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先人へのリスペクトの基に築き上げた新たなスタイルへの挑戦。|1936 H-D UL/KOSLOW HEAD

Dig-it[ディグ・イット]

2023年末に開催された横浜ホットロッドカスタムショー2023にて、日本の頂点に輝いた、JURASSIC CUSTOMSのフルスクラッチ。チョッパーやボバーなど、既存のスタイルに捉われる事なく、二人のヴィンテージ狂がそれぞれの知識やセンスを共有して、見たことのないカスタムを思い描き紡ぎ上げたスタイルは、シーンの歴史の奥深さとカスタムビルドの芸術性を内包する。そんな至高の1台とも言えるカスタムバイクのディテールを紹介する。

歴史の片鱗を物語りながらも全く新しいカテゴリーのカスタムバイク。

NEIGBORHOOD代表/ディレクター・滝沢伸介氏、CHEETAH CUSTOM CYCLESビルダー大沢俊之氏は、JURASSIC CUSTOMS名義で様々なヴィンテージバイクのカスタムを世に送り出し、ファンを魅了してきた。そして、2014年の製作以来2度目のリニューアルを果たしたKOSLOWで日本のカスタムシーンの最高峰、HCS2023のベスト・オブ・ショー・モーターサイクルアワードを獲得

毎年12月に開催される横浜ホットロッドカスタムショー(以下HCS)は、全国のカスタムビルダーが1年の集大成として手塩をかけたカスタムバイクを持ち込み、その技術とセンスを競い合う日本最高峰の舞台。そして、2023年末のHCS2023では、ジュラシック・カスタムズが久しぶりに復活を遂げ、究極のパワープラントを抱えるフルスクラッチの1台で頂点の座に輝いた。

ジュラシック・カスタムズはアパレルブランド、ネイバーフッド代表/ディレクター・滝沢伸介氏、チーターカスタムサイクルズのビルダー・大沢俊之氏による共同製作のカスタムユニット。いにしえのモーターサイクルシーンに造詣の深い滝沢氏のセンスとアイディアを基に、大沢氏の卓越したカスタムビルドのスキルで具現化する、名タッグによるプロジェクトである。

こちらのKOSLOWは2014年に第一弾として製作され、今回は2度のリニューアルを経た3度目の姿。ヴィンテージバイクのカスタムファンにとって多大な影響力を持つ二人のプロジェクトだが、今回のKOSLOWでは、過去作とは異なるコンセプトが掲げられた。

「今回はジュラシック・カスタムズとしての新しいチャレンジです。既存のスタイルや時代感に捉われず、今まで二人が見てきたヴィンテージバイク、先人たちが築き上げたシーンに敬意を払いつつ、まだ見たことのない新しいスタイルを作り出すことを目指しました」。

ビルダーの大沢氏が語る通り、そのコンセプトはまさに“温故知新”と呼べるもので、シーンの歴史を研究し、センスと技術を磨き上げてきたジュラシック・カスタムズが、モチーフが存在しない自由な発想の基に捻り上げた渾身の1台というわけである。

アメリカンレーシングの進化の過程で生まれたOHVコンバージョンヘッドを搭載するKOSLOWエンジンや、フレームワークに見られる特殊なロウ付けの技法であるブロンズブレイジングなど、歴史の片鱗を物語る貴重なディテールワークを備える一方で、「○○年代のチョッパーっぽい」といったような知識に基づくカテゴリーづけが不可能な、全く新しいカスタムバイクである。

エクステリアはアルミのワンメイド。シャープなフォルムのフューエルタンクは分割の2ピース構成
リアフェンダーはボブフェンダーをイメージした、肉厚かつスクエアなデザインによって、アメリカンなテイストを演出する。4本出しエキゾースパイプを左右にレイアウトしたシンメトリーなデザインにも注目したい

外装はもちろん、フレームを0から製作するということはシルエットの軸となる部分から無限の可能性を秘めているということ。それぞれのディテールにおいて、ヴィンテージバイク、カスタムに造詣の深い両者がディスカッションを重ね、緻密な作業の基に生み出された1台である。

