「評価されない」という悩みはコミュニケーションで改善されるかも? ─ミドル世代のキャリアを考える【伊藤羊一さん対談Vol.2】
ミドル世代を含め、多くのビジネスパーソンが頭を悩ませる「コミュニケーション」。マネージャー、一般社員など肩書にかかわらず、コミュニケーションスキルは仕事をするうえで欠かせないものであると同時に、苦手意識を持っている、上達方法が分からないといった悩みを抱える人も少なくありません。
今回は、マイナビ転職が送るVoicyチャンネル「しごと・転職・キャリアのお守りラジオ」で、著書『1分で話せ』(SBクリエイティブ)などでおなじみの伊藤羊一さんをゲストに迎えた対談のログをお届け。「コミュニケーションの苦手克服法」「『上司に評価されない』という状況改善の鍵」など、必見のキャリアのヒントです。
▼前回の記事はこちら「管理職・マネージャーになると何が変わる?」
https://meetscareer.tenshoku.mynavi.jp/entry/20241009-radio-03( https://meetscareer.tenshoku.mynavi.jp/entry/20241009-radio-03 )
伊藤羊一(いとう・よういち)さん。武蔵野大学 アントレプレナーシップ学部学部長、Musashino Valley代表、LINEヤフーアカデミア学長、Voicyパーソナリティ、株式会社ウェイウェイ代表。アントレプレナーシップを抱き、世界をより良いものにするために活動する次世代リーダーを育成するスペシャリスト。2021年に武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(武蔵野EMC)を開設し学部長に就任。2023年6月にスタートアップスタジオ「Musashino Valley」をオープン。「次のステップ」に踏み出そうとするすべての人を支援する。また、ウェイウェイ代表、LINEヤフーアカデミア学長として次世代リーダー開発を行う。代表作「1分で話せ」は60万部のベストセラーに。
相手の頭の中をイメージしながら寄り添って話を聞く、伝える
──前回、マネージャーにとってコミュニケーションスキルは一番重要だと伺いましたが、苦手とされている方も多いイメージがあります。
伊藤羊一さん(以下、伊藤):そうなんですよ。でも、会社は人の集合でできているので、コミュニケーションはしっかり取るしかないですよね。僕も元々はそんなに人とコミュニケーション取ることは、得意じゃなかったんです。ただ、仕事をするうえで大事なことだと意識していれば、話をしっかり聞けるし、こちらからも話せるようになってきたんです。
もちろん、本当にコミュニケーションが苦手な方もいらっしゃって、それはそれでいいと思うんですけど。そういう方はどちらかというと、マネージャーというよりプロフェッショナルを目指すこともできます。一方で、「コミュニケーションが苦手だからプロフェッショナルを目指すと言えるだけのスキルちゃんとありますか?」というのは問われますので。
それに、例えばエンジニアだって、コミュニケーションが取れなくては仕事になりません。僕は、コミュニケーションスキルは、ちゃんと鍛えれば誰でも取得できると思うんですよね。たくさん話すことが大事で、まずは場数をこなすこと。
あともう一つは、「相手の靴を履く」ことだと思っています。今、僕はあなたとお話していますが、あなたの頭の中を想像しながら話しているんですよね。相手がどんなことを考えてるのか、相手の立場でそのどんなことが聞きたいんだろうなっていうことをイメージしながら。相手に立ち向かうのではなくて、その相手の靴を履いて同じ方向を見ながら話を聞くというのがすごく大事で。これをなかなかできない人が多いと感じますね。
──やっぱり同じ方向を向いて話を聞くというのは、マネージャーの仕事である「チームをゴールに導く」につながる気がします。上司に声をかけてもらってプロジェクトを進めて、戦力になれた実感を持てた時って嬉しいですもんね。
伊藤:「なぜ戦力になれたのか?」というのを思い出していただくと、ものすごく単純化して言うと、上司とあなたとでめちゃめちゃコミュニケーションしていたと思うんですよね。
「あなたの仕事はこうです」といきなり渡されて、あとは勝手に進めてくれっていうのではなくて(それまでのコミュニケーションを踏まえてどんな伝え方で言えば伝わるかというところも含め、どんな働きを期待している、どんな強みを生かせると思う、など)。
相手のことを考えながらたくさん話をするっていう、結構簡単なことなんです。コミュニケーションが苦手という方も、やってみると「意外と簡単だった」と実感していただけると思いますね。
コミュニケーションスキルを鍛える3要素。まずは「話を、ただ聞く」
──コミュニケーションはマネージャーになっていくために必要なスキルで、鍛えたいと思っている方も多いと思います。具体的に、普段の仕事の中でどういうことを意識すればいいでしょう?
