最大の功績者は松田聖子? アイドルの歌う “冬ソング” が80年代に急増した理由
歌謡ポップスチャンネル「Re:minder SONG FILE」vol.6〜 80年代アイドル冬ソング
オリコンでトップ10入りした70年代アイドルの冬ソング
2024年7月にスタートした歌謡ポップスチャンネルの『Re:minder SONG FILE』。その第6弾が12月25日(水)に放送される。お題は “80年代アイドル冬ソング”。但し、クリスマスソングは除くというものだ。
思えば、アイドルが歌う冬ソングが格段に増加し、様々な形に発展したのが1980年代であった。アイドル歌手の第1号と言われる南沙織がデビューしたのは1971年だが、それからおよそ10年を経て多様化したことになる。なぜそれほど時間がかかったのか。筆者は3つの理由があると考えている。
①「夏」は出会いや恋、「冬」は別れや孤独の季節という固定観念が歌謡曲の世界に根強くあり、疑似恋愛の対象であるアイドルに「冬」はそぐわなかった。
② 1970年代のアイドルは20歳までにピークアウトするケースがほとんどで、その後は路線を変更するか、歌をやめて俳優に転向する選択肢しかなかったので、別れを歌える年齢になる頃にはアイドルを卒業していた。
③ 1970年代はウインタースポーツやアミューズメントパーク、海外リゾートなど、冬に楽しめるレジャーが普及しておらず、“ボーイ・ミーツ・ガール” や “恋のときめき” を主テーマとするアイドルソングの舞台になりにくかった。
見落としがあればご容赦いただきたいが、オリコンでトップ10入りした70年代アイドルの冬ソングは以下のとおり。
▶︎ 小柳ルミ子「雪あかりの町」(1972年 / 最高5位)
▶︎ 小柳ルミ子「冬の駅」(1974年 / 最高1位)
▶︎ アグネス・チャン「愛の迷い子」(1974年 / 最高2位)
▶︎ 山口百恵「冬の色」(1974年 / 最高1位)*但し、歌詞では “冬” を歌っていない
▶︎ 伊藤咲子「木枯しの二人」(1974年 / 最高5位)
▶︎ 山口百恵「白い約束」(1975年 / 最高2位)
▶︎ 桜田淳子「ゆれてる私」(1975年 / 最高5位)
▶︎ 野口五郎「針葉樹」(1976年 / 最高2位)
▶︎ 山口百恵「初恋草紙」(1977年 / 最高5位)
▶︎ 西城秀樹「遙かなる恋人へ」(1978年 / 最高8位)
冬を示す言葉が登場しない郷ひろみ「寒い夜明け」(1975年 / 最高5位)、流れゆく季節を歌う太田裕美「木綿のハンカチーフ」(1975年 / 最高2位)、「♪もうすぐ春ですね」と歌うものの冬ソングとは言い難いキャンディーズ「春一番」(1976年 / 最高3位)、複数の季語が登場する山口百恵「いい日旅立ち」(1978年 / 最高3位)などは除外しているが、ほとんどが切ない想いや悲恋を描いたマイナー調の楽曲。ヒットの数は春ソングや夏ソングに比べるとかなり少ない。
それは冬をテーマにしたアイドル歌謡がそもそも成立しづらかったことに加え、冬の歌がリリースされる11月から12月はいわゆる賞レースと時期が重なり、プロモーションが手薄となりがちだったこともヒットが少ない要因と言えよう。音楽祭にはその年の代表曲でノミネートされるため、冬ソングが歌われる機会が少なくなるからだ。
アイドルの冬ソングの可能性を広げた松田聖子の功績
だが、松田聖子が登場した1980年以降、その事情が変わっていく。アイドルの寿命は延び、冬のレジャーが普及し、賞レースの比重は低減していった。そのことがアイドルの冬ソングの可能性を広げたわけだ。だいぶ前置きが長くなった。ここからは番組でオンエアされる13曲を紹介したい。いずれも1980年代の歌謡界で特筆すべき足跡を残したアイドルと、アイドル冬ソングの多様化を示す楽曲である。
まずはやはり松田聖子。彼女の功績はいくつもあるが、ここでは “20歳以降もアイドルとして活躍できる道を作ったこと” と “冬を舞台にしたアイドルソングの可能性を広げたこと” を挙げておきたい。前述のとおり、70年代アイドルの冬ソングはシリアスなものが主流だったが、松田聖子は明るく弾けたポップスでも冬ソングが成り立つことを実証した。
彼女の冬ソング第1号は、恋する気持ちをいじらしく歌ったオールディーズ調の「Eighteen」(1980年10月 / 風は秋色との両A面)。続いて、秋と冬の歌のみで構成されたセカンドアルバム『North Wind』(1980年12月)がチャートの1位を獲得したことで新たな地平を開拓する。スキー場での恋を描いたオープニング曲「白い恋人」はその幕開けを告げるナンバーと言えるだろう。
