【10月社会保険適用拡大】扶養内・扶養外で働くメリットデメリット
昨今の物価上昇に伴い、日々の生活費のやりくりが苦しいと感じている方もいるのではないでしょうか。そのため「扶養の範囲内で働きたい」と思っていた人が「少しでも世帯収入を増やしたい、そのためには扶養を外れて働くことも考えたい」というケースも増えているようです。今回は改めて扶養内で働くこと、扶養から外れて働くことについて考えていきましょう。
「税金上の扶養」と「社会保険上の扶養」
扶養については税金上と社会保険上の扶養、大きく2つに大別できます。税金上では扶養により所得税の負担が生じず働ける水準「年収103万円の壁」が有名です。一方で厚生年金や健康保険に自ら加入し、社会保険料を負担することになる目安が「年収130万円の壁」または「年収106万円の壁」です。
社会保険上の年収の壁を越えて扶養から外れると、「年収はアップしたけれど、保険料負担で手取りが以前より減った」というケースが出てきます。106万円の壁の場合は約16万円、130万円の壁の場合は約25万円の社会保険料負担が生じるため、その分を考慮して働かなければ手取りベースでの世帯収入は増えないことになります。
そうなると出勤日数や勤務時間が増え、小さな子供がいる場合はその分だけ保育料などの負担が増します。結果、多少は世帯収入が増えたものの支出も増え、果たして扶養から外れて良かったのかどうか?という疑問を持つケースも出てくるかもしれません。
現在扶養内で働いている人の中には、10月からの社会保険適用拡大により、今の働き方を見直す必要に迫られる人も多くなると思います。そこで、どんな人が今回社会保険の適用対象となるのかをおさらいし、扶養内で働くこと、扶養から外れて働くことそれぞれのメリットとデメリットを整理していきたいと思います。
10月から始まる社会保険適用拡大の要件・対象
【画像出典元】「stock.adobe.com/umaruchan4678」
前述した「106万円の壁」とは、扶養内で働く人が次の条件を満たした場合、扶養者の社会保険上の扶養から外れ、勤め先の社会保険に加入するというものです。これまでは従業員数が100名超の企業に対して適用されていましたが、10月から50名超の企業へと対象が拡大されることになりました。
<短時間労働者に対する社会保険の適用要件>
所定労働時間が20時間以上
賃金の月額が88000円以上
通常の被保険者と同様(継続して2ヵ月以上雇用が見込まれる)
学生でない
の月額賃金8万8000円は年間にすると105万6000円、約106万円であるため、「106万円の壁」と呼ばれています。
今回の改正は従業員数が50名超の企業が対象のため、現在10名や20名規模の事業所等でパート勤務をしている方は影響を受けることはありません。つまり今後も社会保険に加入することなく、年収130万円を超えないよう意識しながら扶養の範囲内で働くことができます。
一方、50名超100名以下の規模の事業所で「130万円をギリギリ超えないように」と働いていた場合、10月以降は年収が130万円を超えていなくても社会保険に加入することになります。
従業員数が50名超の事業所等で働いている人は、10月からの働き方をどうすべきか、しっかり考える必要があります。
扶養外で働くことのメリットとデメリット
では扶養内と扶養外、それぞれのメリットとデメリットを確認しましょう。一方のメリットはもう一方のデメリットとなるため、今回は扶養を外れて働くことを前提に、それぞれのメリットとデメリットを整理します。
扶養外で働くメリット
世帯収入がアップする出産手当金、傷病手当金などの対象になる老齢年金額の増加、遺族・障害年金などがより手厚くなる仕事の可能性が広がる
扶養の範囲を気にせず思い切り働くことで保険料の負担は生じますが、その分、健康保険や年金などの保障が手厚くなります。病気で勤務できなくなった際の傷病手当金の対象にもなるため、例えばその分加入している民間の生命保険や医療保険を見直し、保険料を節約できる可能性もあります。老後の老齢厚生年金の額が増えるのも大きなメリットです。
また働く比重を増やすことで、今までより仕事で重要なポストを任されたり、外部との取引などにも積極的に関与できたりなど、仕事の幅が広がってより人生を豊かに感じられるかもしれません。
扶養外で働くデメリット
社会保険料の負担が増える仕事の時間が長く、家庭や育児に使う時間が短くなる世帯収入増加に伴い、高等学校等就学支援金制度などの所得制限に触れる可能性も
