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医療介護連携の課題と解決策は?現状分析と具体的な改善アプローチ

「みんなの介護」ニュース

長谷川 昌之

医療介護連携の現状と直面する課題

連携における情報共有の問題点

医療と介護の連携において、最も大きな課題として浮かび上がっているのが情報共有の問題です。

最新の調査によると、地域医療連携ネットワークへの参加状況は、居宅介護支援事業所が約2割、訪問看護事業所でも約4割にとどまっており、デジタル化による情報共有が十分に進んでいない実態が明らかになっています。

特に深刻なのが、医療機関と介護施設間での情報伝達の非効率性です。現状では、施設がFAXや紙媒体での情報共有を行っている施設も少なくないため、情報の即時性や正確性に課題があります。

例えば、利用者の入退院時の情報共有において、医療機関と介護施設との連絡が遅れたり、必要な情報が十分に伝わらないケースが報告されています。

さらに、情報共有システムを導入している施設においても、システムの互換性の問題やデータ連携の困難さが指摘されています。これにより、同じ情報を複数回入力する必要が生じ、業務効率の低下を招いているのが現状です。

この状況を改善するため、政府は2024年から新たな情報連携基盤の整備を進めており、医療機関と介護施設間でのシームレスな情報共有の実現を目指しています。

特に注目されているのが、クラウドベースの情報共有プラットフォームの導入です。このプラットフォームでは、医療・介護双方の現場で必要な情報を、セキュリティを確保しながらリアルタイムで共有することが可能となります。

異なる職種間のコミュニケーション不足

医療と介護の現場では、医師、看護師、介護福祉士、介護支援専門員(ケアマネージャー)など、多様な職種が関わっています。しかし、それぞれの専門性や使用する用語、アプローチ方法の違いにより、円滑なコミュニケーションが阻害されているケースが少なくありません。

例えば、医療機関では医学的な観点から状態を評価する傾向がありますが、介護施設では日常生活の自立度や生活の質に重点を置く傾向があります。この視点の違いが、時として情報の解釈の違いや、ケアの方向性のずれを生む原因となっています。

また、多職種間でのカンファレンスやケア会議の開催頻度が十分でないことも、相互理解を深める機会の不足につながっています。特に、医師の参加が難しいことや、時間調整の困難さが、効果的な情報共有や意見交換の障壁となっています。

最近では、オンラインカンファレンスツールの活用により、時間や場所の制約が少ない多職種連携の取り組みが始まっています。これにより、従来は参加が困難だった医療従事者も、より柔軟に連携の場に参加できるようになってきています。

システムや制度の違いによる連携の困難さ

医療機関と介護施設では、使用しているシステムや記録の方法が大きく異なります。例えば、医療機関では電子カルテが普及していますが、介護施設では介護ソフトや紙で運用しています。この基本的なシステムの違いが、スムーズな情報連携を妨げる要因となっています。

具体的な数字を見ると、介護ソフトの導入率は居宅介護支援事業所で約85%、訪問看護事業所で約93%と高い一方で、実際にデータ連携機能を活用している割合は低く、多くの施設が従来の紙やFAXでの情報共有を継続せざるを得ない状況にあります。

さらに、介護保険制度と医療保険制度の違いにより、サービスの提供体制や報酬体系が異なることも、シームレスな連携を難しくしている要因の一つです。

これらの制度の違いは、利用者へのサービス提供の継続性や一貫性に影響を与える可能性があります。この問題に対応するため、異なるシステム間でのデータ連携の標準化が図られています。この取り組みにより、将来的には医療と介護のシステムがよりスムーズに連携できるようになることが期待されています。

特に注目されているのは、クラウド型の情報共有プラットフォームの活用です。これにより、異なるシステムを使用している施設間でも、標準化されたフォーマットでの情報共有が可能となります。

医療介護連携における主要な課題

情報共有の非効率性と個人情報保護の問題

医療介護連携における情報共有の非効率性は、現場の業務に大きな影響を及ぼしています。調査によると、入院時情報提供書が地域医療連携ネットワーク上で完全に実装されている割合はわずか約13%程度にとどまっており、多くの施設が従来の紙ベースでの情報共有を余儀なくされています。

個人情報保護の観点からも、現状のFAXや紙媒体での情報共有には大きなリスクが存在します。誤送信や紛失のリスク、情報の取り扱いに関する明確なガイドラインの不足など、セキュリティ面での課題が指摘されています。

また、情報共有の方法が統一されていないことで、同じ情報を複数の形式で作成・管理する必要が生じ、業務の非効率化につながっています。これは特に小規模な介護施設において、人的・時間的リソースの大きな負担となっています。

最近では、ISMAP(政府情報システムのためのセキュリティ評価制度)認証を受けたクラウドサービスの活用により、より安全な情報共有の実現を目指す動きも出てきています。このような取り組みは、情報セキュリティと業務効率の両立を可能にすると期待されています。

デジタル庁が推進する医療DXの一環として、2024年以降、標準化された情報連携の仕組みの導入が計画されており、より安全で効率的な情報共有の実現が期待されています。

人材不足と専門知識の不足

医療介護の連携を推進する上で、深刻な課題となっているのが人材不足の問題です。特に、ICTシステムの導入や運用を担当できる人材の不足は、デジタル化による業務効率化の大きな障壁となっています。

介護現場では、従来の介護業務に加えて、医療的な知識や情報システムへの理解も求められるようになっていますが、そのための教育・研修の機会が十分に確保できていない状況があります。これにより、新しいシステムや連携の仕組みの導入が進まず、結果として従来の非効率な方法が継続される傾向にあります。

