猫猫ってやっぱり「猫」って意味? 壬氏は「妊に通じる人」?──特徴的な名前が多い 『薬屋のひとりごと』のキャラクター名の意味を調べてみた
薬と毒の知識を持つ少女・猫猫(マオマオ)が、その知識や観察眼で後宮内の事件や謎を解き明かす人気作品『薬屋のひとりごと』。日向 夏先生のライトノベルが原作で、これまでにコミカライズ化されているほか、2023年にアニメSeason1が放送され、2025年1月よりアニメSeason2が2クール連続で放送されています。
様々な思惑が蠢く女の園で巻き起こる難事件の全容を猫猫が解決していくさまが痛快であり、後宮内の複雑な人間関係がファンを魅了する本作ですが、主人公の猫猫をはじめ、キャラクターたちの名前は日本人にはあまり馴染みのないものが多いですよね。
本作は架空の中華風帝国が舞台ということで、主要キャラクターたちの名前の中国語での意味を調べてみることにしました。あくまで“中華風ファンタジー”なので、中国語の意味がそのまま当てはまる名前ばかりではないかもしれませんが、作品を楽しむひとつの要素としてお読みいただければ幸いです。
※本作には若干のネタバレ要素が含まれます。
猫猫・壬氏
猫猫(マオマオ)
猫猫は文字通り、「猫」を意味します。一文字の“猫”も同じく「猫」を意味しますが、二文字重ねた方が「ねこちゃん」のような親しみを込めた意味になるそうです。また、中国で長寿を意味する「耄」と発音が同じであることから、“猫”にも長寿を願う意味が含まれます。
ちなみに、Season2から医局で飼われるようになった小猫・毛毛(マオマオ)は、中国語ネイティブの方には“猫猫”とは明確に違って聞こえるのだとか。作中でもイントネーションに若干の違いは感じられますが、日本人の耳には同じ「まおまお」に聞こえますよね。
壬氏(ジンシ)
“壬”は古代中国で生まれた「十干(じっかん)=甲、乙、丙、丁、戊、己、庚、辛、壬、癸」の9番目の文字です。今でいうところの数字のような役割を持っており、日付や時間、方角を表す際に使用され、同じく古代中国の自然哲学である陰陽五行思想と組み合わせて使われることもあります。
“壬”はその陰陽五行思想的に「“妊”に通じており、陽気を下に受けてはらむ」という意味を持つ字です。壬氏という存在は仮の姿ではありますが、皇位継承者を産み育てる機関でもある後宮を管理する者として、この名前が付けられたのでしょうね。
華瑞月(カズイゲツ)
こちらは壬氏の本名です。“華”は皇族の名字であり、兄である現帝も同じ名字です。“瑞”は「めでたいこと、めでたいしるし」という意味があり、“月”はそのまま「月」の意味を持ちます。“瑞月”は、「めでたい月」や「吉兆」という意味になるようです。
上級妃・皇太后
玉葉(ギョクヨウ)
“玉”は美しい石(宝石)のことを意味し、ひいては女性の容姿の美しさや気品があることを意味する言葉です。特に翡翠は玉の指す宝石の中でも最も価値が高いものとして扱われています。玉葉妃の住まいは翡翠宮ですよね。
つまり玉葉は直訳すると「美しい葉」という意味になるのですが、“玉葉”とは皇族という意味もあり、さらには日本語でも「天皇の一族」という同じ意味を持つ言葉のようです。
梨花(リファ)
“梨花”はそのまま「梨の花」という意味。バラ科の植物である梨の花は、桜に似た形の花びらを持ち、色は純白でとても美しい花です。“梨花”は中国では馴染みのある名前のようで、創作物の登場人物やお店の名前として用いられることもあるよう。
また、中国で生まれた「梨花帯雨(りかたいん/日本語:りかたいう)」という言葉は、美人が悲しみを抱えて涙する様子を表しています。子を失って悲しみに暮れる梨花妃を彷彿とさせますね……。
里樹(リーシュ)
“里”には日本語同様「故郷」という意味のほかに、服などの「裏」や物事の「中」「内側」「奥」といった意味があります。さらに、古代中国において長さの単位でもありました(里=約500m)。“樹”は日本とほとんど意味は変わらず、樹木を表す言葉で、優れた記録や手柄を打ち立てる(樹立する)という意味も持っています。
阿多(アードゥオ)
阿多は、今の南九州・鹿児島県南さつま市あたりの地域を指す言葉です。“阿”単体では、名前に付けて呼ぶことで親しみを込めた呼び方になる言葉として方言で用いられています。“多”は日本語と同じく「量が多いさま」を意味しており、転じて豊かであることを表す意味もあります。
楼蘭(ロウラン)
“楼蘭”は古代中国の西域(現在の新疆ウイグル自治区)に存在した都市の名称です。ユーラシア大陸を横断するシルクロードの中にあり、交易によって栄えました。“楼”単体の意味は「2階以上の高い建物」。“蘭”は日本と同じく植物の「蘭」を表すものですが、中国において蘭は「四君子」と呼ばれて古くから人々に愛される草花のひとつです。ちなみに他の3つは「梅」「竹」「菊」。
安氏(アンシ)
