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子どもを「ほめて育てる」=「叱らない」ではない理由 心理学博士が教える「心が折れない」育て方とは

コクリコ

子どもの自立を促すために必要な「ほめ方・叱り方」を心理学博士が解説。“ほめるだけで𠮟らない子育て”がNGな理由・ストレス耐性を高める子育てについてわかりやすく説明する。

【グラフ】令和5年「小学校の暴力行為」過去最多

「子どもはほめて育てよう」が主流になってきた昨今、子どもを𠮟らない親が増えたと言われています。

しかし、「“ほめて育てる=𠮟らないで育てる”では決してない」と説明するのは、心理学博士の榎本博明先生。「ほめてばかりで𠮟らない子育てには、さまざまな弊害がある」と警鐘を鳴らします。

子育てにおける「𠮟る」ことの重要性、そして、良い𠮟り方、悪い𠮟り方などについて、伺いました。

𠮟らず育てられた子どもはどうなる?

子どもはほめて育てる──。1990年代から、日本で盛んに言われるようになってきたことです。

それから30年以上、今では、家庭や教育現場で、この意識が定着し、同時に、「𠮟らない子育て」が主流になりつつあると言われています。

「𠮟るのはエネルギーが要りますし、𠮟れば、一時的にしろ、子どもとの間に気まずい空気が流れます。ですから、𠮟らないで済むなら、それに越したことはないと思っている人は多いはず」

「しかし、“ほめて育てる=𠮟らないで育てる”では決してないのです。誰でも、𠮟られるよりはほめられるほうが嬉しいですよね。でも、だからといって、𠮟らないのがいいということにはなりません」

こう言うのは、『ほめると子どもはダメになる』の著書もある、心理学博士の榎本博明先生です。

教育心理学を専門とする榎本先生は、これまでに約20校の国立大学や私立大学で、心理学系の講義をしたり、ゼミや論文指導を担当したり、学生相談室のカウンセラーを務めたりして、多くの学生に接してきました。また、自治体の家庭教育カウンセラーに任命されて、園児や生徒の親の相談に乗ったり、親向けの研修会で指導などもしています。

「このような経験を通して、私は、ほめるだけで𠮟らない子育てによって、子どもの育ち方が変わってきたこと、その結果として、若者の心のあり方に変化が生じていることを実感しています」

小学校での「暴力行為」は過去最多

例えば、昨今、教師の話を聞かない、指示どおりに行動しない、勝手に授業中に教室の中を歩いたり、教室から出ていったりするなど、小学校1年生児童の、学校生活への不適応が問題になっています。「小1プロブレム」と呼ばれる、この問題も、𠮟らない子育てが要因の一つになっているのではないか、と榎本先生は指摘。

「約束を守らない、いたずらばかりする、寄り道が多い、宿題をやらずに外に遊びに出る……。私自身は、子どものころ、このようなことで、しょっちゅう𠮟られていました」

「幼い子どもは、自然の状態だと衝動のままに動きますが、𠮟られることで、衝動のままに動いてはダメなのだということをしっかり学び、社会的に望ましい行動パターンを身につけていきます」「ところが、𠮟られなければ、どうでしょう。衝動に任せて動き回るだけで社会性が身につかないのです」

▲小・中・高等学校における暴力行為の発生件数(令和5年)は108,987件(前年度から14.2%増)。
出典:令和5年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要(文部科学省)
「暴力行為の状況について」 P18「暴力行為発生件数の推移」より

「家庭で𠮟らないばかりか、昨今では、教育現場でも『𠮟らない・注意しない』が主流です。つまり、子どもたちは、社会性を身につけないままに成長していくことになってしまいます」「小1プロブレムを抱えた子どもたちを前にしても、先生たちは、ただ見守るしかない。これでは、子どもたちは、やっていいこと、いけないことが、ずっとわからないままですよね。昨今、小学校での暴力行為が増加している背景に、このような状況も関係しているのでは、と私は考えています」

▲小学校における暴力行為発生件数は、前年度に比べ8,554件(13.9%)増加し、過去最多となった。
出典:令和5年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要(文部科学省)
「暴力行為の状況について」 P19「小学校」より

