子どもの返事が「別に」「大丈夫」ばかり…。臨床心理士が教える正しい関わり方とは?
臨床心理士・公認心理師のyukoです。「子どもが「大丈夫」としか言わなくなって寂しい。もっと色々話してほしいのに」と感じている親御さんは多いよう。子どもの沈黙は、拒絶ではなく、心の整理が追いつかないサイン。沈黙の背景にあるサインを受け止めて、上手に関わる方法を模索してみましょう。
「大丈夫」「放っといて」「別に」ばかりの返事
小学5年生の息子は、最近何を聞いても「大丈夫」や「別に」ばかり。
「学校どうだった?」と聞いても「別に」と小さな声で返すだけ。「別にじゃないでしょ。楽しかったとか、誰と遊んだとか教えてよ」と話すと「うるさいな」と小さくつぶやく。それ以上話すと「もういいから」と部屋にこもってしまう毎日。このまま話しかけないで放任したほうがいいの? どう関わればいい?
子どもが「大丈夫」と繰り返す時期に悩む親御さんは多いもの。
感情がなくなったのかな? もう親離れ? と心配になりますよね。
子どもが「大丈夫」や「別に」しか話さないときは、感情がなくなったわけではありません。むしろたくさんの気持ちが頭の中で渦を巻いているのに、それをうまく言葉にできない状態といえます。
そんなときに「何があったの?」「どうして話してくれないの?」と聞かれると、余計にわからなくなってしまうんです。
大切なのは、「今はまだ話す気分じゃないのかもしれないね」とそのままの状態を認めること。
その安心を積み重ねていけると、やがて「話してみようかな」という気持ちを作っていけます。
言葉ではなく“感覚”で心をつなぎとめる
言葉が出てこない子どもには、無理に話を引き出そうとするより、
音・匂い・触覚といった“感覚の共有”が回復の助けになります。
たとえば
・一緒に台所で作業する。野菜を切る、果物を洗う、おかずを炒める。
・夕方一緒にスーパーに出かけたり、夜に短時間ドライブする。
・髪をとかしてあげる、ハンドクリームを塗ってあげる。
こうした感覚のやりとりは、心の緊張をほぐし、感情を言葉に戻すウォームアップになります。
大切なのは、”何か話してほしい”と思う気持ちを手放して、”まだ一緒にできることはある”と親自身が子どもと過ごす時間を感じること。
言葉を引き出すのではなく、「言葉のない居心地のよい時間」を作るのがファーストステップになるんですね。
沈黙のあとに生まれる“小さな行動”をキャッチする
思春期の始まりとはいっても、まだまだ親から離れたり寄って行ったりを繰り返す時期。
子どもが親のそばに戻ってくる瞬間をキャッチするのがポイントになってきます。
たとえば、
・作業をしているとき、「ママ、これどこ置く?」と聞いてくる。
・忙しくしているときに「手伝おうか?」と声をかけてくる。
・テレビを見ながら「え、何これ変なの」と笑う。
短い言葉であったとしても、業務連絡のような内容だったとしても、ふとした会話が増えてきたらよいサイン。
しかしこのタイミングで焦って「何があったの?」と聞くのはNG。
質問をするのではなく、一緒にできることを探してみるのがおすすめです。
・じゃあこれついでに一緒にやってくれる? と洗濯物を畳む。
・手伝ってくれるならもう一品増やそうかなと料理を続ける。
・ペットと一緒に遊ぶ、お世話する。
心理学では、こうした関わりを「行為の共同化」と呼びます。
言葉を介さなくても、同じ動きを共有することで、心のテンポが合い始めていくんですね。
対面で向き合って話すよりも、隣で作業する時間を増やすことで、「今日実はさ、」と口を開く時間も戻ってくるでしょう。
「大丈夫」としか言わない子の沈黙は、心が閉じたサインではありません。
言葉数が少なくなったとき、親ができるのは、静かな空気の中で見守ること。
話さなくてもわかってくれる人にこそ、話したいと思うものです。
言葉ではなく、音や動き、空気で通じ合う関係を大切にしながら親子のつながりを保てていけるといいですよね。
yuko/臨床心理士・公認心理師