その後も、「冬の妖精」「December Morning」(1981年10月 / アルバム『風立ちぬ』収録)、「愛されたいの」(1982年10月 / 野ばらのエチュード カップリング)、「真冬の恋人たち」(1982年11月 / アルバム『Candy』収録)、「Please Don't Go」(1987年11月 / アルバム『Snow Garden』収録)、「冬のマリーナ~潮風に乗せて」(1989年12月 / アルバム『Precious Moment』収録)など、あまたの冬ソングを80年代に発表する聖子だが、今回はシングルA面の「ハートのイアリング」(1984年11月)をセレクトした。
作曲にHolland Roseこと佐野元春を迎えた同曲は、フィル・スペクター風のウォール・オブ・サウンドに乗せた失恋ソング。一遍の映画を観るようなストーリー性のある歌詞は聖子ワールドの構築に大きく貢献した松本隆ならではだが、本作を収録したアルバム『Windy Shadow』(1984年12月)をもって松本はいったんプロェクトから離れることとなるため、聖子自身にとっても節目の曲となった。
ハイセンスな作品群で独自のポジションを確立した岩崎良美
その松田聖子と同期で、やはりアイドルポップスに革命を起こしたのが岩崎良美。デビュー曲「赤と黒」(1980年2月)から3作続けてSHŌGUNの芳野藤丸が作曲を手がけ、その後も南佳孝、尾崎亜美、加藤和彦など、シティポップ系のソングライターによるハイセンスな作品群で独自のポジションを確立する。冬の街で浮き立つ恋心をリズミカルに歌う「I THINK SO」(1980年12月)は1978年にシンガーソングライターとしてデビューした当時24歳の網倉一也が作曲を担当。職業作家中心だった70年代アイドルの冬ソングとは一線を画すポップスで、新時代の到来を予感させた。
80年組からはもう2人、浜田朱里と河合奈保子もレコメンドしたい。松田聖子と同じCBS・ソニー(現:ソニー・ミュージックレコーズ)から1980年6月にデビューした浜田は南沙織、郷ひろみ、山口百恵らをスターにした酒井政利がプロデュース。“ポスト百恵” の最右翼として売り出されたこともあり、愁いを帯びた作品が続いたが、サードシングルの「青い花火」(1981年1月)もキャッチーなサビから始まるマイナーアップテンポの冬ソングだ。残念ながら大きなヒットには至らなかったものの、少女の秘め事を花火になぞらえた三浦徳子の詞は百恵の初期の性典路線を思わせるセクシャルな世界観。そういう意味では70年代アイドルに通じる佳曲と言える。
河合奈保子の歌の世界が海外まで広まった「北駅のソリチュード」
その「青い花火」を作曲した馬飼野康二の楽曲「大きな森の小さなお家」(1980年6月)でデビューした河合奈保子は2年ほど王道路線を歩んだのち、シンガーソングライター(竹内まりや、来生たかお、尾崎亜美ら)から提供されたガーリーな路線と、作詞:売野雅勇、作曲:筒美京平コンビによる挑発路線を並行して展開。冬を歌ったシングル曲では70年代歌謡のテイストを残す「愛してます」(1980年12月)と、パリ北駅における悲恋を歌った「北駅のソリチュード」(1984年12月)、外国人作家を起用した「THROUGH THE WINDOW~月に降る雪」(1985年12月)があるが、今回は歌の世界が海外にまで広がったことを示す1曲として「北駅のソリチュード」をお送りする。
ちなみに、「愛してます」は横浜の港が舞台。桜田淳子「追いかけてヨコハマ」(1978年2月)や木之内みどり「横浜いれぶん」(1978年2月)、太田裕美「ドール」(1978年6月)など、70年代アイドルのご当地ソングで横浜が圧倒的に多かったのは“外国への旅情をかき立てるオシャレな港町”というイメージがあったからだろう。
1980年代に入って海外旅行が高嶺の花でなくなると、外国を舞台にしたポップスが増えていくが、伊藤つかさ「横浜メルヘン」(1982年11月)と、シブがき隊「Gジャンブルース」(1982年10月 / ZIG ZAGセブンティーンと両A面)は歌の世界における斜陽期を迎えた横浜をテーマにした冬ソングだ。当時、夫婦だった庄野真代(作詞)と小泉まさみ(作曲)が手がけた前者は名曲「赤い靴」をモチーフにしたセンチメンタルな歌謡曲。一方、横浜弁の “いいじゃん” と “Gジャン” の語呂合わせが印象的な後者は評判がよかったことから途中でA面扱いとなり、TBS系『ザ・ベストテン』にもランクインを果たしている。
中森明菜の緩急自在のボーカルがすでに完成している「白い迷い(ラビリンス)」
シブがき隊と同じ82年組からはあと2組、中森明菜と小泉今日子の冬ソングも紹介したい。中森明菜はサードシングル「セカンド・ラブ」(1982年11月)が該当するイメージがあるが、冬と特定できるワードがなく晩秋とも解釈できるため、今回は同じ来生えつこ(作詞)・来生たかお(作曲)姉弟から提供された「白い迷い(ラビリンス)」(1984年10月 / アルバム『POSSIBILITY』収録)を選曲した。彼女は当時19歳。心のひだをAメロでは繊細に、サビではエモーショナルに歌い上げる緩急自在のボーカルがすでに完成していることが窺える。
