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由薫、EP『Wild Nights』リリースツアーFINAL東京公演 ライブレポート

encore

由薫の新作EP『Wild Nights』を引っ提げた東名阪ツアー「YU-KA Tour 2025 “ Wild Nights”」が、4月17日に東京・LIQUIDROOMでファイナルを迎えた。スピーカーから地鳴りのような音が鳴り、ほんのりと青い照明に照らされた薄暗いステージに、由薫とバンドメンバーの小川翔(Gt)、熊代崇人(Ba)、岡田基(Key)、伊吹文裕(Dr)が姿を見せて荘厳な演奏ととも「Dive Alive」で幕を開けた。スモークが焚かれた幻想的な空間の中で「The dark is so loud but I can’t hear it now(暗闇はうるさい、でも今は何も聞こえない)」という儚い歌が会場に響いた。2曲目「Sunshade」では腕を伸ばして「どこにもいない 君を探した」と訴えかけるように歌い、夢幻泡影な切なくも美しい世界を創出した。

「私と一緒に素敵な、そして激しい嵐の夜を味わってもらえたらと思っております。新しいEP からもいろんな夜をお届けしますが、それ以外にも素敵な夜を表現していきたいと思います」と告げて、4曲目は彼女がインディーズ時代に初めて配信リリースした「Fish」を歌唱した。10代の頃、由薫は社会から取り残されている感覚があったという。怒り・欲望・寂しさが楽曲制作の原動力になっていた時期に書かれた「Fish」もまた、彼女の棘のように鋭く尖った心のひだを感じる。「酒飲んで さかなみたいになって誰も傷つけることなく 短い命を終わらせるの」と発せられた刹那的な歌詞が、ドリーミーな演奏によって哀愁の色を深めていく。これまで様々な楽曲を作ってきた彼女は24歳になり、改めて自分の音楽性を形成する大きな要素に“陰”の部分がある、と再認識する。原点に立ち返り「Fish」のような色味の曲を書いてみよう、と思い形にしたのが5曲目の「Mermaid」である。そんなドラマ性のある2曲は、彼女の原点と現在地を示していた。

「時には切ない気持ちになる夜もあるでしょう。お惣菜を買って、1人で体育座りをして食べたことがありますよね? かつてはみんなでホールケーキを食べていたのに、ワンカットのケーキを泣きながら食べる夜とか、いろんな夜が皆さんにもあると思います」。続いては優しくブルージーなアコギとキーボードが印象的な「勿忘草」を届けた。黄昏時の茜色に染まったステージの上、由薫は遠くの夕焼けを見るように「涙に染まった夕日も 迎えにきてくれた」と歌を乗せた。寂しくて温かいこの曲の情景が、観客それぞれの心のスクリーンに映し出されていく。この日、由薫の歌ってきた寂寥感を纏った曲たちは、彼女自身のことを表しているだけではなく、今目の前にいる孤独を抱いた人へと紡いでいるのだと思った。

そして夕日は沈み、宙には星彩に包まれているかのような光が差した。由薫は静かに目をつむりながら、胸に手を当てて代表曲「星月夜」を歌った。曲が進むに従って、その壮大な世界が広がっていく。一人ぼっちの暗い部屋から飛び出して、最後は星を見上げて祈りを捧げる。そんな素晴らしいセットリストで前半戦を締めくくった。

「一人でメソメソしている夜もあれば、みんなとパジャマパーティをする夜もあるでしょ? ここからは一緒に盛り上がってくれますか!?」と投げかけると会場から大きな歓声が起きた。「では、楽しい夜をみんなと過ごそうと思います」と言って、由薫はアコギを手にして「Clouds」へ。みんなが演奏に合わせて楽しそうにクラップをして、会場には幸福感が溢れていた。「東京の皆さん、盛り上がりが全然足りませんよ!」と檄を飛ばして「Rouge」「1-2-3」と勢いを加速させていき、高揚感を増幅させていった。

ここで由薫はポケットから1冊の詩集を出して観客に見せた。「私は大学生の時に本気で音楽をやると決めたんですけど、なんでそう思ったのかと言うと、エミリー・ディキンソンという1830年から1886年まで生きた女性の詩人がいて。生前にわずか10編の詩を発表しただけで、無名のまま生涯を終えたんです。亡くなった後に、エミリーの妹が引き出しを開けたら千数百編の詩が出てきたんですよ。彼女はずっと部屋の中で暮らしていたんですけど、そのことが私をすごく勇気づけてくれて……」。当時、大学生だった由薫は「曲を作って人にどう思われるか?」「自分の音楽が届かなかったらどうしよう?」と悩み、一時は音楽が自分にとって正しい道なのかが分からなくなっていたという。「そんな時、エミリー・ディキンソンの詩を読んだ。彼女は本当の自分の心の声というか、何かを世に残したいという気持ちだけで、誰に何を言われるかとか、そういうことじゃなくて。自分がそれをやりたいと思ったから詩を書いて、引き出しに溜め続けた。それが私にとって衝撃だったんですよ」。そして由薫はエミリーの書いた「Wild nights! Wild nights!」の詩を元に、EPのタイトルを『Wild Nights』したという。

「私も夜な夜な曲を書いてリリースしていたのもあって、このタイトルにしました。昨日も彼女の詩集を読んでいて、すごく刺さった詩があったので読んでもいいですか?」。そう言って由薫は「A word is dead(ことばは死んだ)」の詩を朗読した。

「私にとって音楽はリリースした時に死ぬんじゃなくて、リリースした瞬間に初めて生き始めるんです。こうやってライブをしている時にこそ、本当に私の音楽が生きてるって感じるんですよ。私にとって最も生きてると感じる夜を、みんなとシェアできてることを本当に嬉しく思います」。

ライブが残り2曲であること伝えた後、こんな言葉を送った。「この1曲1曲、一瞬一瞬にみんなと音を通して本当に繋がった気持ちになれる。それが私にとって本当の幸せ。だから、この2曲もみんなとの繋がりを感じながら、大切に歌いたいと思います」。腕を振り下ろし拳を固く握って「ツライクライ」を歌い、最後に披露したのは「Feel Like This」。由薫は15歳でギターを手にして、17歳で自作の曲を作り始めた。人生の答えを探すように悩みもがきながら、孤独や苦しみ、怒りを曲に昇華し続け生きていた。そんな彼女が行き着いた答えが、この曲に込められている。「Just wanna feel like this (ただこう感じていたいだけ)」。心を裸にして、自分に正直になって歩み始めることを決めたのだ。眩いスポットライトを浴びながら、腕を広げて優雅に歌うその姿はとても自由で生き生きとしていた。

本編を終えると、会場からアンコールが起きた。由薫はバンドメンバーとともに再び姿を見せて「Crystals」を歌った後、「もう一度」では観客と一緒に合唱。ステージには由薫1人が残り、8月から初の弾き語りツアー「UTAU」の開催を発表。ラストは弾き語りで「brighter」を演奏して特別な一夜の幕を閉じた。

文:真貝 聡

写真:南部恭平

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