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土岐麻子、『Lonely Ghost TOUR / 20th~21st ANNIVERSARY』のオフィシャルレポートが到着

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土岐麻子

土岐麻子が、3月4日(火)にSHIBUYA PLEASURE PLEASUREにて『Lonely Ghost TOUR / 20th~21st ANNIVERSARY』を開催した。本記事では同公演のオフィシャルレポートをお届けする。

昨年末にリリースした約3年ぶりのフルアルバム『Lonely Ghost』を引っ提げ回った東名阪ツアーに続き、3月4日(火)にSHIBUYA PLEASURE PLEASUREにて行われた追加公演、タイトルは『Lonely Ghost TOUR / 20th~21st ANNIVERSARY』。『Lonely Ghost』の世界をライブで表現するとともに、ソロ20周年から21年目以降へ向かう狭間のタイミングで、これまで生み出し育ててきた楽曲たちも併せて披露するという内容となった。

『Lonely Ghost』は土岐麻子のキャリアにおける大きなターニングポイントを経て生まれた作品である。2022年に独立を果たして以降、昨年のベストアルバムを除けばこれが初めてのアルバムであり、この日のMCでも語っていたような、これまで会社やスタッフが動いていたことを自ら行うことで得た、作品を一枚世に出すために必要となる実務経験や知識といった面だけでなく、ほぼ1年に1枚というハイペースでリリースを続けてきた彼女にとってはおそらくこれだけじっくりと期間を取って制作に挑むことも初めて。自分の音楽性や今の志向を見つめ直し、そこから生まれ出てくるものを丹精込めて熟成することにも繋がったことは想像に難くない。

そうして生まれた『Lonely Ghost』をライブの場で再構築するのは、バンマスの高木大丈夫(Gt)、井上薫(Key)、林あぐり(Ba)、伊吹文裕(Dr)という面々。公演のコンセプトによって様々な形態でのパフォーマンスをみせる土岐だが、今回は土岐を含めて5人編成のいわゆるスタンダードなバンド編成である。場内が暗転してからもジャズのBGMがそのまま流れ続け、そこへバンドメンバーが登場。ピアノのイントロと鼓動のように刻まれるビートによって表題曲「Lonely Ghost」の深遠なアンサンブルが形作られたところで土岐が登場した。一語一語を丁寧に手渡していくような歌唱で、どこか童謡や唱歌のようなノスタルジーの混じったメロディを歌い上げる一方、シンセベースによる重低音で会場を震わせつつもあくまで温度感低めに推移するサウンドはモダンな印象が強く、あっという間に場内を時代やジャンル、地域性を超越した音像で包み込んだ。

最初のブロックでは『Lonely Ghost』からの「FALLING」「KAPPA」も演奏。ブレスまでも歌の一部としたスタイルで、可憐かつおだやかな歌声を響かせた「FALLING」。このあたりは生音と打ち込みが融合したサウンドが続き、照明の光量はかなり絞られ曲のテンポもミドル~スローが並ぶ時間となったが、決してまったりとチルに振るわけではなくむしろピンと張り詰めた空気がエキサイティング。不思議と、音楽を聴いているだけでなく朗読劇を鑑賞しているのにも近い感覚が湧き上がってきた。「KAPPA」ではシンセとカッティング主体のギターが牽引することで華やいだ印象が増し、軽くステップを踏みながら歌う土岐の表情も和らぐ。

アルバムツアーとしてだけでなく、20年間のアーカイヴから選りすぐった曲をやることで、またここから先のフェーズへ進んでいきたい、とあらためて今回のツアーの位置付けを語った後は、コロコロと可愛らしいピアノからはじまる「SU SA MIN」、近年彼女のライブで重要なパーツとなっているネオソウル調の「ソルレム」と披露していく。ふわりとした手触りの中に、ところどころ情感が強目に表出してくるところがとてもエモーショナルだ。既存のレパートリーからはここ10年以内からのセレクトが主であったが、中には「モンスターを飼い慣らせ」といった懐かしい選曲も。思わず身を委ねたくなる軽やかなサウンドはまったく古びないどころか、ここ数年でシティポップと形容されてきたタイプの音楽との高い親和性を感じさせるものだった。

中盤以降もセットリスト上に配された『Lonely Ghost』からの楽曲は際立ったキャラクターで輝きを放っていた。ポップス然としたメロディを持つ「夜凪」では情景を浮かび上がらせるような歌と演奏で魅了し、「Tablecloth」ではハネ気味の明るい曲調に、決して当たり前ではない日常を守ろうとすることの尊さを込める。アシッドジャズ系のダンサブルな「Queen of Mystery」は、クラップに乗ってアクセント強めの歌でもグルーヴを作り出すアプローチが破壊力抜群。着席スタイルのライブだが、そうでなければ間違いなく踊ったり跳ねたりしてしまうタイプのライブチューンに仕上がっていた。

20年間で一番大きなターニングポイントだった曲と紹介されたのは、お馴染み「Gift ~あなたはマドンナ~」の明るくチャーミングな歌声が場内の空気を一段と晴れやかに塗り替えたあたりから、ライブは終盤へ。ハモンドオルガンの効いたロック寄りのサウンドで攻めた「Mint Cherry Cake」。4つ打ちのファンキーなサウンドにホーンの音色やハウスっぽいノリも同居した「Dong, Nan, Xi, Bei」では、スキャットや曲終わりのドラムソロでも大いに盛り上がる。「August」は、パーカッシヴなビートと低音のピアノリフ、ラテン系のノリを作っていくアコギで賑やかに。あれだけ重厚にスタートしたライブだったことを忘れかけるほど、上昇カーブを描き続けたまま本編終了の時を迎えた。

アンコールでは最初期の「ファンタジア」を、当時はリスナーとして聴いていたというひと回り下の世代のバンドメンバーたちとともに歌い奏でたあと、「とても幸せな音楽体験」であったとこの日のライブを振り返りながら、その上でもっと高みに行きたい、もっと洗練していきたいという決意も口にした土岐。ラストはオレンジ色の照明に照らされながら「窓辺」をしっとりと届けてくれた。ライブ中にはブルーノート東京でのライブも解禁されるなど、2025年の土岐の活動はまだ始まったばかり。独立とアニバーサリーイヤーを経てより深みを増し続け、より自由さも獲得した彼女の今を見逃す手はない。

文=風間大洋
撮影=SUSIE

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