元夫の変化、取り込まれる子ども…「離婚」した女性に聞いた“その後”の葛藤
どんなタイミングであれ、離婚は人生の一大事であって、別れた後はすぐに楽しい第二の人生が始まるかどうかは、誰にもわかりません。
ある女性は、40代で離婚を選んだものの、他人となった元配偶者との関係に悩んでいました。
離婚のリアルについて、一つのケースをご紹介します。
「夫の浮気」からの離婚
敦子さん(仮名/44歳)は昨年に配偶者と離婚し、現在は小学生の一人息子とアパートで暮らしています。
個人事業主としてライターの仕事を続けている敦子さんは、「不安定ではあるけれど、コラムの依頼のほかにも出版した書籍の印税もあり、何とか収入は確保できています」と話します。
離婚の原因は元夫の浮気で、会社の取引先の女性と自分たちに隠れて飲みに行き、日曜日は休日出勤と嘘をついてその女性と会っていたことなど、LINEのやり取りから発覚しました。
「元夫がお風呂に入っているとき、テーブルにあったスマホが鳴って、画面を見たらその女性から『週末は楽しみにしています』ってメッセージが表示されていました。
そのときは動揺を隠して何も言わず、元夫はスマホにロックをかけていないのを知っていたので、それからトーク画面を自分のスマホで撮って、浮気の証拠にしました」
自分たちには仕事と言いながら、別の女性とドライブに出かけたやり取りなどを敦子さんから写真で見せられたとき、元夫は「人のスマホを勝手に見るなんて、最低だな」と、まず敦子さんを責め、浮気については「ただの遊びだよ」の一言で済ませようとしたそうです。
「嘘をついていたことを謝りもしない姿に、私をなめているのだなと感じましたね。それを言ったら、『遊びなんだからお前に謝る必要はない』と返されて、それで離婚を決めました」
自分をないがしろにする配偶者と暮らしていけないのは当然で、すぐに別居のためのアパートを探し、個人事業主のため契約で保証人が必要と言われ、同じ市内に住む両親に離婚を考えていることを打ち明けます。
「親からは『子どもがいるのに離婚なんて』と反対されましたが、そんな反応が返ってくるのは予想していて、『離婚はしないけどしばらく頭を冷やしたい』と、何とか説得しましたね」
と、両親に嘘をついてでも離婚したかった決意の深さを話してくれました。
夫には離婚したいことを伝え、案の定「ふざけるなよ」と怒るのを無視して子どもを連れてアパートに引っ越し、家庭裁判所に離婚調停の申し立てを行います。
「法律系の記事を書くこともあるので、調停については知識がありました」
調停委員を説得する証拠も文書もしっかりと揃えることができたと話す敦子さんは、
「元夫は、二回目の調停のときに離婚を決めました。裁判所に呼び出されて離婚を迫られるなんて、しかも浮気相手とのLINEのやり取りを他人に見られるなんて、耐えられなかったのだろうと思います」
財産分与では揉めたものの家電を敦子さんが引き取ることで慰謝料の代わりとし、何とか離婚が成立します。
ネックだった「面会交流」
「元夫が食い下がったのが、息子との面会交流でした。浮気したくせに『俺の息子なんだから、会う権利がある』とか調停委員に言うのを聞いて、本当に腹が立ちましたね……」
それでも、息子にとってはたった一人の父親だからと調停委員のふたりからも説得され、渋々と月に二回の面会交流を決めます。
待ち合わせは元夫と自分のアパートの中間にある公園で、面会交流でかかった費用について自分に請求しないこと、決められた時間に必ず息子を引き渡すことなど、調停のなかで取り決めもできていました。
「元夫は、最初のうちは決めたことを守っていました。何か違反すれば、私が裁判所に駆け込むと思っていたはずです」
問題は、「元夫ではなく息子だった」といいます。
「まだ9歳の息子に、父親の浮気なんて言えるわけないじゃないですか。子どもにすれば、ある日から親の仲が悪くなって母親に連れられて家を出て、父親と離れ離れで暮らす生活が始まったのですよね。
『明日はお父さんに会えるよ』と言うとうれしそうな顔をするのが複雑で、面会交流が終わって帰ってきたら『寂しい』と言って泣き出すのも、本当につらかったです」
そんな息子の状態に、元夫は「もう少し長い時間一緒にいることはできないか」と、週末に泊りがけで預かることを提案してきます。
敦子さんに伝えるより先に「これからは泊まりでおいで」と言われた息子さんは、もう決定したように喜んでいて、それを見た敦子さんは「反対なんてできない」と、面会交流のやり方の変更を受け入れました。
元夫からの新しい要求
「それからは、月に二回、週末は泊りがけで元夫のところに息子を預けています。
私もその間はひとりの時間をゆっくりできるし、友達と飲みに行ったりと新しい楽しみもあって、それはいいのですが……」
離婚に巻き込んでしまった息子への罪悪感から「息子さえ幸せなら」と、自分抜きで楽しい時間を過ごしている様子を見ても、笑顔で話を聞くようにしていたそうです。
