【藤沢 学びスポットレポ】AOiスクール(アオイスクール)- I'm OK!You're OK!「好き」を力に変えるみんなの居場所
小田急線善行駅の改札を出てすぐ、小田急マルシェ善行の二階に子どもたちに新たな学びのかたちを提供している場所があります。
小田急電鉄が運営する「AOi(アオイ)スクール」。主に不登校の経験がある子や、学校を休みがちな子どもたちの第三の居場所として注目を集めているオルタナティブスクールです。
元当事者の運転士二名が立ち上げた学びの場
小学1年生から高校3年生までを対象とした当スクールは、2023年9月のプレ開校を経て、2024年10月に本開校しました。
教室のドアが開いた瞬間、まず耳に届くのは子どもたちの楽しげな声。壮大なプラレールを組み立てる子、友達と相談しながらシミュレーターを操作する子。それぞれが思い思いのスタイルで学び、自発的に活動する姿が目に飛び込んできます。
そんな子どもたちを温かく見守りながら、日々の学びをサポートをしているのは、このスクールを立ち上げた別所尭俊(たかとし)さんと鷲田侑紀(ゆうき)さん。現在は小田急電鉄のデジタル事業創造部に所属し、スクールの運営に専念していますが、以前は運転士として沿線の人々の暮らしを支えていました。
子どもたちとの関係性を一言で表すなら「フラット」。子どもたちは別所さんを「べっしー」鷲田さんを「わっしー」と親しみを込めて呼び、年齢や立場にとらわれない、自然な関係が築かれています。
AOiスクールの原点は二人の想いから
小田急電鉄は、社内で新規事業のアイデアを募る『Climbers(クライマーズ)』という公募制度を設けており、この制度に応募した別所さんと鷲田さんによる不登校児童生徒へのサポート案が採択されたことからAOiスクールは誕生しました。
同じ年に小田急電鉄へ入社した別所さんと鷲田さんはともに不登校の経験があります。
「いつか、自分と同じような境遇の子どもたちの力になりたい」そんな想いを持ち続けていた別所さんに、鷲田さんも深く共感。運転士として業務に励む傍ら、「Climbers」の応募に向けて、二人三脚で動き出しました。
「『Climbers』は、新規事業としての性質を持ち『仮説を立てて検証を繰り返す』ことを重視しています。最初は漠然としたアイデアから出発しましたが、NPO関係者や周囲の人々の声を聞きながら、試行錯誤を重ねて辿り着いたのが、AOiスクールの現在のかたちです」と別所さん。
選択できる3つのコース
AOiスクールでは通学コースの「善行コース」に加え、オンラインでスクールと交流する「バーチャルキャンパスコース」、スタッフが配信するセミナー形式のコンテンツを視聴し、生徒はテキストで質問ができる「ライブセミナーコース」の3つのコースを用意しています。
それぞれの生徒にとって最適なコミュニケーションのかたちに応じて、コースを選択できるのが大きな特徴。コースは途中で変更可能で、スクールに通う「善行コース」では、その日の体調などにあわせて「バーチャルキャンパス」に切り替えることも可能です。
取材に訪れた日もスタッフの一人がオンラインを通じて生徒とやりとりをしている最中でした。
常時3〜5名のスタッフが教室におり、そのほとんどが現役の運転士や車掌など、小田急電鉄で第一線を担う社員です。子どもたちの学びを支えたいという思いから、自ら手を挙げ、通常業務の20%をスクールでのサポートに充てています。
鉄道のプロにいつでも質問ができるとあって、やはり鉄道好きの生徒が中心。神奈川県内にとどまらず東京都や埼玉県から電車で通う子や、オンラインで関西から参加している子もいます。
好きを学びに変えられる場所
教室内にはプラレールやNゲージをはじめ、鉄道に関する書籍や関連グッズが数多く並び、鉄道に親しむための環境が整えられています。
一方で「子どもたちが興味を持ったタイミングで手に取り、新たな世界に出会えるように」という思いから、さまざまなジャンルの本が本棚に並べられています。
この日、教室内では多くの子どもたちが、かつて別所さんと鷲田さんが運転士を志した時(運転士見習いの時)に使用していたテキストを参考に、実際の路線図に基づいてプラレールを組み立てていました。
昨年11月から通っているという男の子は、「実際の路線通りに組み立てたプラレールで、時刻表通りに電車を走らせるのが楽しい」と、目を輝かせながら話してくれました。
スクールの信念は「I'm OK!You're OK!」
AOiスクールのwebサイトには、名前に込められた想いと信念が記されています。
「AOi」は「Alternative school(オルタナティブスクール)」「Odakyu(小田急)」「interest(興味・関心)」の頭文字で、当スクールの信念は「I'm OK!You're OK!」。
別所さん「まずI'm OK!が先にくることが大切。自分の考えや好きなことを大切にすることで、相手のことも尊重できる。」
鷲田さん「大切にしているのは、『あなたはここにいていいんだよ』『そのままのあなたで大丈夫だよ』というメッセージを伝えること。他人に迷惑をかけないようにという社会的な価値観も大切だが、まずは自分で自分を認めることの大切さを伝えたい。」
お二人の想いが、着実に実を結んでいることが伝わるエピソードがあります。
「スクール運営に専念するための異動の直前に、運転士として最後の乗務があり、多くの生徒たちが私の運転する電車に乗りにきてくれました。普段はそっけない子が『運転お疲れさま』と書かれたカードと一緒に、運転中の私の写真を渡してくれたんです。思いを形にしてくれたことがとても尊く、一歩踏み出したという事実は、彼自身にとっても大切な経験になったのでは」と別所さんは振り返ります。
鷲田さんは「不登校=人生の終わり、では決してない。いろんな学び方があっていいし、好きなことを大切にできる場所で、未来に一歩踏みだす準備をしてもらえたら」と、自身の思いを話してくれました。
学びのかたちは、ひとつじゃない
文部科学省の調査によると、2024年度における小中学校の不登校児童生徒数は過去最多の34万6,482人となり、前年度から約4万7,000人(15.9%)の増加を記録。学びの在り方に多様性が必要であることを改めて示す結果となりました。
不登校だった頃、鉄道を楽しみに日々を過ごし、電車に乗ることで社会とつながっていた経験から、子どもたちの「好き」を大切にしたいと語ってくれた別所さん。
「子どもたちにはこちらから積極的に話しかけてコミュニケーションを取っているが、気づけば自然と子ども同士の関係性が築かれていて、それが本当に嬉しい」と鷲田さん。
「好きなことを突き詰めることが、生きる力になる。やりたいことを実現するためには周囲とのコミュニケーションが必要で、そのプロセスを通じて子どもたちに本当の意味での学びを経験してほしい」と語る元運転士の二人は、これからも子どもたちの「好き」に寄り添いながら、その一歩を応援し続けます。
AOi(アオイ)スクール
開校時間
・善行教室
火曜日AM枠、水曜日AM枠、木曜日AM枠
各曜日/10:00-13:00
火曜日PM枠、水曜日PM枠、木曜日PM枠
各曜日/14:00-17:00
・バーチャルキャンパス
火曜日AM枠、水曜日AM枠、木曜日AM枠
各曜日/10:30-12:30
火曜日PM枠、水曜日PM枠、木曜日PM枠
各曜日/14:30-16:30
・ライブセミナー 月3回配信
アクセス
小田急江ノ島線 善行駅の改札を出て左手すぐ
住所:〒251-0871
神奈川県藤沢市善行1-28-2 小田急マルシェ善行2F
駐車場:なし