ミュージカル『四月は君の嘘』宮園かをり役を射止めた加藤梨里香にインタビュー「歌の力で物語をよりカラフルに」
日本発のオリジナルミュージカル『四月は君の嘘』が、2025年夏に待望の再演を果たす。
音楽に引き合わされた若者たちが、出会いと別れを通して成長していく人間ドラマを色鮮やかに描く本作。新川直司による同名コミックを原作に、音楽をフランク・ワイルドホーン、脚本を坂口理子、演出を上田一豪が担い、2022年に日生劇場で初演された。2024年にはロンドン・ウエストエンドや韓国・ソウルで現地プロダクションによって上演されるなど、世界でも評価された注目作だ。
今回の再演ではキャストが一新され、オールキャストオーディションを経てフレッシュな面々が揃った。元天才少年ピアニストの主人公・有馬公生は岡宮来夢と東島京、公生を音楽の世界に連れ戻そうと奮闘するヴァイオリニスト・宮園かをりは加藤梨里香と宮本佳林が、それぞれWキャストで務める。
2021年、2024-2025年のミュージカル『レ・ミゼラブル』でコゼットを演じ、今年12月からは新作ミュージカル『十二国記』の出演が控える加藤梨里香に話を聞いた。加藤は、本作の稽古を前にしての率直な気持ちを笑顔で語ってくれた。
ーー2024年1月にオーディションがあったそうですが、どんなオーディションでしたか?
歌の審査がメインだったと思います。私は実は2役で受けていて、(宮園)かをりちゃんのソロ曲「Perfect」と「旅に出よう」、(澤部)椿ちゃんのソロ曲「月の光」の計3曲歌わせていただきました。自分としては、どちらかというと椿ちゃんタイプなのかなあと思っていたんです。でもいざ結果を聞いてみたら、「宮園かをり役でお願いします」と。
ーー宮園かをり役に決まったときの心境は?
初演を観ていたのですが、いくちゃん(生田絵梨花)の演じるかをりちゃんがすごく印象に残っていたんです。いくちゃん自身の普段のカラッとした素敵なところもありつつ、かをりちゃんの儚さも持ち合わせていて、とても魅力的でした。だからこそ、自分にはその色が出せるのだろうかと不安な気持ちがあったんです。『レ・ミゼラブル』でいくちゃんと共演したときに、かをり役はいくちゃんにとっても大変な役だったと聞きました。なので、今はとにかく力の限り精一杯頑張ろうという気持ちです。
ーー既に台本も読んでいらっしゃるそうですが、作品のどういうところに惹かれますか?
一見すると青春モノなのに、実はとても繊細なテーマを持っているところですね。しかもそのテーマを高校生(原作は中学生、ミュージカル版は高校生の設定)の登場人物を通して伝えるという点も、すごく魅力的だと思います。彼らにとっての一日の時間は、若ければ若いほど尊いものだと思うんです。たった一日でどんどん変化していく若者たちの、今を生きるエネルギーを強く感じる作品だと思います。
ーーフランク・ワイルドホーンさんによる煌めく音楽からも、そうした魅力が伝わってきますよね。ワイルドホーン作品の出演は初めてですか?
練習曲として『ジキル&ハイド』のナンバーを歌ったことはありますが、出演するのは初めてです。この作品の音楽には、ワイルドホーンならではの大波のように物語を動かす壮大でメロディアスな魅力もありつつ、とてもポップな軽やかさがあります。音楽監督の塩田(明弘)先生も「ワイルドホーンの新しいフェーズに入った楽曲だよ」とおっしゃっていました。そんなポップな曲調なのに、歌詞はとっても切ないんですよ。そうした音楽と歌詞のアンバランスさも、すごく高校生らしいなあと感じています。
聴いていると本当に軽やかな楽曲たちなのですが、実際に歌うとものすごく大変で! 歌の練習をしながら、聴いていただけではわからなかった大変さを今実感しています(笑)。どんどん転調していったり、息継ぎのタイミングも難しかったり、歌詞がたくさん詰まっていたり、歌うとこんなにもハイカロリーなんだなあと。ワイルドホーンの音楽を身を持って感じているところです。
ーー曲調がポップなことも含め、若い方にも観やすい作品かもしれませんね。
確かにそうですね。劇場からの帰り道に口ずさみたくなるような楽曲もありますし、文化祭や部活動のシーンなど学生ならではの楽しい場面もたくさんあります。青春らしい甘酸っぱいシーンもあるので、その辺りも共感していただけるかもしれません。
ーー加藤さんが演じる宮園かをりとご自身の共通点は何かありますか?
