五島列島・福江島で相次ぐ<ハナゴンドウの座礁> 謎を解く鍵は「極めて高い社会性」?
五島列島を構成する島の一つ、福江島。その島にある「高浜海水浴場」は、日本の渚100選にも選ばれた有名なビーチです。
でも実は、地元民がこよなく愛する、もうひとつの海水浴場があります。それは、遠瀬の砂浜がとても美しい「白良ヶ浜海水浴場」です。
地元出身である筆者も、毎年夏に家族や友人と通った思い出深いビーチ。一見して絶景が広がる平和な砂浜ですが、「白良ヶ浜海水浴場」は“ある現象”が繰り返し起きている舞台でもあります。
その現象とは、ハナゴンドウの座礁です。
なぜか繰り返されるハナゴンドウの座礁
ハナゴンドウは大きな群れを作って生活するイルカの仲間。2016〜2017年には、合わせて5頭のハナゴンドウが白良ヶ浜海水浴場で座礁し、息を引き取っています。
白良ヶ浜海水浴場の近辺には昭和11年頃に建てられたとされるイルカを祀った祠(ほこら)が設置されているほか、1990年には大量のハナゴンドウが座礁した記録も残されており、古くから同種の座礁が繰り返されていることが分かります。
同じ場所で、なぜここまで座礁が繰り返されるのでしょうか?
座礁を繰り返す謎に迫る前に、まずは国内最大規模の座礁事件を紹介します。
その舞台も、実は白良ヶ浜海水浴場。1990年11月2日から3日にかけて、この静かな浜辺に、なんと582頭ものハナゴンドウが一斉に打ち上げられたのです。
小型鯨類を食用としていた当時の福江島では、島民に欠かせないタンパク源を得ることができました。
この異常事態に戸惑いながらも、島の人々は打ち上げられたハナゴンドウたちを「神からの授かり物」と捉え、感謝の気持ちとともに大切な命をいただいたといいます。
しかしこの出来事を日本中のマスコミが報じると、国内外からの非難が殺到。
特に、イルカの捕獲・殺傷を法律で厳しく制限されている英国メディアからは「イルカの大量虐殺」と報じられました。文化や価値観の違いが引き起こした、国際的なすれ違いを象徴する出来事となったのです。
<ハナゴンドウ>の生態
なぜ何度も座礁が起きるのか……。その謎を解く鍵はハナゴンドウの生態に隠されているかもしれません。
ハナゴンドウは200頭以上の集団で生活する“極めて社会性の高い動物”として知られており、仲間との意思疎通は「エコーロケーション(反響定位)」というイルカ特有のコミュニケーション方法で行います。
この「エコーロケーション」は他にも獲物の感知や、周囲の地形を把握する際にも使われます。
ハナゴンドウの座礁はエコーロケーションが原因?
白良ヶ浜海水浴場で繰り返されるハナゴンドウの座礁の原因については、現在もはっきりとした答えは見つかっていません。
しかし、長崎県生物学会誌の記事には、いくつかの有力な考察が記されていました。
白良ヶ浜は広い遠浅の海岸であり、いったんイルカが迷い込むと自力で沖へ戻ることが難しい地形。そして、海底が砂地であるため、イルカたちが周囲の状況を把握するために使う「エコーロケーション」がうまく機能せず、方向感覚を失いやすいという特徴があるといいます。
また、大量のイルカが一斉に打ち上げられた理由について、ハナゴンドウが集団で行動する習性が関係しているとも言われています。つまり、1頭が浅瀬に入り込むと仲間たちもその後を追い、結果として群れ全体が座礁してしまうというわけです。
ハナゴンドウの座礁 地元民にできること
五島列島・福江島にある白良ヶ浜海水浴場で繰り返し起きてきた、ハナゴンドウの座礁。
福江島には座礁した場合の“対処マニュアル”が存在せず、座礁した多くのハナゴンドウはそのまま命を落としてしまいます。
地元に生きる私たちは、座礁していくハナゴンドウたちになにができるのか。自然と改めて向き合う必要があるのかもしれません。
(サカナトライター:ティガ)