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舞台『No.9』×石井琢磨コラボ連載、第2弾は剛力彩芽が登場~3度目の出演で改めて構築する”マリア”像とは? 「if」だからこそできること

SPICE

左から 剛力彩芽、石井琢磨

世界的な天才音楽家、ベートーヴェンの激しくも悲しい波乱万丈の半生を、彼の楽曲と共に描いていく舞台『No.9 ―不滅の旋律―』。白井晃演出、稲垣吾郎主演で今年4度目の上演を果たすこの舞台の、絶賛稽古中の現場に人気ピアニストの石井琢磨が潜入! SPICEでは、クラシック系ユーチューバーでもある石井さんと、ベートーヴェンを題材とし、2人のピアニストとコーラスが生演奏する舞台『No.9』の特別コラボレーション連載を掲載中だ。

第1弾には演出家・白井晃が登場、第2弾となる今回は、ベートーヴェンを秘書として支えるマリア・シュタイン役を務める剛力彩芽が登場。3度目の参加となる本作について、見どころや役への想いを語った。

「ベートーヴェンという人に魅了された」 ”マリア”だからできることとは

剛力彩芽

石井:剛力さんはこれが3度目の参加(2018年の再演、2020~2021年の再々演に出演)でいらっしゃいますが、この『No.9』はご自身にとってどんな作品ですか?

剛力:最初に参加したのは26歳の頃で、舞台出演自体が久しぶりでしたし、自分の中でも心境や環境の変化といろんなことがあった時期で、そういう中で声をかけていただいたことへのうれしさがまずありました。ただ再演からの参加になるので、マリア・シュタインを演じる俳優が変わって自分がどう見られるんだろうという不安も感じて。それでもぜひやりたいと思ったのは、ベートーヴェンという人の生き方に共感……はできないんですけど(笑)、すごく魅了されてしまったからです。この物語自体にも感動して、それを演じられることへのうれしさをより大きく感じました。いまは毎回、マリアというキャラクターにもベートーヴェンという人にも成長させてもらっているなと感じます。稽古と本番合わせて3か月くらいの短い時間ではありますが、マリアとしてすごく濃密な人生を歩んでいる感覚があります。

石井:マリア・シュタインは創作上の人物で、いわば「if」のストーリーを担っていると思うんです。実在する人物の中に存在する難しさもあるのかなと想像しますが、逆に言えば剛力さんが思うマリア・シュタイン像も出せるのかなと。キャラクターについてはどんなふうに考えていかれたのですか?

剛力:「マリア」という名前には、聖母マリアやベートーヴェンのお母さん(マリア・マグダレーナ・ケフェリッヒ)が関係していると聞いたので、ベートーヴェンにとっての安心になれたらいいのかなと思いました。ベートーヴェンは普段いろんなところで喧嘩を売って……(笑)

石井:ほんとですね(笑)。

剛力:喧嘩しながらも、素晴らしい音楽をみなさんに披露している。そうやって常に表に出ているぶん、マリアが側にいる時は「自分が出せる」じゃないけど、素直になるような感覚になれたらいいな、包み込めるような存在だったらいいなと思っています。ただおっしゃる通りオリジナルの存在なので、再演の度にちょっとキャラクターを変えてもいいんですよ。それができるのはうれしいです。

石井:ということは、前回、前々回の公演をご覧になった方も楽しめる存在になっているかもしれない。

剛力:そうだと思います。今回はどういうふうにしようかなって考えているので。

18歳から40歳手前まで。変貌するマリアのファッションや所作まで注目してほしい

石井:作品を拝見した時、物語の序盤のマリアと終盤のマリアが全然違っていて、鳥肌が立つくらいだったんです。序盤の天真爛漫なマリアからだんだんと変貌を遂げていっていて、良い言い方じゃないかもしれないけど、前半と後半で別人の領域だと感じたんですよ。

剛力:うれしい! ありがとうございます。そこは意識して演じていました。

石井:あ、よかった。今、チャレンジで話してみたので(笑)。

剛力:ふふ(笑)、ありがとうございます。マリアは18歳くらいから始まるので、台本に記されている年数を参考に、各シーンの年齢を計算していきました。そうすると最後は40歳手前になるのですが、これってけっこうな年数ですよね。だから最初はただのやんちゃで無邪気な女の子から始まって、ベートーヴェンという人に出会って、その存在がどういうふうにマリアに影響していくのかを考えながら演じています。特に途中、ベートーヴェンに対して恋心を抱いているのか抱いていないのかっていう……

石井:そう~! 繊細な……!

剛力:そうですよね(笑)。登場する女性たちはそれぞれベートーヴェンに恋心なのかなんなのか、という淡い感情があって。マリアの気持ちはそんなには描かれないんですけど、すごく大事な部分だったりします。そういうことも含め、マリアは何かの覚悟を決める瞬間が多いので、その瞬間瞬間に変わっていっている気がしています。五線紙と会話帳を渡す瞬間もそうですしね。一つ一つが大事なポイントになっています。

石井:そういう時の表現がさすがだなと思いました。

石井琢磨

剛力:うれしいです。マリアはファッションの雰囲気も変わっていって、洋服と髪型はぜひ細かく見てほしいです! 舞台だからそこまで見えないかもしれないんですけど、すごく細かいところまで作り込まれているので! 自分の中では大きく変わる要素です。

石井:所作も変わっていきますよね。最初はダダダと走っていたのに、ちょっと色気が出てきたりもして。

剛力:うれしい、所作はかなり意識しています。物を持つ仕草から。

石井:そういう部分は演出の白井晃さんのご指示ですか? それともご自身の作り込みの中でそうなるのですか?