大学でも目立つ「𠮟らない」影響

榎本先生によると、近頃は、大学でも、かつては見られなかった言動を取る学生、自分勝手な自己主張をする学生が目立つようになっているといいます。

「例えば、授業中に寝ている学生がいたので起こすと、“夜中バイトをしていて、ほとんど寝ていないので、寝させてください”と言う。“じゃあ教室から出て寝るように”と言うと、“友だちと一緒にいたい”と言い張り、挙げ句の果てには“授業料を払っているんだから、ここにいる権利がある”と主張する」

「講義に40分以上遅刻してきた学生に注意したところ、“家から1時間半もかかる。家が遠い”などと、平然と自分の事情をアピールするだけで、“すみません”などの言葉は一切ない……。お喋りをやめない学生に繰り返し注意したら、“先生からきついことを言われて傷ついた”と教務課に訴え出られた先生もいるほどです」

「“これまで𠮟られないで育っているので、“これをやったらまずいだろう”ということがわかっていない。そのため、注意されることの意味すらわからない。だから、注意されると、すぐ不快になったり、傷ついたりする──”。実はこれ、大学の私の教え子たちが、大人から見れば“自分勝手に見える仲間(学生)”のことを、客観的に分析して言ったことです」

「心が折れる」若者たち

昨今、若者たちの心が弱くなっていることが、あちこちで指摘されている、と榎本先生は解説します。

傷つきやすくてキレやすい、すぐに落ち込む──。そんな若者が増えている、といわれているのだそうです。一体、どういうことでしょうか?

「企業の管理職や人事関係の人などと話していると、“最近の若者は扱いが難しい”というぼやきが目立ちます。部下や後輩、新人をどう指導したらいいかわからず、戸惑っている人が多いようなのです」「私たちのグループが20代から50代の会社員700人を対象に、2012年に実施した調査でも、そのような傾向が顕著に見られました」

その調査では、「部下に注意したり、アドバイスをしたりすると、まるで自分を否定されたかのように感情的な反発を示すので、指導がしにくい」「注意や忠告をすると、ひどく落ち込み、やる気を無くしたり、ひどいときは休んでしまうので、厳しいことは言えず、腫れ物に触るような感じになる」といった、上司や先輩の声があった一方、「上司に𠮟られたのがショックで、その後は、上司から呼ばれるたびに心臓がバクバクするほど緊張し、ついには出勤できなくなった」という若者の声もあったそう。

「誰にとっても、人生というのは思いどおりにならないことの連続です。勉強を頑張っているつもりなのに思うような成果が出ない、まじめに仕事をしているのに評価されない、好きな人に振り向いてもらえない……。人生には葛藤や挫折がつきもので、そのようなとき、人はストレスフルな状態です」

「こうした厳しい状況に耐える力を“ストレス耐性”と呼んだりしますが、これは、筋トレのように、ストレスを積み重ねることで、だんだんと強くなっていくものです」

「ところが、ほめるだけで𠮟らずに育てられた世代の若者たちは、𠮟られて一時的にでもネガティブな気分になるという小さなストレスを積み重ねていない。ほめられて、いつもポジティブな気分にさせられてきたために、ネガティブな状況に持ちこたえられないのではないでしょうか……」

「心が折れる」という表現。今では普通に使われますが、先生によると、かつてはなかった言葉で、2000年ごろから登場し、一般的に用いられるようになったのだとか。

▲「心が折れる」のを防ぐーー逆境に耐え、人生を前向きに切り開いていくために必要なことは?(写真:アフロ)

「これは、まさにストレス耐性の低下を表す言葉です。本来、心は、とてもしなやかで、ポキッと折れたりはしないもの。それが“折れる”と言われるようになってきたのは、ストレスに耐えられない人が、どれだけ増えたかを示しているのではないでしょうか」

逆境に耐え、人生を前向きに切り開いていくためには、ストレス耐性を高めることが大切です。そのためには、無菌室のような過保護な生活空間で育つのではなく、適度な挫折を繰り返し経験することが必要だとか。

「適度な負荷をかけることで、心は鍛えられていきますが、“𠮟られる”ということも、心にかける負荷の一つ。そう考えると、“ほめるだけで𠮟らない子育て”が、その子のためにならないことがわかるでしょう」

