「愛される理由は……私たちが最高だからです!」ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』が開幕~初日前会見&ゲネプロレポート(東啓介、甲斐翔真、田村芽実出演回)
ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』が2025年4月27日(日)から東京・東急シアターオーブで開幕した。
2016年に日本初演、19年、22年に再演され、連日の大盛況で日本中を熱狂の渦へと巻き込んだ本作。今回は、メインキャストがほぼ一新され、チャーリー(東啓介/有澤樟太郎)、ローラ(甲斐翔真/松下優也)、ローレン(田村芽実/清水くるみ)の主要3役がWキャストとなった。
初日を前にした4月26日(土)、初日前会見と、ゲネプロ(総通し舞台稽古)が行われた。その様子を写真とともにレポートする。
初日前会見にはチャーリー役の東啓介、有澤樟太郎、ローラ役の甲斐翔真、松下優也、そして演出・振付のジェリー・ミッチェルが登壇した。
ーー初日を前にした今のお気持ちを教えてください!
ジェリー・ミッチェル:最高の気分です。とてもワクワクしています。もう自信たっぷり! それぞれのキャストの舞台稽古を見させていただいたんですけれども、皆さん、本当に素敵です。一言で言うとすると、これは私の大好きな言葉なんですが、みなさん“フルアウト”です。
東啓介(以下、東):稽古のときから通し稽古をたくさんやらせていただいたので、ようやく初日を迎えることができます。皆さまの前で、新しくメンバーが変わった『キンキーブーツ』をお見せできることをすごく楽しみにしております。
有澤樟太郎(以下、有澤):ラスティ(・モワリー)、D.B(・ボンズ) 、岸谷五朗さんをはじめとしたクリエイター陣、スタッフの皆さんに、『キンキーブーツ』という作品、そしてチャーリー・プライスとしての生き方についてをたくさん教えていただいて。最後にジェリー(・ミッチェル)に魔法をかけてもらった気分です。カンパニーとしては今、士気が最上級に上がってる状態。稽古場でやり残したことは全くないです。早くお客さんに観ていただいて、2025年の『キンキーブーツ』を完成させたいという気持ちでいっぱいです。本当に楽しみにしてます。よろしくお願いします。
甲斐翔真(以下、甲斐):稽古に入る前までは「本当に初日って来るんだろうか」というぐらい、現実味がなかったんですけども、これからゲネプロがあって、明日初日ということで……。今まで稽古してきて、やはりこの作品は最後のピース、お客様が入った瞬間に出来上がるものだとつくづく思いますので、初日がもう楽しみで仕方ないです。僕自身も楽しみですし、皆さんにも楽しんでいただけるように、精一杯頑張りたいと思います。
松下優也:(ローラのような声色で)皆さま、ごきげんよう!! 松下優也役のローラです!! ……もう今はこういう気分です。『キンキーブーツ』という作品に本当にリスペクトを持って、稽古初日から挑ませてもらいました。そして今の気分としては……松下優也さんはですね、ゲネや初日の前は緊張がどちらかというと多いらしいです。ですが、私ローラはライブ直前かのような高揚感! もう高揚感が今すごい状態ですので、すごく楽しみです!
ーーローラ役のお二人は今日、鏡を見て、どう思いましたか?
甲斐:120点でした。本当にプロの方々の腕で……すごくないですか? 甲斐翔真が消えて、ちゃんとローラ役になれているんだなと。全身鏡を見て、そう思いました。
松下:今、この渋谷が明るいのは私がいるから! そんな風に何かスイッチが入るような感じがあります。今、翔真くんが言ってくれたように、ヘアメイクさんと衣裳さん、皆さんでこの僕らローラという存在を作り上げてくださっているので、本当に感謝しています。メイクを毎回すればするほど、どんどんブラッシュアップもされていくし、自分たちも「もっとここはこうした方がいいんじゃない?」みたいなのがあったりするんですね。だから今日が1番最高の状態。そして、明日はもっと最高!
ーー体作りという意味ではいかがでしょうか?
甲斐:ヒールを履いていると、自ずと“ヒール筋”みたいなのが鍛えられますよね。稽古初めに比べて、ふくらはぎが上がってきたのを実感します。
ジェリー・ミッチェル:だって、この靴を見て! このヒールの靴で踊るのと、普通のヒールなしの靴で踊るのとでは、本当に感覚が違うんですよ。このヒールで踊るのは、本当にすごいことです。素晴らしい。
ーー皆さん高身長で、稀に見る高身長チームだと思いますが、いつもと違う雰囲気はありますか?
