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【西洋美術vs日本美術】新しい絵画を求めてシンクロした印象派と洋画・日本画

イロハニアート

クロード・モネ《睡蓮》

西洋美術と日本美術。距離を隔てた2つの美術史は、一見、関係なさそうに思えます。 しかし、ときに奇跡的なシンクロが起こり、よく似たトレンドが同時に生まれることも。国境を越えて美術の潮流を横に比べてみたら、美術史がもっと面白くなりそうです。

クロード・モネ《睡蓮》

, Public domain, via Wikimedia Commons.

たとえば、西洋美術の印象派やジャポニスムと、同じ頃の日本美術。西洋が日本を取り入れ、日本が西洋を取り入れる、海を越えた文化のトレードが起きました。

この現象を読み解く鍵になるのが、「新しい絵画」というキーワードです。それまでの絵画の枠組みに捉われず、東西の画家たちは新しい芸術を切り拓きました。

印象派とジャポニスム―19世紀後半の西洋美術


日本でも人気の高い、モネやルノワールなど印象派の画家たち。画面が発光するような眩しい光の表現や、濁りのない鮮やかな色づかいに特徴があります。

ピエール=オーギュスト・ルノワール《陽光の中の裸婦》

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今や西洋美術の巨匠として名前が挙がる印象派の画家たちですが、はじめから誉高かったわけではありません。19世紀後半、フランスで台頭した当初は散々に酷評されました。ルノワール《陽光の中の裸婦》に描かれた青い影の落ちた皮膚なんて、批評家から「腐った肉のよう」と言われたほど。

というのも、ヨーロッパの美術界で正統派とされていたのが、↓のような絵画だったからです。

アレクサンドル・カバネル《ヴィーナスの誕生》

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写真と見間違えるくらい、リアルに描写されていますよね。西洋では長らく、「芸術的な絵とはこのような作風の絵画だ」という常識がありました。

一方の印象派はというと…。

クロード・モネ《印象・日の出》

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大きく速く筆を動かし、大胆な筆致で描かれています。主流の絵画と比較すると、印象派の「新しさ」がわかるのではないでしょうか?

今でこそ印象派は美術史の主流に定着していますが、はじめは正統派に対抗する「挑戦者」のような立ち位置でした。なぜ、正統を離れて「新しい絵画」を探らなければならなかったのか…。大事な背景のひとつに、「写真」の登場があります。

エドガー・ドガ《踊りの花形》

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19世紀のヨーロッパでは、写真の技術が急速に発達しました。「本物そっくりのリアルな絵」の需要は、しだいに写真に取って代わられることに。そこで画家たちは「絵画だからこその表現って何だろう?」という問いに直面します。

そのアンサーのひとつが、印象派の絵画です。光と色を鋭く捉え、写真とは異なる感覚的なリアリティを追求しました。はじめは美術界をドキッとさせた印象派の画家たちも、時とともに評価が高まっていきます。

クロード・モネ《ラ・ジャポネーズ》

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同じ頃、パリを中心とした西洋で日本ブームが起こりました。その名も「ジャポニスム」。モネやルノワール、ファン・ゴッホなども日本の文化や美術に傾倒し、輸入された作品を集めたり、自作に取り入れたりしました。

日本の鎖国が解けた明治時代、西洋にさかんに輸出された日本の浮世絵がどんなものだったのかというと…。

渓斎英泉《浮世美人見立三曲》(三幅のうち1幅)

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それまでの西洋の主流とも印象派とも異なる作風です。着物などの日本的なモチーフだけでなく、漫画のように黒い線で描かれた輪郭にも特徴があります。

仮にリアルタッチの正統派のみを重んじる保守的な時代に日本美術が輸出されたとして…ヨーロッパでブームになれたでしょうか?