人を引っかきまわすところでしょうか(笑)。普段から「すごく自由だね」とよく言われるんです。でも本当は自由に生きているようで、周りから支えられている人間なんだと思います。かをりちゃんは自由にまっすぐ生きている女の子。彼女は(有馬)公生を音楽の道に引き戻そうとしますが、これって失敗したら嫌われてしまう可能性もある行為だと思うんです。それでも彼女は覚悟を持って一歩踏み出して行動します。その点は私とは全然違いますね。他の共通点は一人娘だということと、いつも家族が協力して応援してくれるところですね。
ーーこの作品では出会いと別れを通して登場人物たちが成長していく姿が描かれています。加藤さんにとって転機となった出会いと別れを教えてください。
子どもの頃に出会った歌のボイトレの先生の存在が、私にとって大きな転機になりました。私の声は元々とてもハスキーで、高い声が全く出なかったんです。でもその先生は決して諦めずに私の声と向き合ってくださって、どうしたら歌えるようになるのかを一緒に考えてレッスンしてくれました。そのお陰でようやく高い声も出せるようになったんです。
心に強く刻まれた別れもあります。2021年の『レ・ミゼラブル』開幕1ヶ月前に、大好きな祖父が亡くなったんです。いつも私の夢を応援してくれて、それまで全ての出演作を観に来てくれていました。でも病気になってしまい、「『レ・ミゼラブル』が最後に観に行ける作品かな」と話していたのですが、残念ながらそれも叶わず……。当時は「観てもらいたかった」という気持ちが強かったのですが、今は「きっと全部の舞台を観てくれているんだろうな」と思っています。祖父との別れはとても寂しいものでしたが、「おじいちゃんがもっと生きていたかったと悔しがるくらいに活躍するぞ!」という決意が強くなりました。
ーー大切なお話をありがとうございます。加藤さんはこれまで舞台を中心にご活躍されていますが、舞台のどんなところに魅力を感じますか?
お客様からダイレクトに反応をいただけることですね。自分や相手のコンディション次第で、作品自体がどんどん変わっていく楽しさもあります。私は元々劇団に所属していた経験があるので(2012年〜2019年に劇団ハーベストに所属)、生の舞台が好きという気持ちが強いのかもしれません。
ーー『四月は君の嘘』には、アニメ、小説、実写映画、舞台など様々なバージョンがあります。ミュージカル版ならではの魅力は何だと思いますか?
歌の力で物語がよりカラフルになることだと思います。劇中のナンバーでも「色づいていく」という歌詞が何度も登場するんです。モノクロだった世界が色づいていくところを、より鮮やかに表現できるのがミュージカル版の魅力なのではないでしょうか。
ーーこの作品をどんな方に届けたいですか?
今高校生のみなさんにも、かつて高校生だったみなさんにも、全ての方に観ていただきたい作品です。好きなことをやめてしまった方、諦めてしまった方、挫折してしまった方、迷っている方……そんな人たちに優しく寄り添ってくれる作品だと思います。劇場を後にしたときに、外の景色がカラフルに見えるような作品を届けられるように頑張ります!
ヘアメイク:加藤かおり
スタイリスト:小西明日香
取材・文 = 松村蘭(らんねえ) 撮影=岡崎雄昌