そして小泉今日子はスコットランドの荒涼とした景色を想像させる「木枯しに抱かれて」(1986年11月)。ケルト音楽調のサウンドに乗せて片想いの切なさを歌った本作は多くのアーティストにカバーされ、今では冬の定番曲となった。バグパイプに聴こえる音色は今剛が演奏したギターにエフェクトをかけたものだというから、放送でじっくり聴いていただきたい。
南野陽子のウィンターアルバムに収められた「リフトの下で逢いましょう」
続いて84年組からは荻野目洋子「北風のキャロル」(1987年10月)、85年組からは南野陽子「リフトの下で逢いましょう」(1988年12月 / アルバム『SNOWFLAKES』収録)をお届けする。
前者は映画『アメリカン・グラフィティ』的世界観を得意とする売野雅勇(作詞)とヒットメーカー・筒美京平(作曲)が組んだ作品を新川博(編曲)がソフィスティポップ調に仕上げたノスタルジックなダンスチューン。後者は南沙織から始まる “四季折々の情景を交えた私小説的なアイドルポップス” を得意とするCBS・ソニーのDNAを受け継ぎ、1980年代後半のソニーを支えた南野陽子のウィンターアルバムに収められた1曲だ。
本人もお気に入りのナンバーで、テレビでも複数回披露。当時は映画『私をスキーに連れてって』(1987年11月公開)のヒットも手伝いスキーブームが到来していたが、ゲレンデにおけるカップルを描いた本作は時代を反映した冬ソングと言っていいだろう。
おニャン子クラブの冬ソングといえば新田恵利「冬のオペラグラス」
さて、80年代アイドルを語るうえで欠かせないのが1985年に登場したおニャン子クラブだ。河合その子やうしろゆびさされ組を筆頭に、メンバーからソロやユニットのデビューが相次ぎ、空前の社会現象を巻き起こすが、彼女たちの冬ソングといえばやはり新田恵利「冬のオペラグラス」(1986年1月)に尽きる。“新田ちゃん” の愛称で親しまれた飾らない笑顔で冬の恋をあっけらかんと歌う彼女にはそれまでのアイドルにはない輝きがあった。
その新田恵利と同じ1986年にデビューした西村知美はモモコクラブ出身の正統派アイドル。類まれな美少女ぶりとホンワカした妹キャラで人気を博し、歌手としてもヒットを重ねていく。先輩への恋心をモノローグ風に歌った「想い出の冬休み」(1987年11月)は彼女の魅力を引き出した冬ソングで、松本隆(作詞)・筒美京平(作曲)のゴールデンコンビによる職人技が光る。
大トリは少年隊、シャッフルビートのダンスナンバー「じれったいね」
ここまで1980年代に多様化した冬ソングをシングル曲中心に挙げてきたが、大トリは少年隊にした。彼らには「ABC」(1987年11月)という冬ソングもあるが、今回はシャッフルビートのダンスナンバー「じれったいね」(1988年11月)をセレクト。それはシックで官能的な世界観をジャズやバレエの要素も採り入れたエレガントなダンスとともに表現する、少年隊ならではのミュージカル的パフォーマンスが一つの極みに達したと思うからである。
デビュー曲の「仮面舞踏会」(1985年12月)以降、「デカメロン伝説」(1986年3月)、「バラードのように眠れ」(1986年11月)、「stripe blue」(1987年3月)、「君だけに」(1987年6月)、「ABC」… と、完成度の高い様々なタイプの楽曲を手がけ、メインコンポーザーとして彼らのヒット街道を支えてきた筒美京平だが、シングル曲の提供は本作で一区切り。あまたのアイドルポップスを手がけ、1980年代だけで26曲ものナンバーワンヒットを放った稀代のマエストロにとって、「じれったいね」は1980年代最後の1位獲得曲となった。
以上13曲。いずれも1980年代を彩ったアイドルたちの冬ソングをお楽しみいただければ幸いである。
Information
Re:minder SONG FILE「80年代アイドル冬ソング」
ココロ躍る音楽メディア「Re:minder」がテーマを決めて珠玉のソングファイルをお届け。
▶︎ 放送局
歌謡ポップスチャンネル(視聴方法はこちら)
▶︎ 放送日時
2024年12月25日(水)深夜 0:00〜深夜 1:00
2025年01月02日(木)深夜 2:00〜深夜 3:00
▶︎ 今月のテーマ「80年代アイドル冬ソング」
♪ ハートのイアリング / 松田聖子
♪ I THINK SO / 岩崎良美
♪ 青い花火 / 浜田朱里
♪ 北駅のソリチュード / 河合奈保子
♪ 横浜メルヘン / 伊藤つかさ
♪ Gジャンブルース / シブがき隊
♪ 白い迷い(ラビリンス)/ 中森明菜
♪ 木枯しに抱かれて / 小泉今日子
♪ 北風のキャロル / 荻野目洋子
♪ リフトの下で逢いましょう / 南野陽子
♪ 冬のオペラグラス / 新田恵利
♪ 想い出の冬休み / 西村知美
♪ じれったいね / 少年隊
▶︎ 番組公式ページ
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