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【島田市博物館の収蔵品展「日本画 郷土の画人-生き物の園」】 前原満夫さんの「寒野梅」を凝視

アットエス

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は島田市の島田市博物館で4月5日に開幕した収蔵品展「日本画 郷土の画人-生き物の園」を題材に。

江戸時代後期から現代にかけての日本画のあり方を教科書的に解説しつつ、現在の島田市周辺で創作を続けた画家たちの足跡を紹介する。岩絵の具や胡粉(ごふん)、墨などを膠(にかわ)と混ぜて和紙や絹に描く、日本画ならではの技法を説明。明治時代の西洋画の流入を契機に「日本画」という言葉が用いられるようになったいきさつにも言及している。

狩野養信の六曲一隻のびょうぶ絵もあるが、なんといっても地元作家の「系譜」を分かりやすく提示しているのがいい。その一つ一つが興味深い。

江戸で谷文晁に学んだ掛川藩の御用絵師・村松以弘(1772~1839年)が「遠州南画」の基礎を築き、遠江国川崎(現在の牧之原市)出身の平井顕斎(1802~1856年)は以弘に師事した後、江戸に出て文晁や渡辺崋山の門下に入った。

遠江国見附(現在の磐田市)出身の福田半香(1804~1864年)は、顕斎と同じように以弘に師事した後、崋山にもならっている。島田宿が本拠の桑原桂叢(1807~1858年)、飯塚九如(1840~1916年)の師弟関係も語られる。なんとも興味深いこの地域のファミリーツリーである。

個人的に最も引かれた作品は前原満夫さん(1944年~)の「寒夜梅」(2003年)。作者のコメントには「谷間の強風が吹き抜ける山道の脇に」たたずんでいた梅の木とのことだが、白い花を付けたその姿は、不自然と言っていいぐらい幹がまっすぐで、それだけが原因ではないだろうが、なにか「妖気」のようなものが漂っている。梅の木の背後の黒をじっと見つめたまま、動けなくなってしまった。

この「背後の黒」はなんとも不思議な色をしていて、ぼんやりとした光源もある。ただ、全体としてその実体がつかめない。作者のコメントから類推すれば、岩肌がむき出しになった「壁」状の面なのだろう。だが、それだけとも思えない。どこまでも広がっていく「暗闇」にも感じられるし、漆黒の大河にも見える。後者の場合。この梅の木は土手から横向きに生えていることになる。

そうしたあいまいさがたくさん残っているのがいい。見る人によって全く違う物語が生まれることだろう。展示室外にあった「草深百合」の明瞭な色合いと絵肌も印象深い。アートに出会う喜びが膨らむ収蔵品展だ。

(は)

<DATA>
■島田市博物館「日本画 郷土の画人-生き物の園」
住所:島田市河原1-5-50(本館)  
開館:午前9時~午後5時
休館日:月曜(祝日の場合は開館し翌平日休館)
観覧料(当日):一般300円、中学生以下無料
会期:6月15日(日)まで

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