また、医療と介護の両方の知識を持つ専門職の育成も課題となっています。医療・介護の連携を効果的に進めるためには、両分野の専門知識を持ち、橋渡し役となる人材が不可欠ですが、そうした人材の確保・育成が追いついていない現状があります。

介護職員の離職率は依然として低くない水準にあり、経験豊富な人材の定着が難しい状況が続いています。この高い離職率は、専門知識の蓄積や継承を妨げる要因となっています。

さらに、医療・介護連携に関する専門的な研修プログラムの不足も指摘されており、現場のニーズに即した人材育成の仕組みづくりが急務となっています。

地域ごとの資源や体制の格差

医療介護連携の取り組みは、地域によって大きな差が生じています。都市部では比較的充実した医療・介護資源があり、ICTシステムの導入も進んでいる一方で、地方部では資源の不足や人材確保の困難さから、十分な連携体制を構築できていない地域も存在します。

地域医療連携ネットワークの整備状況を見ても、自治体によって大きな差があり、すでに先進的なシステムを導入している地域がある一方で、基本的な連携体制の構築にも苦心している地域があります。

また、地域の医療機関や介護施設の規模や数によっても、連携の在り方や可能性が大きく異なります。特に医療資源の少ない地域では、限られた資源の中で効果的な連携を実現することが求められており、地域の実情に応じた柔軟な対応が必要とされています。

大きな病院では法人としてのセキュリティポリシー等から情報連携システムを導入していないという調査結果もあり、地域での連携体制構築に影響を与えていることが推測されます。

このように、地域によって連携体制の整備状況に大きな差があることは、全国的な医療介護連携の推進における重要な課題となっています。

医療介護連携の課題解決に向けたアプローチ

ICTシステムの導入による情報共有の効率化

これまで述べてきたように、医療介護連携の効率化を図る上で最も重要なアプローチの一つが、ICTシステムの導入です。現在、政府が推進する「医療DX令和ビジョン2030」では、将来的に全国医療情報プラットフォームを通じて、多様な情報が共有されることが計画されています。

具体的な取り組みとして、統一された情報共有フォーマットの導入や、セキュリティが確保された情報共有プラットフォームの構築が進められています。これにより、これまで手作業で行われていた情報の転記や再入力の手間を大幅に削減し、より正確で迅速な情報共有が可能となります。

また、クラウドベースのシステムの導入により、時間や場所を問わず必要な情報にアクセスできる環境を整備することで、緊急時の対応や日常的な情報確認の効率化が期待されています。

提供されたデータによると、医療機関と介護施設の間での情報連携において、標準化された電子的な情報共有の実装が進みつつあり、入院時の情報提供書などでも徐々にデジタル化が進展しています。

医療機関・介護施設双方の現場からは、ICTシステムの導入による業務効率の改善効果が報告されており、特に緊急時の情報共有がスムーズになったという声も徐々に増えています。

多職種間の定期的な会議や研修の実施

効果的な医療介護連携を実現するためには、システムの整備だけでなく、実際に連携に携わる職員間の相互理解を深めることも忘れてはいけません。そのため、多職種が参加する定期的な会議や合同研修の実施が推進されています。

三菱総合研究所の調査結果によると、現状では多くの医療機関や介護事業所が電話やFAXでの連絡を主としており、対面での情報共有や意見交換の機会が限られています。また、連絡を取るまでに時間がかかることや、病院からの情報不足で退院後のサービス調整に苦慮するケースも報告されています。

オンラインを活用したカンファレンスの開催により、時間的・地理的な制約を克服し、より多くの関係者が参加できる環境づくりも進められています。これにより、従来は参加が困難だった医師や専門職の参加率向上も期待されています。

地域医療連携ネットワークを導入している地域では、導入以前の電話での連絡と違い、医師への連絡が24時間いつでも気兼ねなくできるようになったという効果も報告されています。また、文章を推敲してから送付できたり、画像を添付できたりするため、より正確に情報が伝わるようになっています。

連携に関する定期的な会議や研修は、医療・介護間での情報連携の意義を理解し、より効果的な連携を実現するための重要な機会となっています。

地域包括ケアシステムの構築と強化

医療介護連携の最終的な目標は、地域全体で切れ目のないケアを提供することにあります。

地域医療連携ネットワークでは、入院時情報提供書が「すべて」または「一部」の項目について実装済みの割合は約13%、訪問看護計画書については約4%という調査結果もあり、地域全体での情報共有体制の整備はまだ発展途上の段階にあります。

特に自治体の取り組みとして重要なのが、地域の医療・介護の連携体制の構築です。調査によれば、地域医療連携ネットワークを運用している自治体では、「運営主体の協議会メンバーとして参画」している割合が約33%と最も高く、地域全体の連携推進において重要な役割を果たしています。

地域包括ケアシステムの中で、特に注目されているのが在宅医療・介護の連携です。医療機関と介護事業所の双方がデータ連携の意義を理解した上で、単一のオペレーションでデータ連携ができるような環境整備が求められています。

導入効果として、特に在宅医療、医療・介護連携において、業務負担が軽減されたという報告が増えています。また、医師にとっては患者の状態をタイムリーに知ることができるため、結果として患者のためにもなっているという効果も確認されています。

地域特性に応じた連携モデルの開発も進められており、都市部と地方部それぞれの実情に合わせた効果的な連携体制の構築が図られています。

医療と介護の連携における課題は、システム面での整備だけでなく、人材育成や運用面での工夫など、多角的なアプローチが必要とされています。特に注目すべきは、医療機関と介護事業所の双方がデータ連携の意義を理解し、単一のオペレーションでデータ連携ができる環境整備が求められているという点です。

今後は、地域の実情に応じた柔軟な対応を取りながら、段階的に連携体制を強化していくことが、持続可能な医療介護連携の実現には不可欠といえるでしょう。

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