普段着で上質な音楽とグルメを気軽に楽しめるリラックスガーデン、恵比寿ガーデンプレイス開業30周年を記念した音楽フェスティバル『EBISU Bloomin’ JAZZ GARDEN』体験レポート
EBISU Bloomin’ JAZZ GARDEN
2024.05.11 恵比寿ガーデンプレイス全域
コンセプトは“普段着で上質な音楽とグルメを気軽に楽しめるリラックスガーデン”。初夏の爽やかな陽気のもと、恵比寿ガーデンプレイス開業30周年を記念した音楽フェスティバル『EBISU Bloomin’ JAZZ GARDEN』が、5月10~12日の3日間にわたって開催された。
ジャズと銘打っているが、出演アーティストはジャズに限らずブラジリアンポップス、サルサ、R&B、アコースティックサウンドのシンガーソングライター、ファンクやヒップホップをプレイするDJなど様々で、無料で気楽に楽しめるステージも、有料でしっかり堪能できるライブもある。グルマンを満足させるフードトラックも、恵比寿ということはもちろんビールもある。快晴に恵まれた3日間のうち、11日土曜日のイベントをレポートしよう。
時刻は正午を回る頃、まずは時計広場でDJのHITOMI SETOが、そしてセンター広場ではジャズギタリスト・井上銘とジャズピアニスト・小沢咲希のデュオが最初の音を奏で、すでにたくさん集まった観客を歓迎する。センター広場のステージは360度を客席に囲まれ、手作りの椅子に腰かけて聴いてもいいし、同じフロアのお店を散策しながらでも聴こえてくる。野外のフリーライブならではの気楽さがいい感じだ。
センター広場のステージはこのあと、DJとライブアクトが交互に登場しながらのパフォーマンスが夜まで続き、同じ頃、13時からはBLUE NOTE PLACEでkiki vivi lilyがライブ(有料)を行い、時計広場ではDJ QUIETSTORMが回している。知っている人はその豪華さに驚き、何も知らずともその音に触れれば理屈抜きで「かっこいい」と思うだろう。イベントのコンセプト“上質な音楽”の看板に間違いはない。
お昼をだいぶ回ったところで、もう一つのコンセプト「グルメ」にも目を向けよう。時計広場に集結したフードトラックは全部で5台。「アメリカンポーク・キューバサンド・フェスティバル」と銘打ち、フロリダ生まれのキューバサンドの有名店が3店舗(DUCK DIVE、PAN、SUNSETBEER FC)と、ロウリーズ・ザ・プライムリブ、ウェスティンホテル東京の2店舗。まずは、お店で食べるにはお財布的にちょっと勇気のいる、ロウリーズ・ザ・プライムリブの「プライムリブカツサンド」をチョイスしてみたが、リーズナブルな価格と、とんでもなく分厚く柔らかなカツサンドに大満足。続いてトライしたDUCK DIVEのジューシーなプルドポークキューバサンド、PANの蜂蜜を塗った甘みが癖になるキューバサンドも、各店のこだわりと自信がみなぎる絶品の味わい。コンセプト通りにグルメも上質、間違いない。
音楽へ戻ろう。15時からセンター広場で歌い出したMARIANAのステージには、華道家の萩原亮大が参加して、ライブ中にステージ後方で大量の木、枝、草、花と格闘しながら壮大な「生け花アート」を作り上げていく。澄んだ声で歌われるボサノヴァやブラジリアンポップスとの、異色のコラボレーションがとても刺激的。ステージが終わると作品は解体され、すべて観客に配られていくのも楽しい趣向だ。
16時から時計広場で始まった、DJ JIN(RHYMESTER)のDJタイムは、Cojie from Mighty Crown との注目の組み合わせということもあり予想通りにお目当ての観客が多くて大人気。気が付けばガーデンプレイス全体が大賑わいで、フードトラックの前の飲食テーブルは若い男子グループ、カップル、子供連れ、ナイスミドルなおじさまからお洒落なマダムまで、実に様々な人々でいっぱいに埋まった。犬を連れた人も多く、あちこちで犬の挨拶も繰り広げられている。恵比寿というロケーションのせいもあるのだろう、まさに“普段着で上質な”“リラックスガーデン”ここにあり。
