【高知家の後継者募集】地域密着の地元スーパーを引き継ぐ 高知県東部の東洋町・室戸市に展開するスーパー「フェニックス」
「今日は、えい魚が入っちゅうよ。見ていって~」
従業員の快活な声が店内に響く。
その声につられた常連客が冷蔵ショーケースをのぞき込み、熱心に品定めをする。
「値段は888円。縁起がえいろう。お買い得でぇ~」
ここは、室戸市佐喜浜町の商店街の一角にある「スーパー・フェニックス」の佐喜浜店。地域に住む人々が足繫く通ってくる地元の「コンビニ」的存在の老舗スーパーだ。
フェニックスは、現オーナーの手島健一郎さん(75)と妻のひとみさん(70)が二人三脚で創り上げてきた。
創業は1975年。車による行商からスタートし、八百屋の経営を経て、健一郎さんの出身地である甲浦に店舗を開いた。
2年後に室戸市佐喜浜にも出店、以来、40年以上、地域密着の温かみのあるスーパーとして地元住民に利用されてきた。
特に人気なのは、その日に手作りするお寿司や弁当、惣菜類。
お昼前には、陳列棚いっぱいに並べられており、地元の常連客がひっきりなしに訪れては買い求めて行く。
「お客さんが何時に来て、何を買うかは大体把握しています。惣菜を作るときに、これはあの人が買うだろう、なんて想像してパックに詰めるんですよね。ほぼ当たりますよ~」
ベテラン従業員の藤本喜美江さん(71)が微笑む。
都市部の店舗と違って、顧客との距離は驚くほど近い。
まるで、親戚か友達にご飯を作っているかのような感じ。
顧客の方も、自分の味の好みまで知っている人が作ってくれた惣菜だけに、安心感はこの上ない。
「お客さん一人ひとりを丁寧に見てあげる。そして困っている人に手を差し伸べる」
オーナーのひとみさんが創業以来大切にしてきた店の信条だ。
こうした心のこもった経営が地元住民に浸透し、愛され続けてきたわけだ。
現社長は長女の手島咲織さん(50)。
「顧客によりそう」という精神はしっかりと受け継がれ、地域にはなくてはならない小売店として、堅実経営を続けている。
金融機関からの借入金はなく、店舗の設備などはすべて現金購入で機器類のリース契約もない。
咲織さんが社長を引き継いだ後に、店の売り上げの最高記録を更新したこともあるという。
こうして、財務的にはほぼ問題ない経営なのだが、近年、「高齢」と「病気」という別の重要課題が浮上してきた。
寄る年波には勝てず、健一郎さんは既に店を切り回すことが困難になり、ひとみさんも病気がちに。
咲織さんと妹の織田麻美さん(49)に経営的な負担が重くのしかかり始めた。
それでも、何とか経営を続けて来たが、「もうこれ以上は続けられそうにない」という状況になってしまった。
やむを得ず今年の秋以降に佐喜浜店から順番に閉店することを決めたという。
「うちがなくなれば、地元で困る人がいることは分かっています。だから、引き継ぎ先を探したいと思って、全国の人に呼び掛けようと思ったんです」
地域の人々との繋がりが深いだけに、ひとみさんも咲織さんも、「何とか承継先を」との思いは強い。
甲浦店のある東洋町は、県外からのサーフィンで有名な地域で、夏場は県外からの流入客も多い。
高規格道路「海部野根道路」の計画も進んでおり、都市部からのアクセスもさらに向上する。
新オーナーのアイデア次第で、安定的な地元密着型の売り上げに、さらに上乗せができる可能性も十分ありそう。
フェニックスは、死んでも蘇ることで永遠の時を生きるといわれる伝説上の鳥。日本では不死鳥とも呼ばれる。
地域の愛が詰まったスーパー、フェニックスがどんな形で蘇るのか。新しい装いで羽ばたく姿を見られるように、地域住民は願っている。
店舗情報
フェニックス
高知県室戸市佐喜浜町1600-40
経営は上手く行っているのに、後継者がいないために廃業せざるを得ない――そんな悩みを持つ企業が全国的に激増し、大きな社会問題になっている。高齢化先進県である高知県は全国に輪をかけて、事業承継の課題が山積している。「県内での事業承継を少しでも増やしたい」。このコーナーは、事業を譲りたい人と受け継ぎたい人を繋ぐ連載です。
高知県事業承継・引継ぎ支援センター
電話:088-802-6002
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担当:野本・横山