子どもが「𠮟られたい」と思う理由

決して𠮟らずほめるだけ。榎本先生曰く「小学校高学年から中学生くらいになると、そんな大人の姿勢に疑問を抱く子も出てくる」とか。

「ある小学校の校長先生の話。5年生のときに荒れて手がつけられなかったクラスが、6年生になって担任が替わったら、子どもたちは別人のように素直になったそうなんですね」「校長先生が荒れていた子たちを集めて理由をたずねると、ある子が“前の先生は、僕らが悪いことをしても何も言わなかった。だから、やりたい放題やっていた。でも、今度の先生は、僕らが悪いことをするとちゃんと𠮟ってくれる。だから、今の先生の言うことは聞く”と答え、他の子も頷いていたというのです」

また、全国紙の読者投稿欄に「なぜ先生は𠮟ってくれないの?」という14歳の中学生の投稿が掲載されたことがあり、榎本先生は、それに対するコメントを求められたことがあったそう。

「その投稿は“授業中、騒いでいる子がいても𠮟らない先生”に対して、“生徒を第一に考えて、本気で怒り、𠮟ってほしい”といった内容でした」「この中学生は、教師に対して“本気で𠮟って”と言っているわけですが、これは、そのまま親にも当てはまることです」

“本気”で𠮟れば、感情的になってもいい?

ここまで読み進めてきて、「まったく𠮟らないのは問題」ということは、わかったはず。とはいえ、下手に𠮟って子どもを傷つけたりはしないだろうか、子どもの心が自分から離れたりしないだろうか、などといった思いもよぎったりして……。

教育心理学的な見地から、「我が子の正しい𠮟り方」はあるのでしょうか。

「“怒ると𠮟るは違う”とか“感情的になったら『怒る』だ”などと言われたりしますが、私は、怒ると𠮟るの境界はないと思っていますし、𠮟るときに親の感情が入るのは、ぜんぜんかまわない。むしろ、“冷静に𠮟るって何?”と思います(笑)。とにかく大事なのは、本気で子どもと向き合い、本気で𠮟ることです」

先生によると、「こうすれば、こうなる」「こう言えば、ああなる」など、親が計算していると、子どもは「自分のことを操作しようとしている」と本能的に感じてしまうそう。これでは、あまりいい結果にはなりません。

「𠮟るときに感情を入れてもいいわけですが、気をつけたいことは、いくつかあります」「例えば、子どもとは関係のないことで親がイライラしたり、ストレスがたまったりしているときに、それを子どもにぶつけてはいけない。親の気分で子どもを𠮟ることは、絶対に避けなくてはなりません」

▲𠮟るとき「やってはいけない」のは、親のイライラやストレスを子どもにぶつけること。また、「𠮟る」と「虐待」は全く別。暴言・暴力は「絶対にNG」です。(写真:アフロ)

もちろん、「𠮟ること」と「虐待(暴言・暴力)」は、まったく別ものです。ときに厳しいことを言うのと、暴言を吐くのとは、違うということを心して。さらに、「𠮟るときにはブレない軸を持つことも大事」と榎本先生。

ブレない軸を持つということは、親自身が「𠮟る基準」をきちんと持つということです。とはいえ、基準が厳しすぎると虐待につながることも。

我が子を虐待した親が「しつけのつもりだった」と、本気で思っているケースは珍しくありません。そのような悲劇を生まないためにも、「𠮟る基準」について家族で話し合ったり、子育て世代の友人知人に意見を聞いたりして、独善的にならないよう気をつけたいものです。

「最近の傾向として、みなさん、マニュアルに頼ろうとします。ですが、子育てにマニュアルはありません」「繰り返しになりますが、とにかく大事なのは、子どもとは常に本気で関わること。遊ぶときも本気なら、𠮟るときも本気で𠮟る。子どもの将来を考えれば、厳しいこともちゃんと言えると思うのです」

「厳しいことを言われたら、子どもは反発するかもしれません。しかし、親が“愛情と思いやり”を持って我が子に接し続けていれば、いつかは気持ちが伝わるものです」

【心理学博士の榎本博明先生に聞く〔「子どもを伸ばす」ほめ方・𠮟り方〕連載は全3回。第1回となるこの記事では〔“ほめるだけで𠮟らない子育て”がNGな理由・ストレス耐性を高める子育て〕について伺いました。続く第2回では〔正しい「自己肯定感」の育て方〕、第3回では〔日本の子育てに必要なこと〕を伺います】

◾️出典・参考
令和5年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要(文部科学省)
『自己肯定感という呪縛』榎本博明・著(青春出版社)
『ほめると子どもはダメになる 』榎本博明・著(新潮社)

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