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神保町『トロワバグ ヴェール』の新名物グラタンクレープをネルドリップコーヒーとともに味わう

さんたつ

トロワバグ ヴェール

喫茶店が好きなら、神保町交差点のそばに店を構える『トロワバグ』を知らない人はいないだろう。1976年創業の老舗であり、神保町の喫茶店といえば必ず名前の挙がる名店。その2号店『トロワバグ ヴェール』が、2024年6月にオープンした。本店の遺伝子がしっかりと感じられるとともに、一味違う装いで新たなチャレンジも光る店にお邪魔した。

トロワバグ ヴェール

路地裏の花屋さんが、コーヒー香る空間へ

水道橋駅と地下鉄神保町駅の間、少し水道橋駅寄り。

白山通りと並行する錦華通りを歩いていると、小さな立て看板が見えてくる。静かな路地になじむ淡いターコイズブルーの窓枠と白いドアのかわいらしい店構えは、見覚えのある人も多いかもしれない。

「ここはもともと、私の友人がやっていた花屋だったんです」とは、オーナーの三輪徳子さん。「店を畳むことになったときに声をかけてもらいました。内装はほとんどそのまま生かしているんですよ」。

路地をのぞき込むと見えてくる、『トロワバグ ヴェール』の外観。
空間をゆったりと使った店内は、ほどよい開放感で落ち着く。

数々の名喫茶の建築デザインを手がける松樹新平さんによる『トロワバグ』1号店の内装は、地下ということもあり隠れ家のような雰囲気。一方、2号店であるこちらは地中海沿いの田舎町あたりで出会いそうな、やわらかく明るいムードだ。

「ずっと地下の『トロワバグ』にいるので、次は地上で!と思ってました」と三輪さんは笑う。

この場所をどう生かせるかと考え、近年ぐっと増えた喫茶店好きの若いお客さんにも来てもらえるような店にしたいと考えたことが、2号店オープンのスタート地点。ここで店長を任されているのが、『トロワバグ』のスタッフだった緑川皆さんだ。

店先に立つ緑川さん。

緑川さんが『トロワバグ』でアルバイトを始めたのは大学1年生のとき。「せっかく働くなら、空間が自分の好みに合う場所がいい。居心地のいい場所で働きたい」と思い、神保町の喫茶店でアルバイト募集を探して『トロワバグ』と出会った。それまでもコーヒーを飲む機会は多かったが、コーヒーそのものにのめりこんだのは『トロワバグ』で働くようになってからだという。

「好きになったり夢中になったりする物事はありますが、その熱がずっと続いているのはコーヒーですね」

いつしか自分の店を出したいという夢も思い描くようになったところへ2号店の話が舞い込み、『トロワバグ ヴェール』の店長に。基本的には1人でお店に立ち、コーヒーもフードメニューもすべて緑川さんが用意する。

ネルドリップで淹れるコーヒーと、大満足のグラタン

この店のコーヒーは基本的に本店と同じオールドビーンズで、同じメニュー、同じネルドリップで淹れる。「ネルドリップは味わいも嗜好品としても好きな技術」と話す緑川さん。今は焙煎も担当していて、着々とその技術を向上させている。

トロワブレンドは650円。おかわりは450円。メニューにはないが、 混雑していないタイミングなら深煎りのハイブレンドの注文も可能だとか。

フードメニューも数種類あり、その主役になっているのがクレープだ。グラタンクレープやサラダクレープ、プリンクレープなど、食事からスイーツまでそろう。「神保町でクレープを出しているお店がなかったから、という安直な理由だったんですけど」と緑川さんは笑うが、神保町のみならずどこでも出会えるありきたりな味ではない、こだわりの一品ばかりだ。

とろ〜りトマトグラタンクレープはコーヒーとセットで1800円、単品なら1400円。

この日いただいたのは、とろ~りトマトグラダンクレープ。ベシャメルソースをクレープ生地で包み、その上からトマトソースとチーズがたっぷりかかっている。トマトソースの酸味とチーズの塩気がほどよいバランスで、ブロッコリーの食感もアクセント。クレープ生地がラザニアのようでしっかりとボリュームもありランチにもぴったりだ。

グラダンクレープのベシャメルソースは、本店『トロワバグ』の名物・グラタントーストと同じもの。プリンクレープのプリンも同様で、コーヒーと同じく装いが新しくてもその根底にしっかりと『トロワバグ』の遺伝子があるのだ。

老舗の矜持と新たなチャレンジが織りなす魅力

また、『トロワバグ』のロゴが入ったオリジナルのお冷グラスは本店で購入も可能。本店は赤色、2号店は緑色のロゴが入っていて、2色セットで購入するお客さんも多いのだとか。

「昔はこのロゴがちょっと怖いと言われたりもしたんですが、今はこれがかわいいと言ってくださる方がたくさんいらっしゃるんです」と三輪さん。本店の内装と同じく松樹新平さんによるデザインのロゴはたしかに独特で、歴史を感じさせる。長年神保町の街を見守ってきたこのロゴが、新しい場所でまた使われているというわけだ。

オリジナルグラス880円。

お店の雰囲気やメニューには、若い女性からの人気が高そうな印象を受ける。緑川さんも当初はその想定で、実際にオープン直後は女性のお客さんが多かった。でも、半年弱たった取材時点ではじわじわと客層も広がってきているのだとか。

「地元の高齢者の方や、近くに通勤されている男性の方も来てくださるようになりました。それがうれしいですね」

本をイメージした看板は、『トロワバグ』スタッフのお手製。

今後は、常連が飽きないようメニューのレパートリーを増やすことも考えているという緑川さん。「リピートしてくださるお客さんも多いので、そういう方が来るたびに新しいメニューを試せるように」と、あくまでお客さん思いだ。

「1人で店に立っているので、スタッフ同士で牽制しあったりチェックしたりすることができません。スピード優先で自分が手を抜くと、それがそのまま出てしまう。少しお待たせしてしまったとしても、いいものを出せるようにしたいです」

本店が長年培ってきたおなじみの味やそれに対する信頼や愛着に、真摯に向き合っているのが伝わってくる『トロワバグ ヴェール』。本店を知る人はもちろん、そうではない人も、神保町を訪れたら一度この路地をのぞいてみてほしい。老舗とは違う、でもまるっきりの新店ともまた違う、不思議な魅力漂う空間が待っている。

『トロワバグ ヴェール』店舗詳細

トロワバグ ヴェール
住所:東京都千代田区神田猿楽町2-7-7/営業時間:12:00~18:30LO(土・日・祝は~17:30LO)/定休日:月/アクセス:JR中央線・地下鉄三田線水道橋駅から徒歩5分、地下鉄神保町駅から徒歩8分

取材・文・撮影=中村こより

中村こより
もの書き・もの描き
1993年東京生まれ、北海道育ち。中央線沿線に憧れて三鷹で暮らした後、坂のある街に憧れて現在は谷中在住。好きなものは凸凹地形、地図、路上観察、夕立。挑戦したいことは測量と東海道踏破。

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