“安”には日本語と同様に「安らか」「安定」「安心」「平和」といった意味があり、“氏”は名字を表すことから転じて「家」や「家柄」といった意味を持っています。二つを組み合わせると「家を安定させる」といった意味となり、国母らしい名前となります。個人的な考察ですが、壬氏の“氏”は実母である安氏から取ったのかな、と思っています。
馬の一族
高順(ガオシュン)
“高”は日本語の意味と大きな違いはなく、身長や建物に使う「高い」、水準が平均より上である「高い」、物事が優れているという意味の「高い」、身分についての「高い」といった意味があります。
“順”も日本語の意味と同じく「順番」「順序」といった意味に加えて、「付き従うもの」という意味もあるそうです。日本語にも「従順」という似た意味の言葉がありますね。元々皇族を警護する役目を持つ高貴な生まれである高順。身分の高さと主への従順さを感じさせる名前です。
馬閃(バセン)
“馬”は馬一族の名字ですが、中国文化において馬は非常に縁起が良いものとされており、「祝福」「激励」「成功」などの意味を持つ四字熟語にもよく用いられています。“閃”は物事を思い付いたときの「ひらめき」や瞬間的な光の意味のほかに「ぱっと避ける、隠れる」といった意味も持っています。
羅の一族
羅漢(ラカン)
中国において“羅漢”は仏教の「阿羅漢」の略称で、最高の悟りに達した聖者のことを指します。仏教の開祖・釈迦の弟子のうち高位の者は全員羅漢とされており、その語源は「人々から尊敬されるにふさわしい人」の意味を持つサンスクリット語です。
羅門(ルオメン)
”羅”は「網を使って捕まえる」「収集する」「目の細かい網」といった意味を持ち、“門”は「門扉」「ドア」「入口」の意味を持ちます。また、羅漢、羅半に対して、羅門だけ“羅”を「ルオ」と読みますが、「ラ」は日本語読み、「ルオ」は中国語読みです。
羅半(ラハン)
“半”は日本語と同様「半分」「2分の1」という意味を持ちます。半人前、のような印象を受ける名前ですが、数字に強い羅半らしい名前とも言えるでしょう。改名しているキャラクターもいるので、今後の展開においては名前が変わることもあるのでしょうか……?
猫猫の後宮関係者
小蘭(シャオラン)
先述の通り、「蘭」は「四君子」のひとつとして古代から中国で愛されてきた植物です。儒教の祖である孔子が自身を蘭に例えたという言い伝えから「高貴さ」「気高さ」を象徴する花として知られています。“小”は「小さい」のほかに「かわいい」といった意味もあり、生活苦から親に売られてしまった小蘭ですが、親に愛されて名付けられたとわかりますね。
子翠(シスイ)
“子”は「子ども」や「種」といった意味を持ち、“翠”は鳥の「カワセミ」や宝石の「翡翠」を表します。カワセミは中国で神聖なものとして扱われており、宝石の名称も羽の美しい色から取られたものです。
先述の通り、翡翠は中国で非常に重要なもので、ただの宝石としてだけでなく、「地位や権力」「一族繁栄」「長生き、長寿」などを象徴する意味を持つ、中国文化に欠かせない宝石なのです。子翠の名には、一族の繁栄や子の長寿が願われたのでしょうね。
李白(リハク)
“李”は「すもも」を意味し、沢山実をつけることから「子孫繫栄」の意味もあるようです。また、李白は古代中国に実在した詩人の名前でもあります。本作は唐の時代をモチーフにした物語ですが、詩人・李白も唐時代の人物です。
その他
僥陽(ギョウヨウ)
僥倖は現帝の本名です。“僥”は「運が良い」「幸運」、“陽”は「太陽」「明るい」といった意味をそれぞれ持っています。とても晴れやかな名前であり、国家繁栄の願いが込められているようです。また、皇弟には“月”の文字が入っていることから、2人で対になる名前になっていることがわかります。
鈴麗(リンリー)
鈴麗は現帝と玉葉の間に生まれた娘です。“鈴”には、その清らかな音で邪気を払うとされていることから、魔除けの意味があります。神社を参拝する際に鈴を鳴らすのはそのためです。“麗”は「美しい」「麗しい」という意味があります。
翠苓(スイレイ)
薬に精通した謎の女官・翠苓。“苓”はミミナグサ(耳菜草)と呼ばれる、小さな白い花を咲かせる野草です。薬草として漢方にも用いられることもあり、主に鎮痛効果、解熱効果、利尿作用があります。
子昌(シショウ)
楼蘭妃の父で、先帝時代から長く重用されている臣下・子昌。“子”は先程ご紹介した「子ども」の他に干支の「ねずみ」という意味も持っています。また、“昌”は「盛んになる」「盛んである」という意味です。子一族の傍流の生まれながら、聡明さと真面目な働きで一族の長に上り詰め、さらに宮中でも権力を築いた彼らしい名前だと言えるでしょう。
気になった名前はぜひ調べてみて!
名前の意味とキャラクターたちの生い立ちや物語での立場などを照らし合わせてみると、どれもぴったりの名前で、知れば知るほど面白いと感じるものばかりでした。
今回、網羅はしていないものの、数多くのキャラクターを取り上げたため、一人一人の説明は簡略化しています。好きなキャラクターや気になったキャラクター、項目についてはぜひご自身で調べてみてください。きっとより一層『薬屋のひとりごと』を楽しめるはずです!