伊藤:3つあります。なんか、自分の本の宣伝みたいになっちゃうんだけど(笑)。「話を聞いて考える」ってことなんですよ。
話を聞いて、考えて、伝える。この3つの要素があれば、コミュニケーションはうまくいくんです。「話を聞く」とは「相手の靴を履く」というその姿勢のこと。自分が何かを伝えるのではなく、よく聞くことです。話の途中でジャッジをしないで、ただただ聞く。これは、スキルっていうよりもマインドですね。
1on1ミーティングが浸透しているとおり、一対一で話を聞かないと、その人が考えていることって分からないじゃないですか。しっかり話を聞いて、そこに口を挟まないっていうだけ。これが「聞く」ですね。
「考える」ことは、日本のビジネスパーソンがしっかり鍛えた方がいいと思う要素です。ロジカルシンキングを鍛えると、「結論は何」「根拠は何」「なぜならばこうだ」っていうのをしっかり頭ん中で考えられるようになります。聞いて、いろんな情報を受け取って、またちゃんと考えて、その次に相手に「伝える」ことですね。
伝えるスキルは、場数をこなすことで鍛えられます。場数踏めば踏むほど、意思を持って話せるようになりますので。
僕は、このマネージャーに必要な要素というのは「話を聞くマインド」、それからちゃんと「考えるスキル」、それから「話す場数をこなす」。この3つがあれば、マネジメントの仕事は誰でもできるんじゃないかなと思ってます。
──その「話す場数」を増やすというのも、自分から聞きにいくことが大事なのでしょうか?
伊藤:めちゃめちゃ大事ですよ。話を聞きたいと思えるかどうかというのは、すごく大事。「仕事だからあなたの話を聞きます」とか言うマネージャーと、話したくないじゃないですか。だから、マネージャーは人に興味を持つことが必要ですね。
先ほど「話を聞いて、考えて、伝える」ことが重要と言いましたが、それは表面的な話で、裏には人に対する興味がなければ成り立ちませんよね。
──確かに。コミュニケーションは、部下や後輩の立場でも大事なような気がします。上司に評価されないという悩みを抱えている人も多く見られますが、これも、コミュニケーションで改善できる部分があるのでしょうか?