そんな面会交流にまた変化があったのは、元夫から「これからは、参観日や運動会も参加したい」と言われたときでした。
離婚後は、参観日は敦子さんが学校に行き、運動会や音楽会などの行事については知らせることはしていなかったといいます。
「『息子が自分にも学校に来てほしいと言っている。一緒に見ることはしなくても、俺も参加したい』と、元夫からLINEでメッセージが届きました。
今まで、平日に行事があっても有給を取って学校に行っていた人なので、その気持ちは理解できました」
自分が言わなくても息子の口から行事については知れてしまうし、息子に確認してみたら「お父さんにも来てほしい」と元夫と同じことを言うのを聞いて、敦子さんは参加してもいいと決めます。
どこまでも「息子のため」が先に立つ敦子さんは、「息子が父親の存在を望むのであれば、できるだけ叶えるのが私の役目かもと、その頃は考えていました」と、自分が感じるストレスについては仕方ないと割り切っていたそうです。
ところが、いい意味で変化があったのが、元夫の態度です。
見えてきた変化
「面会交流が終わって息子が帰宅すると、『お母さんにお土産って、お父さんと買ったの』とドーナツの箱を持っていたり、私が好きなコーヒー豆を持ってきたり、元夫が用意したものだとわかりました。
以前はなかったことで、私への気遣いをなぜ思いついたのかは、今もわかりません」
LINEで送られてくるメッセージも、「お疲れさん」「ケーキを持たせたから」など、労りのような言葉が増えていました。
音楽会があった夜は、「あの子、集中してリコーダーを吹いていたな」とメッセージが飛んできて、別々の場所で見ていたけれど息子の様子を共有できることは、敦子さんにとって
「複雑な心境ではあるけれど、一緒に見守ってくれる安心感は、確かにありました。
何より息子が元夫が学校に来るのを喜んでいて、家での様子を伝えると『よかった』と返事が来るのも、穏やかな気持ちにはなりましたね……」
と、以前ほどストレスを感じなくなっていたそうです。
だからといって元夫と個人的に仲良くしようとまでは思わず、「あくまでも息子のことを中心に話す」のは、ふたりとも同じでした。
以前は、面会交流のときに「元夫が私の悪口を息子に吹き込むのでは」と胃が痛くなるほど心配していましたが、そんな様子はまったく見えないこと、息子が「三人でご飯を食べようよ」と笑顔で言ってくる様子からも、元夫のほうも精神状態は落ち着いていることは、伝わっていました。
「これから」への葛藤
「元夫から、私の誕生日に『もし嫌じゃなかったら、三人で焼肉でも行こう』とメッセージが来たときは、『気持ちはありがたいけれど、遠慮しておく』と返しました。
三人で食事は私にはまだ無理で、元夫がどんな意図で誘ってくるのかもわからないし、あまり近付きたくはないのですよね……」
元夫の変化は、家庭裁判所での調停のときに、「たかが遊びで浮気とは言えない」と初回で言い切った様子とは、まったく違っていると敦子さんは感じています。
いざ離婚が決定して自分や息子と離れて暮らすことになり、その寂しさから「丸くなっていったのかも」というのが敦子さんの想像ですが、だからといって浮気を許す気持ちも生まれません。
「冷静になって思い出してみたら、元夫は自分の浮気について私に一言も謝罪していなくて。離婚の原因になったそれを飛ばして別れてから仲良くなんて、やっぱり無理です」
と、安心感を覚えながらもこの事実を思い出すとまた気持ちがふさぐのが、敦子さんの状態です。
月に二回の面会交流を楽しみにしている息子は元気で元夫との仲も順調、それは感謝するけれど、「私との関係はまた別ですよね」と、関わり方については悩みがあります。
お土産を買ってくれたり気遣う言葉があったり、そんな元夫の変化に「あまり頑なになっても駄目だ」と思う一方で、「これから自分たちはどんな関係になっていくのかと、不安があります。
息子が元夫にどんどん取り込まれて、そのうちまた一緒に暮らしたいとか言い出さないか、逆に元夫がまた昔のような自分勝手な人間に戻るのではないか、やっぱり信用はできません」
息子のためなら、と流されるまま状況が変わっていくのを受け入れてきた敦子さんは、いつかどこかでこの状況にストップをかけないといけないのではと、葛藤を抱えています。
「息子がいなければ、きっとこうはならずにさっさと赤の他人に戻っているはずです」
子どもを介して元夫と距離が近くなっていく現実にどう向き合うか、敦子さん自身の生き方の姿勢が、問われているといえます。
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子どもがいる場合、離婚は成立しても面会交流があるために元配偶者とのつながりがなかなか切れないのは、よくある話です。
今回のケースでは、元配偶者のほうに前向きな変化があり、それを歓迎できるかどうかが問題。
「何のために離婚したのか」、つながりが続くなかで自分自身が納得できる関わり方を見つけていくことが、悔いのない第二の人生を歩むために大切といえます。
(ハピママ*/弘田 香)