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《市民病院医療事故多発》「膿出し切る必要」現役医師が提言

赤穂民報

「膿を出し切らないと赤穂市民病院の先はない」と警告する榎木英介医師

 「赤穂市民病院に関する記事を読むたび、心が痛い」と語るのは、2019年4月から2020年3月まで赤穂市民病院に病理医として勤務した榎木英介医師(53)だ。

 一般社団法人全国医師連盟代表で『医者ムラの真実』『フリーランス病理医はつらいよ』などの著書があり、現在も非常勤で週1回、赤穂市民病院で働く同氏が赤穂民報のインタビュー取材に応じた。

 

  * * *

組織守ろうとして事態悪化

 赤穂市民病院の脳神経外科で多発した医療事故は、もちろん起こした医師にも問題があるのでしょうが、最初の事故が発生したときにきちんと調査が行われていれば、次の事故は防げた可能性がある。それが防げなかったのが非常に大きな問題だと思っています。

 赤穂民報の報道によると、医療事故が起こってからの対応がむちゃくちゃですよね。ちゃんと調査をしていないとか、隠蔽しようとしていたとか。組織を守ろうとしたことが、事態をより悪化させているように思います。

 脳神経外科の医療事故に関わったとされる医師が着任したのが2019年7月なので、私が常勤医として勤務していた時期と重なっていましたが、たまに病理診断の依頼を受けるときに顔を合わせるくらいで、あまり会話したことはありません。医療事故のことも報道されるまで知りませんでしたが、職員同士の雑談の中で「手術が下手らしい」「臨床工学技士がボイコットしたらしい」という噂は聞きました。

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夜間急患は帰さず入院

 赤穂市民病院には2009年からも2年間勤務したことがありました。その当時は赤字もそこまで深刻ではなかったように記憶しています。医師同士のコミュニケーションや連携もうまくとれていて、職場の雰囲気も良好だった印象があります。だからもう一度勤務したいと思い、異動したのですが2019年に再び着任してみると、経営改善ということで医療コンサルが入っていて、とにかく患者を集めろ、病院の存続が第一だ、と。

 例えば、各診療科の科長が集まる会議があるのですが、夜間に急患で来た患者さんについては、とりあえず入院を勧めましょう、帰してはいけません、みたいな呼び掛けがありました。夜間の急患に入院を勧めるというのは経過観察などで本当に必要な場合もあります。それは赤穂市民病院に限ったことではないかも知れません。しかし、病院を守るために「売り上げ」をアップしなければならない、という圧力は強く、10年前とは同じ病院とは思えないくらいギスギスした雰囲気に変わっていました。

 こういう病院は危ない、勤められないと思い、抗議の意味もこめて一年で退職しましたが、その予感は悪い意味で当たってしまいました。ただ、全国的な病理医不足もあり、病理診断の業務のすべてを別の病理医に引き継ぐことができず、今も非常勤で週1日勤務しています。

   * * *

医師の業績評価 ボーナスに反映

 さらに私がショックを受けたのは医師の業績評価制度です。それぞれの医師が担当した診察や手術などがどれだけ病院の収益につながったかを算出して前年度と比較し、診療実績の高い医師のボーナスを増やすというものなんですが、私が担当する病理診断(診療科の医師が患者から採取した組織や細胞から病気の進行程度などを診断するほか、亡くなった患者の死因や治療効果などを検証して今後の医療に生かすための診断)は他の診療科から持ち込まれる検体を診断するのが仕事で、自分で仕事を増やしたり減らしたりできないんですね。

 評価は「A」から「F」まで6段階あり、私は最低評価のFで、しかも偏差値も記載されていて「44」でした。成果を報酬に反映する制度は以前に勤めていた病院でもありましたが、評価は3段階でした。6段階まで細分化して、なおかつ偏差値までつけるというのは聞いたことがありません。病理医にまで成果を求めるのは、医療安全とか検証というものを軽視しているあらわれではないかと感じました。

 この業績評価は、赤穂市民病院が成果主義に傾倒し始めたことを示しており、こうした前のめりの姿勢が、医療事故への対応のまずさにつながっているのではないかとも思います。(※業績評価制度は2016年度に導入。病院は「22年度以降は点数化による評価は実施していない」としている)

 常勤医を辞め、非常勤医になってからも、病院の「売り上げ」に貢献する手術のスケジュールの変更により、来院の曜日を一方的に変更されたり、本来は病院として対処しなければならないことを非常勤である私に押し付けるようなことがありました。こうした経験から、一連の医療事故を教訓に、果たして赤穂市民病院が医療安全体制を見直し、より安全な病院になったのか、疑問を抱かざるを得ません。

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安全への努力と被害者へ補償を

 一連の医療事故を起こした医師は、病院のガバナンスが機能しているかどうかを表す「リトマス試験紙」だったように感じています。リピーター医師(医療事故を繰り返す医師)を採用するかしないか、医療事故を起こさせない体制が整っているか、事故が起きてしまったときに適切に対処できるか、などです。

 日本の医療の体制が背景にあるので、全国に赤穂市民病院のような病院は多いでしょう。しかし、問題が明らかになった以上、真摯に向き合い病院の体制を改善していく必要があります。

 赤穂市民病院には、「医療事故を起こした医師のせいで巻き込まれた」という被害者意識が強く、同じような事故を今後起こさないためにどうすればよいかという教訓がまったく得られていない可能性があります。医療安全の理解不足や認識の不一致などを問題視した検証委員会の指摘を真摯に受け止めているのだろうかと思います。「リピーター医師のせい」で止まっているなら、これからも医療事故は減らないでしょう。今からでも医療安全の課題を洗い出し、より安全な病院を作る努力をすべきです。また、被害に遭われた患者さんへの補償をしっかりすべきです。

 約400人ものスタッフが勤務する赤穂市民病院は、地元にとって重要な雇用先の一つです。しかし、「雇用を守る=組織を守る」ことが最優先になってしまってはよくありません。もし、このまま医療安全より組織の維持が第一の姿勢が変わらないのであれば、解体的立て直しが避けられないと言わざるを得ません。膿を出し切らないと先はないのではないでしょうか。

 ▽全国医師連盟=2008年に発足した勤務医による団体。「患者と医療従事者の権利の確立と適正な診療環境を実現」などを理念に医療のあり方を提言する活動に取り組んでいる。(写真は「膿を出し切らないと赤穂市民病院の先はない」と語る榎木英介医師)

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