それは、過去のスタイルを再現するような作業とは、先人へのリスペクトを内包する部分では共通する一方で、空想上の新たなスタイルを生み出す180度逆の行為と言える。HCSで初めてこのマシンを目の当たりにしたファンにとっては、美しいディテールワークに目を奪われるのと同時に、どのような発想からこのスタイリングが生まれたのか興味深く感じた人も多いだろう。オールドスクールとカスタムの両方のファンを唸らせる至高の1台が完成したというわけだ。

カスタムビルドというフィールドで温故知新を体現するジュラシック・カスタムズの挑戦。シーンの歴史上の技術やセンスを取り入れながらも、現代のカスタムバイクとして、まだ見ぬスタイルを具現化したフルスクラッチは、まさに走るアートの名に相応しい。

旧いIndian や英国車で採用されたプランジャーサス式フレーム。ディスクローターや左サイドに装備するスプロケットなどは、あえてシンプルなデザインでフィニッシュされている
シートは厚みを持たせた造形で製作したアルミのベースにプレーンの合皮を貼り、やや野暮ったさを漂わせる。ディテールひとつひとつのデザインを目立たせるのではなく、全体でのバランスを重要視したカスタムだ
国産のフロントフォークはアウタースライダーに溝を刻み込み、手仕事によるカスタム感を演出
ネックのパイプの接合部分のデザインはNortonのフェザーベッドフレームがイメージソース。ブロンズブレイジングによるゴールドのビード跡が特徴的なアピアランスを生み出している

KOSLOW HEADとは? サイドバルブをOHV化する、いにしえのホットロッドパーツ。

KOSLOW HEADは、H-Dサイドバルブエンジンの腰上を変更して、ボルトオンでOHV化できるコンバージョンキット。今は亡き米国二輪メーカーExcelsior/Henderson Motorcycle Companyのエンジニア兼レーサーとして活躍したAndrew Koslowが、1920年代に製作したキャストアイアン製OHVツインポートHEMIヘッドエンジンを搭載したレーサーのノウハウを活かして、独立後に開発したレーシングパーツである。

OHV化に加え、半球型(Hemispherical)の燃焼室形状を採用することによって、燃焼効率を向上。バルブが剥き出しになったオープンロッカー仕様や、前後独立のインテイクによって左右にレイアウトされたキャブレター、4本出しエキゾーストも特徴。この車両では、’36年ULをベースにシリンダー/ヘッドをKOSLOW HEADに変更してOHV化し、キャブレターは英国を意識したAMALをチョイス。さらに、ホイールベースを詰めるためにNORTONトランスミッションを採用している。

KOSLOWのために製作したワンオフフレーム。プランジャーサスペンション構造や、フェザーベッドフレームをイメージソースとしたネック周りのデザインなど、米英のスタイルをミックスし、全く新しいデザインが生み出されている。エンジンマウント位置を低く、ULに対してホイールベースを詰めたコンパクトなディメンションに設計されているのも見所だ。

ブロンズブレイジングとは? いにしえのレースシーンで培われた英国の伝統技法。

ブロンズブレイジングは、特殊なフラックスを発生させる専用機械によってブラスと銅を混ぜた素材をろう付けしてパイプを接続する手法で、’60~’70sのレースバイクや競技用自転車のフレームに見られたイギリスの伝統技術。クロモリ鋼は軽量かつ強度が高いためレース車両に相応しい特性を備える一方、高熱で溶接処理を施すと焼きが入り、耐久性が著しく落ちてしまうという欠点がある。

ブロンズブレイジングは低温で処理できるためクロモリ鋼の接合に適した技術なのである。現在はイギリスでも技術者が絶滅に近い状態だが、大沢氏は当時の写真や資料をヒントに約5年かけて独学でブロンズブレイジングを習得した。美しいゴールドのビード跡がデザインと機能美を兼ね備える。

ここで紹介したカスタムバイクはビルダー大沢氏がクロモリ4130の7/8インチパイプを使用して骨格からハンドメイドしたフルスクラッチ。左の写真はKOSLOWのフレームだが、後頁の“METEOR”を制作する際に独学で習得した“ブロンズブレイジング(Bronze Brazing)”が骨格作りの最大の肝となる。

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