伊藤:まず、評価されないっていうケースはいろいろあるとは思うんですけど、「自分はこれだけやってるのに、相手が見てくれてない」ということだとしたら、それがちゃんと相手に伝わってますか? というのは考えるべきですよね。
日本のビジネスパーソンは、「自分はこれだけやったんだ」と伝えるのが、何かよろしくないことだと思っちゃう人が多いんじゃないかな。でも、やっぱり言わないと伝わらないですよね。もちろん、喋らなくてもマネージャーがそこをちゃんと見てくれていれば最高なんですけど、それをマネージャーが見てくれないからといって文句言ったところで、何も変わらないので。まずは自分から働きかけることです。
具体的には、定期的に相互で話をする機会を持つことが大事ですね。「自分は今、こんなことに取り組んでいて、こんな成果が上がっています。こんな反省点があると思います。ただ僕としては満足です」とか「僕は今、不満です」とか。次に、このまま進めていいのか、 アドバイスはあるか、何か変えなくてはならないことはあるか、みたいな話を、メンバーの方からしっかり働きかけるってのは超大事ですね。
とはいえマネージャーも、そういうコミュニケーションに慣れてない人も多いので、なかなか簡単にはできないよっていうケースもあるんですが、それでも、自分から働きかけて変えていかないといけないんじゃないかな。
コミュニケーションは自分から働きかけなければ何も変わらない
──私自身、人に話しかけることそのものがすごく苦手で、極端な話、上司が隣の席にいても話しかけていいかどうか10分ぐらい悩むタイプで……。
伊藤:僕も、40歳ぐらいまではそんな感じでしたね。話しかけて、自分が想定してない反応を見せられた時、話しかけたことを後悔していちいち悩んじゃいましたね。だから、そこを乗り越えられるかどうかっていうのが、仕事をしていくうえで重要なポイントになります。日本のビジネスパーソンがコミュニケーションが苦手な要因は、相手に遠慮しちゃうということが強いと思うんです。でも、ここは心を鬼にしてやるしかないんですよね。
──苦手なことでも、やり続ければ上達する?
伊藤:そう。一ついい方法があります。定期的にいろんな人と話す機会を、あえて設定してみることです。割と気軽に話せる人だったら、定期的にランチに行きながら話すとか、あまり得意じゃない、例えば上司とかマネージャーの人だったら、自分の仕事をご報告したいので、2週間に一度ぐらい、15分でいいからお時間取っていただけますか、とかそんな感じで機会を作る。定期的に話してるうちに、徐々に向こうもこっちのことが分かってくるし、こっちも向こうのこと分かってくるし。
コミュニケーションは量をこなせばこなすほど、だんだんそのパッケージができてくるんで、それを定期的に時間を取ってやってみることをおすすめします。
──ちなみに、コロナ禍の影響もありチャットツールが導入された企業も増えましたが、「直接話すのが苦手だから」と安易にチャットに逃げてしまうのも、考えものなのでしょうか?
伊藤:チャットでもコミュニケーションであることはそうなんですが。でも、やっぱり時々はZoomとかオンライン会議で話をするとか、対面で話をするとかっていうのは定期的に時間を取ってやった方がいいと思います。
おすすめは1週間に1回ぐらい。いきなりは難しいとしたら、週に1回でも、月1回でもいい。最初は15分程度でもいいじゃないですか。マネージャーに「自分は今こういうことを考えていて、こういうことに協力していただきたい」とお願いするんです。
そして、それを聞くのはマネージャーの仕事ですよね。メンバーが気持ちよく仕事をするためにその時間が必要なんだということを、ちゃんと説明してあげるといいかなと思います。
──コミュニケーションを取るというのは、マネージャーとしてもやらなきゃいけないことだし、部下としてもやらなきゃいけない、つまり全員やらなくちゃいけないんですね。
伊藤:マネージャーとして、チームをゴールに導いていくのが仕事だってなった時、みんなのコンディションをちゃんと認識しておく必要があるわけですよ。それをチャットだけで分かるかというと、どうでしょう。人間なので、調子の上がり下がりがあるじゃないですか。そういった、マネージャーが一人ひとりの状況を把握するのは、もう仕事なんすよ。
でも、マネジメントサイズには限界もあるんですね。私共のIT業界でも1on1をやっているのですが、話してみると6、7人くらいが直接マネジメントできる限界だと思います。もちろん30人のチームとか200人のチームとかっていうのを束ねる場合もありますが、一人ひとりの状況を把握できるのは6、7人ぐらいに限られます。やっぱり、一対一でコミュニケーションしないと、その人の状況が認識できないから。チャットではなく、対面で1on1ミーティングを定期的にできる限界とも言えますね。
■次回、伊藤羊一さん対談Vol.3「マネージャーになれる人、なれない人の違いとは?」に続きます
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文・ミーツキャリア編集部