東:めっちゃありますね。僕、基本的にお芝居をするとき、前かがみになっちゃうことが結構あるんですけど、今回は見上げたり、ヒールを履いて同じ目線になったりしながらする芝居が多いので、新鮮です(笑)。
甲斐:標高が揃っているよね(笑)。
ーーミッチェルさん、今回新しいキャストの皆さまの姿はどう映っていますか? どんな魅力がありますか?
ジェリー・ミッチェル:自分自身も高揚感でワクワクしているんですけれども、この『キンキーブーツ』という作品は、若い男性が、本当の自分であったり、自分に誠実であるということがどういうことかということを発見していく物語だと思っています。今ここにいらっしゃる若い4人の方々は皆さんそれぞれ、もちろん持たされるマテリアルは同じですが、日本のチームの皆さんの導きによって、それぞれ個人の方法で、役を形作って、輪郭をはっきりと作っていらっしゃる。彼ら自身がそれぞれの方向性の中で役を見つけていきつつ、それぞれしっかりと自信を持って作り上げている。それが本当にすごいなと感じています。
ーーオーディションで選ばれた皆さん。これまでの『キンキーブーツ』をご覧になったときと、実際にやってみたときとを比べて、「見るのとやるのは大違い」と感じたことはありますか?
東:セリフが結構な量なんですよ。『キンキーブーツ』は時間が細かく決まっているので、その中でセリフをどんどん喋って、どんどん物語を動かしていかなきゃいけない。それは最初、慣れが必要だなと思いましたね。見る側とやる側とでは全然違いますし、ローラなんて、衣裳もメイクも何回も変わるので、そういう大変さもあるんじゃないかな?
有澤:僕はもう楽しくて仕方なくて! ずっと自分が夢に見てた『キンキーブーツ』ですから、作品に携わることが決まってから、お客さんが熱狂する姿を想像しながらずっと稽古してきましたし、まさにそのお客さんの期待を超える作品になったと思っています。その中で実際にやって感じたことは、チャーリーという役を生きる上で、こんなにもエネルギーが必要なんだなということですね。この作品はすごくライブ感のある作品で、ひとりが変わればいろいろな方向に変わっていく。このライブ感が魅力だなと思うんです。今回は通し稽古がたくさんできて、いろいろな形の『キンキーブーツ』を試せたので、貴重だったなと思います。ここはどう行くんだ? 今日はどう行くんだ? と楽しみながら稽古ができました。
甲斐:僕は初演から毎公演見させていただいています。いち観客として、いちファンとして見ていたんですが、こんなにもうローラって休憩ないんだって(笑)。引っ込むたびに衣裳を変えて、化粧も落としたり足したりしています。幕間もメイクがあるので、始まったら一瞬で終わります。あれ? 何やっていたっけ? と思うぐらい、スピード感のある役で、それはそれですごくやりがいがあって楽しいです。考える間もなく、ただやる。ただローラを生きる。すごく貴重な体験をさせていただいてるなと思います。
ジェリー・ミッチェル:今翔真さんが仰ったことで思い出しましたが、初めてニューヨークでこの作品をやって、本番が終わった後に、ローラ役のビリー・ポーターを家まで送ろうと一緒にタクシーに乗ったんですね。そのときに「今日の本番、どうだった?」と聞いたら、彼も「え、今日本番やりました? あまりにも一瞬だったので、本番をやったか分からないんですけど」と話していました。
松下:ローラの方がヒールもあるしダンスもあるので大変なのかなと思いきや、稽古を見てるとやはりチャーリーはソロ曲も多いですし、セリフ量もすごく多いですから、意外とチャーリーの方が大変なのかもしれないと、稽古中は思っていました。でも、劇場に入ってからは、私たちの方が大変! 本当に翔真くんの言う通り、本当に休憩する暇が驚くほどにない。最初、私たちの登場はちょっと遅いですから、そこだけですね(笑)。もう登場してからは終わるまで休憩の時間でさえもずっとメイクですし、全てがギリギリ。だからスタッフさんたちが本当に素晴らしい! 僕らは服を着なくてはいけないですけど、基本的にそこに体があればいろいろやっていただける。なので私たちは出てない裏の時間も常に何かしてます、はい。
ーーヒールも大変だと思います。帰ったら足のケアが必要だと思いますが、何かされていますか?
