【令和の最新子育て】「教育の迷信と勘違い」子どものゲーム・スマホを𠮟るとさらに勉強しなくなるのはなぜ?〔教育評論家〕が解説
子どものうちからしっかりと勉強に取り組んでほしいと親は思うものですが、勉強の詰め込みは弊害が生じます。また、勉強の妨げになるゲームやスマホを頭ごなしに禁止するやり方も、今の時代には合わないでしょう。勉強まわりとゲーム、スマホに関するアップデート情報を親野智可等先生が解説します。
子どもの時間管理どうしてる?「朝の支度・宿題・ゲーム」〔アンケート結果〕我が子には将来、社会で活躍してほしいと思うのが親心。そのため親御さんの心の中には、子どものうちからしっかりと勉強に取り組んでほしいという気持ちがあります。しかし、子どもの吸収力がいくら高いからといっても、幼いうちから勉強に偏りすぎていいわけがありません。
また、勉強の妨げになるゲームやスマホに対しても、ただガミガミ𠮟って禁止するだけでは、子どもはこれからのデジタル社会で生きづらくなるでしょう。
早期教育や、勉強とゲーム、スマホに関するアップデート情報を、教育評論家の親野智可等(おやのちから)先生が解説します(全3回の3回目)。
早期教育の効果はどのくらい続くもの?
未就学児の教育として話題にのぼるのが、早期教育です。
知的好奇心を刺激して脳を活性化させようと、熱心に早期教育を行っている家庭がありますが、周囲に流されて安易にブームに乗るのは避けたほうがいいと親野先生はアドバイスします。
「小学校の教師をしていた私の経験でお話しすると、早期教育を受けて小学校1年生になった子は、読み書きや計算が最初からできるので確かに優秀です。
しかし、同じ子どもを3年生や4年生で再び受け持つと、『この子、1年生のときはあんなにできたのにどうしたんだろう……』と思うことがたびたびありました。
早期教育を受けてきた子は、幼児期に自由に遊びを経験した子どもたちに、ある時点で勉強も学習に向かう気持ちも逆転されると実感しています。
またこのことは、ボストン・カレッジのピーター・グレイ教授の研究によっても裏付けされていて、幼児期の早期教育の効果は3年以内になくなり、その後は自由な遊びをしていた子どもたちに学力が逆転されることがわかっています」(親野先生)
子どもを伸ばしたいなら「あと伸び」が正解!
「これも経験上でお話ししますが、優れた脳力を持つ子は、幼児期に好きな遊びを徹底的にやらせてもらえていた子どもです。
そういった子は小学校に入学したときのスタートダッシュはそれほどでもありません。しかし、『自分がやりたいことに主体的に取り組む力』『試行錯誤してやり遂げる力』など、いわゆる非認知能力が高いのです。
そして好きな遊びに夢中になって頭を使ってきたおかげで、脳のシナプスが増えて地頭がよくなっていますから、勉強面ではググッとあと伸びしてきます」(親野先生)
あと伸び脳は毎日が楽しそう
子どもの将来を本当に考えるなら、子どものうちは遊びで頭の性能自体をよくすることが大切だと親野先生は続けます。
「自分が好きな分野に熱中し、大人顔負けの知識を披露する『博士ちゃん』たちが出る番組がありますが、そこに登場する子どもたちはみんな楽しそうで、自信に溢れています。
あの子たちは非認知能力が高く、地頭がよくなっているので、いざ真正面から『勉強をやるぞ!』となったら、一気に学力は伸びてくるに違いありません。
その土台をつくっているのが、夢中になれる遊びをすることです。本当の意味で頭のいい子に育ってほしいと思うなら、親御さんは子どもの好きなことを応援してあげてください」(親野先生)
親野先生直伝 令和の最新子育てメソッド
早期教育ブームに流されないように。
子ども時代は「遊び」が何よりも重要です。
たっぷり遊びを経験した子は、勉強も学習に向かう気持ちもあと伸びしてきます。
ガミガミ𠮟っても、子どもは勉強をするとは限りません。 写真:takasu/イメージマート
ゲームやスマホは本当に学力低下を招くもの?