扶養の範囲内で働く人の多くは、子供が小さいなど家庭での立場を考慮しての方が多いのが現状です。その状況下で扶養を外れて働くとなると、それまで家庭や育児で出来ていたことが出来なくなることも想定しておかなければなりません。
また世帯収入が増えることで、私立高校などの進学の際に利用できる高等学校等就学支援金制度や、各自治体が実施している育児・教育関連で支給される手当や支援金などの対象外になる可能性もあります。こういったデメリットも事前に考えた上で扶養を外れるかどうか検討してください。
国が始めている「年収の壁・支援強化パッケージ」制度
【画像出典元】「stock.adobe.com/alphaspirit」
2024年10月から「106万円の壁」が適用される対象が増えることもあり、国は「年収の壁・支援強化パッケージ」という支援制度を2023年10月から始めています。
従業員50~70名程度の企業にパートとして勤めていて、これまで130万円の壁を超えないよう年収120万円程度で働いている人のケースで考えてみましょう。勤め先が従業員50名を超えているので、10月からは社会保険の加入が必要となります。そこで社会保険上の扶養から外れる「106万円の壁」を超えないように働こうとすれば、何が起こるでしょうか。
扶養の範囲内で働きたいなら勤務日数を減らし、年間20万円程度収入を下げる必要があります。つまり世帯収入が減ってしまいます。雇用する企業側も働いてもらう時間が減ったり、従業員が50名以下の会社に転職されて離職者が増えたりと、人手や人材不足のリスクが高まります。働く側・雇用する側、双方にとってデメリットが大きいのです。
こういった事態を想定して、「106万円の壁」対応の支援として、国は一定の取り組みを行っている企業に対して、1人あたり最大50万円の支援を行っています。企業が支援金を受け取り、その額を従業員に支給することで社会保険に加入しても手取りが減らないようにするための制度です。詳細は以下、厚生労働省のホームページでご確認ください。
参考:厚生労働省「年収の壁・支援強化パッケージ」
まとめ~新たな働き方や生き方を模索する機会に~
数年前に所得税や住民税を計算する際の所得控除である「配偶者控除制度」が大幅に改正されました。一定の所得以上の人は配偶者控除が縮小または廃止となりました。その際にも様々な案が検討され、今なお、配偶者控除自体を完全に廃止しようという意見もあります。
こういった税制改正は共働きを促すためのものでもあります。資格を持っている人や一定のキャリアのある人、能力の高い人などが結婚を機に扶養の範囲を意識して働かないことは日本経済や社会において決して良いことではないと考えられています。
社会保険も以前は「106万円の壁」はなく「130万円の壁」だけでしたが、2016年10月に従業員数が501人超の企業に対して「106万円の壁」ができ、そして今回紹介しましたように、その対象がどんどん広がっています。
日本は今、税金と社会保険の両面から扶養を外れて働くことを促しているような流れにあります。現在扶養内で働く方が「働きたいけれどセーブしている」ということであれば、このような流れを踏まえ、ぜひ積極的に働くことを検討してみてください。特に今は人手不足で悩んでいる企業も多いです。そんな企業の救世主になれるかもしれませんね。
働く比重を増やすと育児や家庭のことが気になるかもしれませんが、「扶養を外れること=育児や家庭が疎かになる」という訳ではないと思います。特に現在は在宅ワークを始め、様々な働き方や勤務形態があります。ぜひ少し視野を広げて、新たな働き方や生き方を前向きに検討してみてください。
社会保険適用拡大に関するQ&A
Q:扶養を外れて働くと、夫が会社から支給されている配偶者手当はなくなるのでしょうか?
A:会社の給与制度次第です。配偶者手当の支給要件を税金や社会保険の扶養の範囲と一致させている会社が多いですが、そうではないケースもあります。ご主人の会社の制度を確認してみてください。
Q:子供が2人います。扶養を外れて正社員として働くことになった場合、子供のうち1人あるいは2人ともを私の扶養親族にすることは可能でしょうか?
A:税制上は可能です。例えば、夫が住宅ローン契約者で住宅ローン控除があり、税負担が限られているという場合など、妻が子供の扶養控除を適用するといった対応が考えられます。ただし、社会保険上は原則、年間収入の多い方または主として生計を維持する親が子供を扶養することになります。そのため、例えば夫が自営業で国民健康保険、妻が会社員で健康保険の場合において、子供をより有利な方に加入させるといったことはできません。