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本を読み返すと、人生は少し生きやすくなる

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本を読み返すと、人生は少し生きやすくなる

これまで一度読んだ本の再読というものを、あまりしてこなかった。

世の中には魅力的な本が数多ある。そういうきらびやかな本に囲まれていると、つい読書数を稼ぐことに集中しがちになる。

実際…そうやって膨大な数の本を読み漁る事で得られたものも多かったと思う。世の中、どうしたって数を稼がなくては仕方がないという領分はある。


しかし最近になって、ふと昔に読んだ本を読み返してみると…色々と興味深い再発見が多かった。

この再発見には色々な要因がある。以前は肯定的に読めていたのが否定的にみえたりだとか、逆に以前はスルーしていた部分が妙に刺さったりだとか。


読めていたようで、実は全然読めていなかった

実際の具体例をあげるとしよう。”なぜ僕は瞑想するのか ヴィパッサナー瞑想体験記”という本がある。

この本は映画監督である想田さんが、10日間の瞑想合宿を体験された際に得た知見を書かれたものだ。


僕は最初に読んだ時は、ヴィパッサナー瞑想のメソッドの取得部分にのみ力点を置いて読んでいて、著者である想田さんが合宿を通じて得た知見については、あまり関心を払ってはいなかった。

しかしその後、実際に自分もヴィパッサナー瞑想合宿を体験し、その後3年ほど瞑想を継続してやり続けていくと、想田さんが得た知見を、自分自身も面白いほどに追体験していっているという事を理解できて、大変に興味深い。


他人が変な事をやっていても、スルーするのは技術が要る

例えばこの本では、瞑想合宿の最初の頃は、想田さんが他の参加者の人の不適切な行為に対して苛ついているシーンが何度も描かれている。

最初にこの本を読んだ時は、正直このシーンが何を表現しているのかよくわからなかった。けど、30回ぐらい読み返した後で、ふと

「ああ、最初の頃は他人の行動にイライラしていたけど…」

「瞑想合宿が進むと、他人は他人、自分は自分、と良い意味でスルー力がついたのを表現していたのか」

と理解ができるようになった。


他人の不貞行為、気になっちゃいますよね

世の中には過激な情報が実に多い。

例えば最近でも、とある芸能人の不倫のニュースがツイッター上を駆け巡っていて、それについて世間の人たちが不謹慎だと声高に叫んでいたり、あるいは出歯亀根性丸出して、インターネット上で情報を粗探ししまくっている姿がみられた。


しかし本当ならばである。その情報は本質的には自分自身の人生とは全く何も関係がない話である。

もちろんそこから何らかの学びを得ることは不可能ではないが、それよりも本当ならば重要で成すべき事が自分自身の人生には必ずあるはずなのである。


例えば肥満気味な人なら軽く運動すれば痩せるだろうし、仕事上で何らかの未習得な技術がある人なら勉強をすべきだろう。

家庭を持つ人ならば、家族との大切な時間の為に己の時間を使うという選択肢もあるはずだ。真夜中なら、睡眠時間の確保に時間を使うという選択肢もアリだろう。


自分自身の人生の優先順位のようなものを、あまり意図していない人は実に多い。本当だったらやらなくてはいけないものから目を背けて、刺激的なニュースに目をむけて、何らかの感情を発散させてスッキリしたいという人で、世の中は溢れている。


そのうち考えるのをやめた

もちろん、自分自身の人生を何に使おうが、それはその人の自由である。朝から晩までテレビをみて、テレビに向かって「最近の世間は物騒ねぇ…」とつぶやいて、ダラダラと寿命まで時間を使い潰すのも、それはその人の選択である。


しかし、これを読んでいる人の多くは恐らくなのだけど、人生で何らかの事を、一つや二つぐらいは成し遂げたいと、ちょっとぐらいは思っているのではないだろうか?

成し遂げたい事が具体的に思い描ける人は、ヘンテコなニュースに食いつく暇があるのならそれに集中すべきだし、成し遂げたい事が思いつかない人は、それを見出す作業に本来ならば集中すべきはずなのだが、実際にそれを実行している人は驚くほど少ない。


以前に「他人の不謹慎な行動を叩いている人は、自分自身の不安から目を背けたいのだ」という指摘を聞いたことがあった。

その言葉を聞いた時は正直あまりよく意味がわからなかったのだけど、今になると「他人を気持ちよく叩いている時」は「何も考えずにいられる時」なのだな、というのが実によくわかる。


というか、自分自身が実際にそういう時間の使い方をしている事が多かった。ジョギングをしていたり、瞑想をしていた時、昔に喰らった仕事上での苛つく行いが膨大にリフレインされ、それについて徹底して論破し続けるという、ものすごい不毛な時間を使いまくっていた。

しかしあまりにもそれを何度も何度も繰り返し続けると、そのうちそれについて考える事自体に飽きが生じてきたからなのか、そのうちそれについて考えるのを僕は辞めるようになっていた。