「新しいメディアは、最初はいつも警戒されてバッシングを受けるものです。しかし、しばらくするとその認識が変化しますから、考え方をアップデートしていくことが大切です。
ゲームやスマホも、今では情報収集力、思考力、判断力、やり遂げる力、コミュニケーション力がつくなどのメリットも挙げられるようになりました。
また、今の子どもでゲームやスマホができませんという子は、これから先のデジタル社会で生きにくくなる可能性があります。
ですから、親御さんは『ゲームやスマホで遊んでいないで、勉強しなさい!』と、上から目線で完全否定しないほうがいいでしょう」(親野先生)
ゲームやスマホのことをガミガミ𠮟るのは逆効果
ゲームやスマホが勉強の妨げになると思って親御さんが頭ごなしに𠮟っていると、子どもは余計にそれらに依存していくと親野先生は続けます。
「親にとってゲームやスマホは𠮟りたくなる材料ですが、『勉強しないなら、ゲームを禁止するからね!』なんて否定的な言葉を子どもに浴びせていると、親から好きなことを理解してもらえない子どもは孤独感を感じていきます。
実は、孤独な状態はゲームやスマホの依存リスクを高めるので、ますます勉強しなくなるでしょう」(親野先生)
子どもがゲームやスマホに区切りをつけて、自分から勉強するためには親子関係が重要です。 写真:SkyLine/イメージマート
ゲームやスマホに熱中する我が子を勉強に向かわせるには?
親野先生の解説で、ゲームやスマホを一方的に上から目線で否定するのはよくないとわかりましたが、そうはいっても、勉強にいつまでも向き合わない子どもを放置するわけにもいきません。こんなときはどうすればいいのでしょうか。
「これからの子育てでは、親がゲームやスマホを理解することが大事です。
たとえば、親御さんもゲームをやってみて、『こんな高度なことをやっていたの!』なんて、その難しさや子どもが工夫していることを理解してあげてください。スマホも同様です。
そして、その対話の中で親御さんが心配に思っていることを、『親友親子』の立場※で伝えてみましょう。
『1時間も遊んじゃったね』『課金トラブルがあったんだって』『目を休めたほうがいいかも』『個人情報の流出があったみたい』などです。
子どもは、自分の好きなことをある程度わかってくれている親に、親友の目線で心配されれば、素直な気持ちで聞けるようになります。そうすれば、『やりすぎに気をつけよう』『勉強もしなきゃ』という気持ちにもなります」(親野先生)
親野先生直伝 令和の最新子育てメソッド
ゲームやスマホが、悪いものと決めつけるのは古い考え。
デジタル社会では必要なスキルと心得ましょう。
子どもが自分でゲームやスマホに区切りをつけて勉強にも取り組むには、親が歩み寄ることが最初の一歩です。
ゲームやスマホの使い方ルールを親子でつくろう
親子間でいい雰囲気ができれば、ゲームやスマホのルール作りにも子どもは乗り気になってくれるので、積極的に取り組んでほしいと親野先生は最後にアドバイスします。
「外交交渉をするように、使い方、遊び方のルールを譲れるところは譲って、主張するところは主張して、着地点を親子で見つけてください。
決まったことは紙ではなく、できるだけホワイトボードに書き、部屋の中に貼っておくことも大切です。運用して実態とギャップがあった場合は、また親子で話し合って書き直しましょう」(親野先生)
子どもは「うちのパパママは自分を理解してくれている」と思うと、親への信頼感が爆上がりしていって、自分で区切りをつけられるようになるばかりか、「ケンカをした」「他人に怪我をさせた」「いじめられている」「友だちと悪いことした」など、いいにくいことも親御さんに話してくれるようになります。
子どもから伝えてくれないと介入できないことでも、早い段階で手を差し伸べられるようになるので、目の前の我が子を受け入れながら、令和版の子育て環境を親子でつくっていきましょう。
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◆親野 智可等(おやの ちから)
教育評論家
長年の教師経験をもとに、子育て、しつけ、親子関係、勉強法、学力向上、家庭教育について具体的に提案。子育て世代に寄り添ったSNS投稿も話題で、「ハッとした」「泣けた」という声が多数寄せられている。全国各地の小・中・高等学校、幼稚園・保育園のPTA、市町村の教育講演会、先生や保育士の研修会でも講師を務め、オンライン講演も経験豊富。著書に『親の言葉100 ちょっとしたひと言が、子どもを伸ばす・傷つける』(グラフィック社)など。人気マンガ『ドラゴン桜』(講談社刊)の指南役としても知られている。
取材・文/梶原知恵