「事情」のシンプルな英訳は? 【北村一真 月曜日の「英借文」】#3
北村一真さんによる英作文トレーニング! #3
英語学習者から大きな支持を得ている英語学者、北村一真さん。英文読解についての著作の多い北村さんですが、自身の英語力の基礎は、英作文によってつくられたと言います。
真の英会話力を効率的に身につけるには、「英借文」というコンセプトで英作文のトレーニングをするのがいちばん。数々の英語学習者を「上級」に導いてきた北村一真さんの指導で、毎週英借文のトレーニングをしてみましょう!
※「NHK出版 本がひらく」より
「英借文」のコンセプトについては第0回をお読みください。
トレーニング開始!
まずは【例題】の和文英訳問題に独力で挑戦してみて下さい。この時点では瞬時に訳す必要はなく、少し時間をかけても大丈夫です。ひとまず英文ができたら、[解答・解説]に進んで、ポイントとなる表現を確認しましょう。解説を一通り理解したら、【練習問題】に取り組んでみましょう。
【例題】以下の和文を英語に訳しましょう。
当時は事情が違った。SNSなんてなかったし。
[解答・解説]
Things were different back then. There was no such thing as social media.
[語句]
「当時は」:back then、昔を振り返って「当時は…だった」という時によく使う口語的な言い方です。
「SNS」:social media、英語ではSNSではなくsocial mediaと表現するのが一般的です。
ポイントは2つあります。まずは、1文目のthingsの使い方です。「状況」や「事情」といった日本語からはsituationsやcircumstancesのような英単語を思い浮かべがちですが、特定の事柄にまつわる状況や条件ではなく、より漠然とした「事情、状況、事態」を表現する場合にはthingsという語が非常によく使われます。このため、上の「当時は事情が違った」のような日本語を英訳する際には最適ということになります。実際、Things were different back then.は丸ごと覚えても損はしない定型表現です。他にも次のような言い回しがあります。
● Things are looking up. 「事態は上向きだ」
● Things are not as bad as you think. 「状況は思っているほど悪くない」
もう1つのポイントは2文目のThere was no such thing as …という表現ですね。現在と過去を比較して、ある物事が過去の時点ではそもそも存在していなかったことを強調する役割を持っており、日本語の「(かつては)…なんてなかった、…などというものはなかった」に相当する表現です。また、この言い回しを現在形で使用すると、「そもそも…などというものは存在しえない」と、その概念や発想自体を否定するかなり強い言い方になります。
● There is no such thing as an easy job. 「楽な仕事なんてものはない」
【練習問題】
1. 事態が予定通りには進まなかった。
2. 私が学生の頃はインフルエンサーマーケティングなんてなかった。
[語句]
「予定通りに」:as planned
「インフルエンサーマーケティング」:influencer marketing
[解答]
1. Things didn’t go as planned.
ポイント:「事態」をthingsを用いて表す。この文は決まり文句的に使うので丸ごと覚えてしまいましょう。
2. When I was a student, there was no such thing as influencer marketing.
ポイント:「インフルエンサーマーケティングなんてなかった」の部分を、there was no such thing as…を使って表現する。
プロフィール
北村一真(きたむら・かずま)
1982年生れ。2010年慶應義塾大学大学院後期博士課程単位取得満期退学。学部生、大学院生時代に関西の大学受験塾、隆盛ゼミナールで難関大学受験対策の英語講座を担当。滋賀大学、順天堂大学の非常勤講師を経て、09年杏林大学外国語学部助教、15年より同大学准教授。著書『英文解体新書』『英文解体新書2』(ともに研究社)、『英語の読み方』『英語の読み方 リスニング篇』(ともに中公新書)、『英文読解を極める』(NHK出版新書)、『文法知識と読解力を高める上級英文解釈クイズ60』(左右社)。共著『上級英単語 LOGOPHILIA』(アスク)など。
ヘッダーデザイン:明石すみれ