剛力:自分で感じてそうなりました。

石井:そうなんですね。僕、先日(『No.9』の)稽古を見せていただいたのが初めての演劇の現場だったのですが、白井さんは割と(役者に芝居を)預けられているんだなと思いました。

剛力:はい、白井さんはまず全部預けてくださって、そこから丁寧に見てくださるんですよ。稽古期間も後半になると、白井さんとみんなで「こういう感じにしていこう」と話すこともあります。

石井:へえ! そうやっていろんな人の思いが合わさってマリア像ができるということなんですね。

>(NEXT)ぶっちゃけ……ベートーヴェンに惹かれる気持ちはわかる?


ベートーヴェンに惹かれる気持ちはわかる?

石井:これは絶対に聞きたいなと思っていたのですが、ベートーヴェンに惹かれる気持ちってわかりますか?

剛力:めちゃめちゃわかります。

石井:わかります!?

剛力:わかります!

石井:えー!

剛力:(笑)。すごくムカつくし、大嫌いな時もあると思うんですけど、なんなんですかね? あの守りたくなる感じ。

石井:母性なんですかね~。

剛力:ほっとけないんですよね、結局。

石井:(音楽に)没頭している人、というのもあるんですかね?

剛力:ひとつのことを突き詰めていて、才能もある。そういう人ってある意味、孤独じゃないですか。(稲垣)吾郎さんが演じるベートーヴェンにそう感じているのかもしれないですけど、そう見える。だから「そばにいてあげたい。何かできるわけじゃないけど、私がいるだけで何か変わる?」みたいな。

石井:なるほどー!

剛力:1日に3回くらい「ほんとやだ」「ほんときらい」って言いそうですけど(笑)。

石井:だっていきなり癇癪起こして出て行ったりしますからね。

剛力:でもマリアは結局追いかけて「帰るよ」って引っ張ってくる(笑)。母性が強い人にとっては、(ベートーヴェンは)放っておけない人なんじゃないかなと思います。

石井:暴君は暴君でも、才能ある暴君ならOKってことですかね。

剛力:ははは! でもやっぱり自分の好きなことに夢中になっている人は素敵ですよね。

秘書としてどうあるか。音楽家(ベートーヴェン)のそばにいるには……

剛力:逆に私、石井さんに伺ってみたいことがあって。マリアはベートーヴェンの秘書で近くにいる存在なのですが、実際に音楽家の周りにいらっしゃる方ってどんな感じなのですか? 

石井:そこは多分、俳優さんの周りにいる方と似ていると思いますよ。

剛力:似ているんですね。

石井:ただ、ピアニストに関しては基本一人なんですよ。そこがオーケストラの楽器奏者と違うところです。練習も一人だし、舞台に出る時も一人だし、舞台上にいる時も一人。だから「孤独」に関しては、ベートーヴェンと似た感覚があると思います。そこを楽しめる人がピアニストになると思います。

剛力:じゃあそこに(マリアのような)誰かが入ってきたらイヤですか?

石井:そうですね。なのでわかりますよ、劇中でのベートーヴェンの気持ち。「いま、集中してるんだから!」みたいなのはありますね(笑)。

剛力:そういう時に、どんなふうに入ってきたらうれしいですか?

石井:これは僕の場合ですけど、タイミングだと思います。一瞬ある“一息つきたい時”に来てほしい。そこはわかってくれてるね?って思いたい(笑)。つまり「言わなくてもわかってほしい」ってことだから、めっちゃ甘えん坊ですよね。わがままな甘えん坊。しかもそのタイミングって一瞬しかないんです。音楽家っておそらくそう。

剛力:へえ~なるほど。マリアって、ベートーヴェンが他の誰かとワーッと喋っている時に喋らずポツンといることが多いんです。今のお話で、そういうシーンでの居方や動き方が変わってきそうだと思いました。

石井:でもマリアは本当に包み込んでいる感じがありますよ! すごいです。そして僕、ベートーヴェンじゃないですからね!?

剛力:(笑)。でもすごくいいことを聞けました。ありがとうございます、うれしいです。

>(NEXT)インタビューを終えて


インタビューを終えて

石井:今日はありがとうございました。剛力さんと実際にお話しさせていただいて、『No.9』は重い題材を扱っている作品だと思うのですが、その中でこの天真爛漫さを兼ね備えたお芝居ができる剛力さんがマリア役でいらっしゃることはすごく重要なポイントなんだなと思いました。

剛力:こちらこそありがとうございます。石井さんお話しがすごく上手ですね。とても楽しかったです。

石井:ありがとうございます。僕がやりたいと言って(インタビュアーを)やらせてもらったので、気になったことを聞かせてもらいました。

剛力:人に何かを質問するってすごく難しいと思うので、すごいなと思いました。

石井:剛力さん、とてもお話ししやすかったです。なんか元気が出ました。

剛力:ありがとうございます。うれしい!

聞き手=石井琢磨 文=中川實穗 撮影=山口真由子

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