年間を通してマアジが集まる? <浮体式洋上風力発電施設>の集魚効果が示される
近年、地球温暖化対策として再生可能エネルギーを利用した発電が注目されており、特に広い海洋面積を保有する日本では、洋上の風を利用した浮体式洋上風力発電施設の建設が進むと予想されています。
しかし、この浮体式洋上風力発電施設が生態系に与える影響は、十分に解明されていません。中でも、漁礁としての役割は人間活動が海洋生態系へどのような影響を与えているのかを理解する上で、重要な手がかりです。
今回、長崎大学水産学部の八木光晴准教授らの研究グループは、長崎県五島市沖で建設中の体式洋上浮力発電施設における集魚効果の有無を調査。環境DNA技術を用いて、その実態を明らかにしました。
この研究成果は『Aquatic Conservation: Marine and Freshwater Ecosystems』に掲載されています(論文タイトル:Floating offshore wind farms attract Japanese horse mackerel)。
浮体式洋上風力発電施設
地球温暖化対策として近年、注目されている再生可能エネルギーは脱炭素社会に必要不可欠とされています。
再生可能エネルギーの代表例としては風力を利用した風力発電がありますが、日本列島は風力発電の設置に適した陸地面積が多くありません。そのため、洋上に吹く風を利用した浮体式洋上浮力発電施設の需要が高まるとされており、今後、建設が進むと予想されています。
しかし、この浮体式洋上風力発電施設が生態系や漁業に与える影響は、十分に解明されていません。特に浮体式洋上風力発電施設が発揮する蝟(い)集効果の有無については、人間活動が海洋生態系にどのような影響を及ぼすのかを評価する上で重要な手がかりとされています。
環境DNA技術を用いた調査を実施
今回、長崎大学水産学部の八木光晴准教授と大学院総合生産科学研究科修士課程の土田真平を中心とした研究グループは、長崎県五島市沖で建設中の浮体式洋上風力発電施設を対象に蝟集効果の有無が調査されました。
この研究では、環境中の水から生物由来のDNAを検知する環境DNA技術を用いた調査が採用されており、現地での採水のみで膨大なデータを得ることに成功。マアジの環境DNA濃度を計測することで、本種の分布傾向の推定が行われました。
2023年4月~12月に実施された調査で計5回のサンプリングが行われ、採水は長崎大学が保有する練習船「鶴洋丸」を利用。サンプリングを行った採水地点は風車近傍区4地点および対照区の4か所とされています。
マアジの環境DNAが濃いことが判明
研究室で採水された水を、ろ過、DNAの抽出、リアルタイムPCRといった過程により、マアジの環境DNAの測定が行われました。なお、採水の時には、外からマアジのDNAが混入しないように手袋を着用して行われたといいます。
測定の結果、風車近傍区では年間を通してマアジの環境DNA濃度が有意に高いことが判明。マアジが年間を通して風車の周辺に集まる可能性が示されました。
この結果は、浮体式洋上風力発電施設が魚の行動や分布に影響を与えていることを示す重要な証拠の1つになるとされています。
再生エネルギーと海洋環境の調和に
今回の研究により浮体式洋上風力発電施設が魚に対して蝟集効果があることが示唆されました。
同時に、これは浮体式洋上風力発電施設などを含む海洋構造物が周辺の生態に影響を及ぼすことを示したものでもあり、海洋環境保全との調和を考える上で、重要な知見となるといいます。
今後はマアジだけではなく、より多くの魚種を対象とした網羅的な調査を進めていくとのことです。
(サカナト編集部)