さらにもう一か所、今回は鑑賞できなかったが、センター広場のすぐ隣にある映画館では『YEBISU GARDEN CINEMA 30th FILM FESTIVAL』が開催中。3日間のフェスと連動した音楽映画もあり、この時間は、話題のジャズ・アニメ映画『BLUE GIANT』を上映していて、こちらにもたくさんの人が詰めかけていたようだ。どこにいても素敵な音楽が鳴っている。
夕暮れ時を迎えると、ザ・ガーデンホールとザ・ガーデンルーム(どちらも有料)に観客が集まり始める。16時30分からザ・ガーデンルームで開催された「-PREMIUM SALSA NIGHT-」は、開場前にサルサダンスのレッスン、開場後がバンドによる生演奏とダンスタイムの二本立て。これがレッスンから大盛り上がりで、日本のサルサダンスの第一人者・Tetsu&Emiのわかりやすく楽しい指導を受けながら、初心者も経験者も笑顔でステップを踏む。サルサダンスの特長は男女ペアの情熱的な、しかしエレガントな大人の社交ダンス。見よう見まねのステップで思わず踊りの輪に入りたくなる、魅力がすごい。開場後の17時30分から始まったダンスタイムも、そしてZ世代の若いミュージシャンが結成したサルサバンド・Banda Coribantesの生演奏を中心に、DJ、パフォーマンスを織り交ぜてぐんぐん盛り上がる。今日この時間、恵比寿で最もホットな場所はここで間違いないだろう。
19時からはいよいよ、本日のメインアクトと言っていいマリーザ・モンチのステージがザ・ガーデンホールで始まった。MPB(ムジカ・ポプラール・ブラジレイラ)の第一人者として日本でも絶大な人気を持つ歌姫の、5年ぶりの来日公演ということでホールはぎっしり満員。男装の麗人のように粋な黒スーツ、エレガントな身のこなし、そよ風のように優しく心地よい歌声。外国人の観客もとても多く、ほぼ全曲で大合唱になるのが凄い。昼間から続くフェスティバルの開放的な雰囲気の中で、ワンマンコンサート並みにたっぷりと20曲以上を堪能する、それはとても贅沢な時間。
帰り際にもう一度「-PREMIUM SALSA NIGHT-」を覗くと、先ほどより観客も熱気もぐっと増えたようで、まさに宴もたけなわの大フィーバー。恐るべし、日本のサルサファンのパワー。そのままBLUE NOTE PLACEへ移動すると、Alisa with Shin Sakaino Bandがプレイ中で、遅めのディナーを楽しむ観客を、オルタナティブなジャズとキュートな歌声がおもてなし。ガーデンプレイスを代表する “上質な音楽とグルメを気軽に楽しめる”BLUE NOTE PLACEは、フェスティバルで一番遅くまで音楽を鳴らしてくれる場所でもある。
金曜日にはジャズ・トランぺッターの黒田卓也がザ・ガーデンホールでプレイし、ザ・ガーデンルームではクリス・ペプラーがプロデュースした大沢伸一率いるMONDO GROSSOがDJを、センター広場にはJane Jade(藤原さくら×優河)らが出演。日曜日にはザ・ガーデンホールでBlue Lab BeatsとALIが、ザ・ガーデンルームではEmi Meyer with Crystal Kayが歌った。有料ライブはもちろん、無料スペースで楽しめるラインナップの充実と、フードトラックを含めたホスピタリティ、そして何より恵比寿ガーデンプレイスというロケーションが生む上質な解放感が体感できる『EBISU Bloomin’ JAZZ GARDEN』。訪れた人はきっとまた来たいと思ったはずだ。今回を機にぜひシリーズ化してほしい、素敵なフェスティバルを心ゆくまで堪能させてもらった。
取材・文=宮本英夫