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【あんぱん】豪(細田佳央太)と蘭子(河合優実)の繊細で湿度の高い芝居...重要なシーンの「演出」も見事

毎日が発見ネット

【あんぱん】豪(細田佳央太)と蘭子(河合優実)の繊細で湿度の高い芝居...重要なシーンの「演出」も見事

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「豪(細田佳央太)と蘭子(河合優実)」について。あなたはどのように観ましたか?



※本記事にはネタバレが含まれています。



国民的アニメ『アンパンマン』の原作者で漫画家・やなせたかしと妻・小松暢をモデルとし、中園ミホが脚本を、今田美桜が主演を務める朝ドラ『あんぱん』第6週「くるしむのか愛するのか」が放送された。出征する豪(細田佳央太)と蘭子(河合優実)のもどかしい思いが、まるで文学か映画のような含みや憂いある芝居と演出で表現された今週。



嵩(北村匠海)は東京高等芸術学校に入学し、受験のときに会った健太郎(高橋文哉)と再会する。担任・座間(山寺宏一)は将来についてはっきり言えない嵩を肯定、「君たちの将来は真っ白だ、何にでもなれる」と言い、銀座に行って世の中を心と体で感じてくることを勧める。かつて家族で行った銀座のパン店を訪ねた嵩は、店内に飾られた写真に草吉(阿部サダヲ)そっくりの人物の姿を認め、それをのぶへの手紙で伝える。



当時、結婚前の異性からの手紙は問題視されていたため、差出人の名前が「柳井嵩子」となっているのは微笑ましいが、「ここには自由がある」という暢気な文面で、おまけに「東京には美人しかいない」と余計なことまで書いてしまう嵩。



そんな中、気になるのは、健太郎の存在感だ。嵩にやたらとからみ、街で見かけた美人の数を正の字でメモし、嵩の家に強引に居候する陽気で気ままな図太さは、『ゲゲゲの女房』(2010年度上半期)の茂(向井理)の幼馴染で、トラブルメーカーながらどこか憎めない「ねずみ男」浦木(杉浦太陽)を彷彿とさせる。それにしても、前髪パッツンのお茶目な風貌で、絶妙なコメディ芝居を見せる高橋のふり幅の大きさには驚かされる。



一方、のぶは体育大会に応募したいと申し出るが、ただ「走りたい」という素朴な理由は、黒井(瀧内公美)に一蹴されてしまう。「学校の名誉、忠君、愛国のため」という全体主義の大義名分が重んじられ、「個」が軽視・踏みにじられていた時代。自由な嵩達とは対照的に、のぶは軍国主義になじめず苦悩していた。



そんな中、豪のもとに赤紙が届く。赤紙から豪の顔に目を向け、おめでとうございますと静かに言う蘭子の切なさ。蘭子の「好きな人」は豪ではないかとのぶに尋ねられ、どうにもならんと布を指先で弄りつつ、俯き、うなずく蘭子。豪が唯一の肉親である足摺岬のおばあに会ってから入隊すると聞き、釜次(吉田鋼太郎)は豪の壮行会を計画。蘭子の思いを知るのぶは羽多子(江口のりこ)らに相談し、その夜、眠れずにいた蘭子は羽多子と父の馴れ初めを聞くのだった。



壮行会当日。ギリギリまで働く豪と、仕事に行く蘭子は、真面目なところも、自分の思いを言葉にするのが苦手なところも、やはり似た者同士だ。「いつも通りのことをしてないと、ヘンになりそうやき」と蘭子は言う。



壮行会を前に、意を決して思いを伝えようとする蘭子だが、「豪ちゃん......うち......ずっと......」の続きが言えない。豪もまた「蘭子さん」と呼びかけるが、「ずっと......」に続いて言ったのは「長い間お世話になりました」だった。互いに深々と頭を下げる2人がもどかしく、泣きそうな笑顔から、背を向けてそっと涙を拭い、壮行会に向かう蘭子の背中が切ない。



壮行会が進み、豪は朝田家に一人一人名前を呼んで挨拶をするが、年齢順でなく、「のぶさん、メイコさん、蘭子さん」と思い人の名を最後に呼ぶのが、豪の精一杯の告白だったろうか。三姉妹は釜次に促され、豪のためによさこい節を歌うが、元気な笑顔ののぶとメイコと別に、蘭子の視線はまっすぐ豪に注がれていた。最初は笑顔でその視線に応えた豪も、苦しくなり、外に飛び出す。細田の表情の変化が実に巧みだ。



朝田家の家屋に向かって深々頭を下げ、去ろうとする豪を蘭子が追いかけ、勇気を振り絞って思いを伝える。



「豪ちゃんは......足が遅いき、弾にあたらんか心配や。きっともんて来てよ......きっとやのうて、絶対や」



パン食い競争でズルをした岩男を「食パンの角に頭ぶつけて死んでしまえ!」と罵った蘭子が、後に岩男に求婚されて逃げ出した一方、優勝できずラジオを獲得できなかったことを詫びた豪への愛しい思いを、こんな場面で、こんな形で伝えるとは。人を好きになる理由は、「力」や「強さ」に惹かれるばかりではないことを蘭子が体現してみせる。



そんな蘭子の精一杯の告白に対し、豪も思いを口にする。
「蘭子さん......わしからもお願いがあります。無事もんてきたら、わしの嫁になって下さい」



小さく「え......」とつぶやき、髪を触り、嬉しさと戸惑いを見せる蘭子。朝ドラとは思えない河合の生々しい芝居に目が釘付けになるが、そこにのぶが駆け付け、ちゃんと返事をするよう促すと、蘭子は思いの丈を伝え、「お嫁さんになるがやき、もんて来てね」と応える。さらに羽多子が蘭子の着替えを持って現れ、豪に「蘭子をよろしうお願いします」、蘭子に「花嫁衣装も用意しちゃれんでごめんね」と言って2人を送りだす。そして、夜汽車で豪のおばあの家に向かった2人は、出征を前に一夜を共に過ごすのだった。



そして、豪という家族同然の身近な存在の出征が、のぶの心境を大きく変える。のぶは兵隊達のために自分にもできることをと、慰問袋を思いつき、学校全体に呼びかけ、街で義捐金集めも始める。そうした活動が新聞に取り上げられ、「愛国精神の鑑」としてもてはやされるようになる。一方、嵩は作品が入選し、50円を得て故郷に電話をするが、自由を謳歌する嵩と、軍国主義に走るのぶの道は大きくズレ始めている。来週はますますそのズレが際立ってきそうな気配だ。



ところで、今週の最大の見どころはやはり河合優実と細田佳央太の繊細で瑞々しく艶めかしく、湿度の高い芝居だったろう。ちなみに、この重要な場面で、セリフを極力排除し、柔らかな夕暮れの光とヒグラシの鳴き声の醸し出す物悲しさの中、役者の芝居の力をたっぷりの余白や余韻をもたせて存分に引き出した演出もまた、見事だった。



今週の演出は野口雄大氏。よるドラ『恋せぬふたり』や朝ドラ『エール』、大河ドラマ『どうする家康』などに携わってきたほか、映画岩槻映画祭グランプリや、第2回彩の国市民映画祭2024の大賞を受賞した短編映画『さまよえ記憶』(2024年)の監督でもあり、昨年にはデジタルハリウッド大学の現役大学院生としてインタビューも受けていた。



今後、野口氏の演出週も1つの注目ポイントになりそうだ。


文/田幸和歌子

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