失や水質汚染などにより絶滅の危機に瀕しています。
環境省のレッドリスト2020にも多くのカワモズク科が掲載されています。
皇居は生物多様性が高い
東京は都心化が著しく進んでいる地域ですが、その中心に位置する皇居は多種多様な動植物が生息していることが知られています。
皇居では国立科学博物館がこれまでに2回、吹上御苑で動植物相の調査を行っており、第1期調査(1996~2000年)では1366種の植物と3638種の動物を記録。第2期調査(2010~2014年)では新たに250種の植物と649種の動物を追加しました。
これらの中には、環境省のレッドデータで絶滅危惧Ⅰ類に分類されるカワモズク科のイシカワモズクを含む12種の絶滅危惧種を含んでおり、吹上御苑で豊かな自然環境が維持されていることを示しています。
北の丸公園でカワモズク科を発見
国立科学博物館が現在実施している第3期調査(2021~2025年)では、豊かな自然環境が維持されている吹上御苑と比較するため、同じく旧江戸城跡地である北の丸公園(1969年の開園以降一般公開されている)も並行して調査が行われています。
2023年4月14日、初めて北の丸公園で実施された藻類相の調査では、園内の人工的に設置された滝の滝壺からカワモズク科の胞子体世代が滝壺の岩を覆うように生育しているのを発見。DNA解析を行ったところ、発見されたカワモズク科の藻はチャイロカワモズク属の未記載種であることが判明しました。
本種は旧江戸城北の丸の跡地に生育することから、和名をキタノマルカワモズク、学名をSheathia yedoensisと命名。本種は東京都で初めて新種となったカワモズク科藻類であり、今のところ国外に分布記録がない日本固有種だそうです。
北の丸公園の人工的に管理されている特殊な滝の環境が、キタノマルカワモズクの定着および生存に大きな役割を果たしていると考えられています。
また、キタノマルカワモズクについてはまだわかっていないこともあり、今後もモニタリングを実施するとのことです。
都会で発見された新種
このように都市の真ん中である北の丸公園から、新種の藻類が発見されたという事実は驚くべきことだといいます。
新種というと深海や秘境などから発見されるイメージがありますが、意外にも普段、我々の生活に身近な場所に未記載種がいるのかもしれませんね。
(サカナト編集部)