松下:家に帰るとやはりふくらはぎの方に疲れがくるので、ゴリゴリするやつあるじゃないですか。“ローラー”? あれでほぐします(笑)。
ーー多くの観客の方に愛されている本作。愛されている理由は何だと思いますか?
ジェリー・ミッチェル:この作品が愛される理由は、我々の物語だと感じるところがあるからだと思います。つまり、『キンキブーツ』を見に来てくださるお客様は、必ず舞台上に自分自身を見出すことができると思う。例えば、それがローラであったり、チャーリーであったり、ローレンであったり、ドンであったり、もしくは工場の工場員たちの中のひとりやエンジェルのひとりであったり……。これはコミュニティの物語だと思っています。そして、そこにいるコミュニティのみんながお互いを受け入れ合うことによって、最高の自分であれるようになるというメッセージがあります。お客様一人ひとりが自分自身を舞台上で見出すことができるところがあるからこそ、愛される作品なんではないでしょうか。
東:いや、もう何も言うことないくらい、(ミッチェルさんが)言ってくれて、それ以外の何ものでもないなと。やはりミュージカルですので、音楽の素晴らしさもそうですし、舞台上にみんながそのまま生きているんですよね。観客の皆さんが応援できたり、「自分もこうなんじゃないかな」と受け入れたり、チャーリーの成長物語に感銘を受けたり、ローラの一つひとつの言葉に感銘を受けたり、気づけなかったことに気づけたり、改めて気づけたり……そういうものが散りばめられている作品なのかなと思います。そしてこの作品はちょっとセクシャルな話も入ってきて、それを受け入れる多様性も含めて、いろいろなことを“受け入れる”。それが、『キンキーブーツ』が愛されるひとつの魅力だと思います。
有澤:この作品を作ってきた方たちの作品への愛が本当に素晴らしいなと思いました。ラスティは「『キンキーブーツ』はこういう作品なんだよ。僕の好きなシーンはね」と、色々教えてくれたし、D.B.は.D.B.でまたすごく愛を語ってくれて、ジェリーだって今みたいに話してくれて。僕たちはお客さんにその愛を受け継いでいかないといけないと思います。ここまでたくさんの日本人のキャストたちも、約10年近く上演を重ねてきましたけど、僕は読み合わせのときに、この愛と熱量を感じて、ここに愛される理由があると分かりました。
甲斐:とてもハッピーなミュージカルで、とても楽しいんですよね。一方で、現代社会に生きる僕らとしては、なんか大事なものを忘れていたなと思わされる作品でもある。実はみんな自由。自分が変われば世界が変わる。それって、実は分かっているようで、分かっていないじゃないですか。気づかない間に何かに固められて、自分じゃどうにもならないと思ってしまう。ローラは、それを超越したひとりの人間として、自由に生きて、自分の居場所を探す。本当の自分になりたい姿になる。これこそが人間の美しい瞬間だなぁと。その性的指向とか全く関係なく、僕はただローラひとりの人間として演じさせていただいています。そういう魅力があるからこそ、世界中で人気の作品なのかなと思います。
松下:愛される理由……それは私たちが最高だからです! やはりすごくゴージャスだし、とてもファビュラス! こんなに照明やLEDが煌々としている華やかな世界。そこにすごく繊細な部分もあって、その差がすごい。僕は『キンキーブーツ』の好きなところで、やはりローラはすごく派手な存在ですし、派手なパフォーマンスをするけど、やっぱ根底にはサイモンという存在だったり、自分の過去があるわけです。そういうところで見ている皆さんに寄り添うような作品なのが、一方通行でこちらが皆さんに作品をお届けするだけではないところが、この愛される理由かなと思います。本当の自分を探し求めるあなたに寄り添う作品だと思います。
≫チャーリー:東啓介、ローラ:甲斐翔真、ローレン:田村芽実のゲネプロレポート
この日行われたゲネプロ(チャーリー:東啓介、ローラ:甲斐翔真、ローレン:田村芽実)を見た。
舞台は、イギリスの田舎町ノーサンプトンにある老舗の靴工場「プライス&サン」。その4代目として生まれたチャーリー・プライス(東啓介)は、父の意向に反して、恋人のニコラ(熊谷彩春)とともにロンドンで生活する道を選ぶが、その矢先、父が急死。工場を継ぐことになってしまう。