フィンセント・ファン・ゴッホ《花魁(渓斎英泉による)》

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印象派(とポスト印象派)の画家たちが「日本の絵、面白いぞ!」と感化されたのは、彼らが新しい絵画に敏感だったからでは。写真が代用できない絵画を探る大きな流れがある中で、これまた写真っぽくない日本の美術品が大量に輸出された…。ジャポニスムは、そんな幸運の末に巻き起こった流行だったのかもしれません。

洋画と日本画の誕生―明治時代の日本美術


黒田清輝《湖畔》

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ところ変わって同じ頃、19世紀の日本。1854年の開国を経て、時代は江戸から明治へと移り変わります。

日本が文明国であることを海外にアピールするため、欧化政策が進められて人々の生活スタイルは欧米風に。その流れは美術にも及び、絵画も西洋らしさを目指す動きが生まれました。

藤島武二《東洋振り》

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つまり、西洋で起きたジャポニスムと反対の現象が起きたのです。西洋美術が日本風を取り入れていた頃、日本美術は西洋風を取り入れていました。

こうして生まれた「日本由来の西洋風の絵画」は、「洋画」と呼ばれるように。代表的な画家に、黒田清輝、高橋由一、藤島武二などがいます。

高橋由一《花魁》

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立体感はあるものの、西洋の画家の絵画とはどこかが違う…。言語化しがたい違和感が逆に魅力になったり、ちぐはぐな印象を受けたり。西洋絵画に衝撃を受けたは良いものの、見よう見まねでは同じように描けない…。そんな画家たちの手探り感が見られるのも、当時の洋画の面白さです。

橋本雅邦《龍虎図屏風》(左隻)

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さて、美術も西洋化がトレンドとなる一方、伝統的な日本の絵画は下火に。そんなとき、「日本の芸術を廃れさせてはいけない」とするカウンターパンチな考え方が登場しました。日本美術の再興を唱えたのが、東京大学の教授として来日したアメリカ出身のアーネスト・フェノロサです。

フェノロサと弟子の岡倉天心が日本画の革新を主導し、橋本雅邦や狩野芳崖をはじめとする画家たちも奮起。風前の灯となった伝統を死守する保守的な活動を越え、新時代にふさわしい日本画を追い求めました。

横山大観《屈原》

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例に挙げられるのが、「朦朧体」です。岡倉天心から「空気を描く方法はないか?」と問われた横山大観と菱田春草が編み出した技法で、輪郭線を描かず、にじみやぼかしを多用して空気感を表現しました。

西洋の印象派などの表現を参考にしたという朦朧体。こちらも画壇で「濁っている」「朦朧としている」と酷評され…。新しい表現を世に出すと、すぐには歓迎されないことも、東西を問わない共通点かもしれません。

菱田春草《黒き猫》

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西洋らしさを取り入れた洋画と、欧化に流されず伝統を刷新した日本画。正反対の動きのように見えますが、両方ともそれまでにない「新しい絵画」を目指していました。

ちなみに、「日本画」と「日本の絵画」は厳密には意味が異なります。「日本画」は「洋画」に対して生まれた概念。「洋画」の存在しなかった江戸以前の日本の絵画を「日本画」と呼ぶのは、元の意味からは外れています。

…と、お世話になった某学芸員の方に教えていただきました。

新しい絵画を求めた19世紀の西洋美術と日本美術


フィンセント・ファン・ゴッホ《梅の開花(歌川広重による)》

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写真技術の向上によって、絵画の本質を問われた西洋美術。西洋の文化に直面し、欧化と伝統の二択を迫られた日本美術。ともに「それまでの絵画の枠組み」を超える何かが求められ、新しい絵画が生み出されました。

同じタイミングで似たようなトレンドが起きたのは、写真の発達と日本の開国という無関係の出来事が、たまたま重なったからだと思います。もう少し時期がずれていたら、西洋のジャポニスムは起こらなかったかも…。世界における日本美術の立ち位置も、今とは異なっていたかもしれません。

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