「友だちと一緒に遊ぶ」が難しかった小6自閉症息子が、初めて嬉し涙を流した日
監修:鈴木直光
筑波こどものこころクリニック院長
「遊ばないなら友だちを呼ぶのは禁止!」
夫がミミにお友だちを家へ呼ぶのを禁止してから、数日が経ちました。
もともとミミは週に3〜4回のペースで友だちを呼んでいたのですが、いざ呼んでもまずは1人で動画を見ることを優先します。動画を見終わる頃には、友だち同士がすでに遊び始めているためミミはその輪に入れず、結局1人でゲームをしていました。それを見ていた夫は、「1人で動画を見たり1人でゲームやってるならもう呼ぶな!」と禁止したのです。
この友だちが呼べない間、ミミは……
この禁止期間、ミミは学校から帰宅すると、弟のふーと家でゲームをしたり、1人で昆虫のおもちゃでバトルごっこなどをしていました。
家にお友だちを呼べなくても、公園やお友だちの家に行かないのかな?と思いミミに聞くと「お友だちのウチもダメでしょ」とミミ。あれ?なにか思い違いをしている?そんなことはないのでは?と思って、私が夫に確認すると、「友だちの家に行くなとは言ってない」と夫。ミミは「友だちの家でも1人でゲームをするなら同じことだから、行くのもダメ」と思い込んでいたのです。この誤解は解消してあげないとと思った私は、夫からミミに直接話してもらいました。
友だちと一緒にいても「一緒に遊ぶ」がクリアできない
翌日、ミミは一人だけ友だちを呼んできました。その子は、ほかにも友だちが来ると思っていたようですが、誰も来る気配がなかったため、持っているスマートフォンでほかの友だちと連絡を取り、電話の相手の子の家に行くことに。
ミミはお友だちに「オレも行く!」と言って一緒に出かけていきました。見送りながら、(この子はミミと2人で遊ぶほどの仲ではないんだな……)と思った私。
ミミが帰宅した後、何をして遊んでいたのか聞くと、そこでも1人用のゲームで遊んでいたようでした。以前、友だちの輪に入れなくても、同じ空間に居ると落ち着くといっていたミミ。お友だちと一緒にいるところまではできるようになったのですが、一緒に遊ぶのがなかなかクリアできないな……、これはまだまだ道のりは長いなと感じました。
そんなある土曜日の午後、ミミを公園に誘いに2人のクラスメイトがやってきました。
ミミの表情はパッと明るくなり、すぐに友だちと一緒に出かけていきました。そのクラスメイトは以前にも2回ほど公園に誘ってくれたことがありましたが、今回は久しぶり。ミミはとても嬉しそうでした。
3時間以上遊んで帰ってきたミミは、大満足の笑顔。そんな姿を見て、私も嬉しくなりました。
お友だちとの遊びも、ゲームより外遊びのほうが参加しやすいのかも?楽しそうに遊べてよかったなと思っていたのですが、久しぶりにはしゃぎ過ぎたミミは体調を崩し、3日間学校を休むことになってしまったのです。
ミミ、初めてのうれし涙
休んで3日目、ほぼ完治したミミですが「明日も休みたいなー」とぶつぶつ。3日も学校を休むと、登校へのプレッシャーが大きくなっていたのだと思います。
そんな時、弟のふーがミミの担任の先生から封筒を預かってきました。そこにはお知らせのプリントと一緒に、先生とクラスメイトからの励ましのメモ書きが貼ってありました。
早く元気になってまたあそぼうね(笑顔のイラスト)
体調だいじょうぶですか?はやく元気になって学校やおうち、公園でまた遊ぼうね
これを読んだミミは、生まれて初めて嬉し涙を……。
私の「みんな待ってるね」夫の「学校いかなきゃな」の言葉に「うん」と答えたミミ。メモをくれた子は、ミミの「お友だち」と言える子なのかもしれないな、と私は思いました。
友だちと一緒に遊ぶというハードルの高さはまだまだ続くと思いますが、ミミの世界はどんどん広がっていって、お友だちとの関係もどんどん深くなっていくのだと思います。そんなミミの成長を側で見てハラハラしたり、嬉しくなったりするのも親の醍醐味なのかもしれません。
これからも、ミミにはお友だちとの付き合い方を少しずつ学んでいってほしいと思っています。
執筆/taeko
(監修:鈴木先生より)
ASDのミミさんは「一緒に遊ぶ」という抽象的な表現がわからなかったのかもしれません。何をして遊ぶか、例えば、ブロックでお家を作るとか、お人形を使ってままごとをする、学校だと校庭のブランコで遊ぶとか、教室で折り紙をするなど、具体的に提示しないと分からない場合が多いのです。今回のように、友だちと遊ぶことに関しても同じです。どこでどうやって何をして遊ぶかを明確にしないと通じない場面が多くみられます。
また、不登校のお子さんが学校へ行くきっかけになった一つに、「友だちからのお誘い」があります。ASDのお子さんは、自分の気持ちや興味を優先しやすいため、周りから注目されたいと感じることがあり、放課後友だちと遊べたら「明日も学校で待っているよ」という言葉で背中を押されるのです。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。