工場を継いだチャーリーだが、実は工場は経営難に陥っていて倒産寸前であることを知り、幼い頃から知っている従業員たちを解雇しなければならない状況に。従業員の一人であるローレン(田村芽実)に倒産を待つだけでなく、新しい市場を見つけるべきだと発破をかけられたチャーリーは、ロンドンで出会ったドラァグクイーンのローラ(甲斐翔真)にヒントを得て、危険でセクシーなドラァグクイーンのためのブーツ“キンキーブーツ”をつくる決意をする。
チャーリーはローラを靴工場の専属デザイナーに迎え、二人は試作を重ねる。型破りなローラと、保守的な田舎の靴工場の従業員たちとの軋轢の中、チャーリーはミラノの見本市にキンキーブーツを出して、工場の命運を賭けることを決意して——という物語。
単純で分かりやすいストーリー展開ではあるが、ドラァグクイーンへの偏見、親からの自立についてや“真の男らしさ”とは何かなど、様々なテーマをキャラクターの中に混ぜ込み、シンディ・ローパーのキャッチーな音楽に乗せて、「あるがままの他人を受け入れること」「等身大の自分を好きでいること」の必要性を説き、人々の共感を呼ぶ。
2025年版キャストの舞台を見て思ったのは、これまでの『キンキーブーツ』に最大限のリスペクトを払いつつも、新たに役や作品をブラッシュアップさせているということだった。
チャーリーを演じた東啓介。これまで過去3回チャーリーを演じてきた小池徹平、初演・再演でローラを演じた三浦春馬/再再演の城田優という組み合わせを見慣れてしまうと、今回のチャーリーとローラの身長差がないことにまず驚くのだが、その“対等”な感じがいい意味で作用しているような気がした。
ローラという圧倒的な存在を前にしても負けないというか、この作品は「プライス&サン」を背負ったチャーリーの物語が軸であるのだと再認識させられる。東のチャーリーは、若くてまっすぐで、それゆえにブーツを作ろうと従業員を説得したり、ローラにデザイナーを頼んだりする際に、その熱量に周りがついつい応じてしまうのがよく分かるし、チャーリーが一度全てを失ってしまうのも、「チャーリー、その若さとまっすぐさが原因だよ……」ともはや同情してしまうほど。東が言葉と気持ちを大切に演じたからこそ、チャーリーという役が非常にリアルで、存在感があった。
ローラを演じた甲斐翔真。2019年に本作を観劇した際に「とんでもない没入感。気付いたら終わってしまっていた。完全にキンキーブーツの世界に魅了されてしまいました。素晴らしいの言葉じゃ足りません。幸せな空間と時間でした」とSNSで感想を綴っていた彼が、その6年後、ローラとして舞台に立っている。何とも胸が熱くなる展開だが、ここ数年の彼の活躍と成長を見れば、納得するだろう。
そんな満を持して(?)の甲斐のローラは全編を通じて品が感じられた。「Land of Lola」でド派手に登場するときも、「Sex Is in the Heel」で情熱的に踊るときも、最大限にハジけてはいるのだが、どこか絶対に崩せない矜恃が感じられる。だからこそ、サイモンという素の自分に戻ったときの弱々しさも無理なく分かるというか、ローラとサイモンがちゃんと一本線で繋がっている印象が持てた。ゲネプロの1幕ではやや緊張も見られたが、徐々に自身のペースを掴み、ラストは最高のローラを見せてくれた。本番を重ねるに連れて、もっともっと磨きをかけてくれるに違いない。
靴工場で働く従業員のローレンを演じた田村芽実は、本当にキュート。『SIX』でも『ヘアスプレー』でも観客の注目をしっかり集めたが、今回のローレンも、うっかり恋をしてしまって様子が変になってしまう様もキュートだし(「The History of Wrong Guys」はローレンの見どころだ)、チャーリーに寄り添う姿も、最終的に結ばれる姿もキュートであった。
そのほか、チャーリーの恋人であるニコラ役を演じた熊谷彩春、工場の現場主任であるドン役の大山真志、工場長のジョージ役のひのあらたなど、絶大な安心感があった。
初見の人も、再見の人もきっと心から楽しめる作品。ぜひ2025年版『キンキーブーツ』をお見逃しなく!
取材・文・撮影=五月女菜穂