そうなってみてからというものの、他人や世間を叩きたくなるようになる度に、僕は「今本当にそれをするべきなのか?他にもやるべき事がないだろうか?」と再考するか、むしろ逆に自分自身の至らぬ点に関心をシフトするように、認知のマインドセットを変更するようになっていった。

そうなってみて初めて、僕は世間に動かされるのではなく、自分で自分自身の人生の主体性を始めて取り戻せるようになったような感覚が、得られるようになったように思う。


ああ、僕もよく、逃げていたのか

他にも、想田さんが「ああ、僕はこういうときに、いつも逃げていたな」と悟るシーンがあるのだが、この部分もまた自分は全然読めていなかったのだなと、再読しまくってようやく理解した。


例えば確定申告。本来なら、帳簿を定期的につけてさえいれば、直前になって焦って作業なんてする必要は一切ない”はず”なのだが…実際には毎年毎年直前に焦りまくって、ギリギリで作業を無理やり成し遂げるのを繰り返している。

家の掃除だってそうだ。毎日チョコチョコと習慣づけてさえいれば…そこまで時間がかかるような作業ではない”はず”なのだが…実際には逃げに逃げ続けて、場合によっては全く掃除をしないままの日々が続いていたりもする。


人生というものは、やるべき事を適切にやれば、必ず良い意味で先に進むものなのだ。仕事なら、キチンと誠実に実績を積み重ねてさえいけば、黙っていればそのうち勝手に出世していき、自分自身が収まるべき場所に収まる。

しかし私達の多くは、そういう行為には適切には関心を払わず、むしろ逆に酒を飲んで他人の悪口を言うような事に精を出してしまうのである。そんな事をしても一時的に気持ちよくなるだけで、何の意味もないというのにである。


適切な時に、適切な事をやるのは難しい

逃げる事は、必ずしも悪いというものでもない。最後まで悪あがきを続けるよりかは、早々に撤退戦を決意してしまった方がよいという事があるように、適切な場所で適切に逃げる事は、むしろ重要である。


しかし、実際には戦うべき場所で逃げている事が多いのが多くの人の現状だろう。出世したいのなら怠けずに仕事をキチンとやるべきだし、お金を稼ぎたいのなら無駄遣いせずに出費を減らして投資にでもお金を回すべきである。

また、実際には逃げるべき場所なのに戦ってしまっている人も大変に多い。例えばインターネット上では日々炎上が観察されるが、そんな他人の戦に乗り出す必要など全くないにもかかわらず、多くの人がそれに参戦し、スカッとした気分を手にする為だけに人生を摩耗させまくっている。


逃げるべき場所で戦ってしまい、戦うべき場所で逃げてしまう。そういう事をやっているから人生がうまくいかないだけなのに、己の人生が不運だと呪っている人はとても多い。

改めて、多くの人は世間のどうでもよいニュースに目を向ける暇があるのなら、自分自身の人生をキチンと取り戻すべきだと自分は思う。


「ねえ知ってる?ひとは自分が見たいものを、見るんだよ」

橘玲さんの亜玖夢博士の経済入門 (文春文庫) という本の中で、「ねえ知ってる?ひとは自分が見たいものを、見るんだよ」というセリフが出るシーンがある。

僕はこのセリフの意味が、最初に読んだ時は全然よくわからなかった。その当時の僕は、どちらかというと嫌な現実ばかりが目の前にあるように感じられる日々が続いており

「全然みたいものなんて見れないじゃないか」

と、強く憤りを感じていたからである。


しかし、それから随分と月日が流れ、改めてこのセリフを読み直すと、確かに人は自分がみたいものしか見ていないな、と思う。

あの当時の僕は、世の中を酷いものだと思いたかったのだと思う。そう思わないとやってられない位、辛い日々が続いていたというのもあるとは思うのだが。


人生は、何度か見返すと景色が変わる

しかし改めてこの歳になって世の中を見直してみると、不思議と世界の良い部分が妙に目につくようになる。

これは自分自身が今の自分の人生を肯定できるようになったというのが大きいように思う。だから世界は良いものであり、それ故に世界のよい部分に力点が置かれて、眺められるようになったのだろう。

本当に、人間というのは自分にとって都合のよい形でしか、世の中を眺められないものなのだ。


辛い時は幸せな姿が目に入ると辛くなるだけだし、逆に幸せな時は辛い現実が目に入っても、他人事としてしか受け取れない。

そういう意味で、本というものは、その時その時で、自分自身が”読みたい場所”しか”読めない”のだろう。


だから良い本は良い本であるほどに、再読する必要があるものなのだ。

***


【著者プロフィール】

高須賀

都内で勤務医としてまったり生活中。

趣味はおいしいレストラン開拓とワインと読書です。

twitter:takasuka_toki ブログ→ 珈琲をゴクゴク呑むように

noteで食事に関するコラム執筆と人生相談もやってます

Photo by:Hendrik Schuette

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