自己効力感とは?自己肯定感との違いやメリット、高め方を解説
自分ならできると信じる力である「自己効力感」。自己効力感を高めることで、新しい挑戦に積極的に取り組む意欲や、失敗を乗り越える力が養われるため、個人の成長やキャリアの発展にもつながります。
この記事では、自己効力感の基本的な概念や自己肯定感との違い、さらに高めるための具体的な方法について詳しく解説します。
自己効力感の定義とは
自己効力感とは、 自らが特定の状況で目標を達成し得ると信じる力、自分なら成し遂げられるという自信を示す ものです。この概念はスタンフォード大学の心理学者アルバート・バンデューラ博士により提唱されました。彼は、困難を克服した個人を研究する中で、この信じる力がどのように人の行動を変えるかを解明しました。
自己効力感と似ている概念との違い
ここでは、自己効力感と混同されやすい3つの概念についてそれぞれの違いを解説します。
自己肯定感
自己肯定感は「自分の価値を受け入れ、尊重する力」を意味します。これは、成功や失敗にかかわらず自分を肯定し、ありのままの自分を認める能力を指します。自己肯定感が高い人は、自分の長所だけでなく短所も受け入れることができ、自己批判に陥ることなくバランスの取れた自己評価を保つことができます。
一方で、自己効力感は「特定の状況で成功する能力がある」と自分を信じる力に焦点を当てています。 自己肯定感が高い人はありのままの自分を認められるのに対し、自己効力感が高い人は目標達成への自信を持ち、行動に移す ことができます。
自己有用感
自己有用感とは、他者からの評価やフィードバックによって得られるものです。例えば、「チームで重要な役割を任されている」「部署内で欠かせない存在と認識されている」「特定の分野において他者よりも優れていると感じる」などが、自己有用感を高める要素となります。
これに対して、自己効力感は他者の評価に依存せず、あくまで自分自身の能力に対する信念に基づいています。つまり、自己有用感は外部評価に基づく感覚であるのに対し、自己効力感は自己評価によって形成される内的な信念です。
自尊心
自尊心は「自分の人格や価値を大切に思う気持ち」を表します。これは、自己肯定感に近い概念ですが、より広範で深い自己評価に基づいています。自尊心が高い人は、自分の存在そのものに価値を見いだし、尊重することができます。
一方で、自己効力感は「特定の課題や状況において成功できる自信」に焦点を当てています。例えば、「私は価値のある人間だ」と感じるのが自尊心であり、「私はこのプロジェクトを成功させることができる」と確信するのが自己効力感です。両者は相互に関連していますが、目的や適用される状況が異なります。
自己効力感の2つの要素
自己効力感は、大きく分けて「効力期待」と「結果期待」という2つの側面で構成されます。
自分の能力に対する信頼「効力期待」
「効力期待」は、ある特定の行動を成功に導けるという自信のことを指します。例えば、ビジネスシーンにおいて、プロジェクトマネージャーが「自分のリーダーシップスキルを活かしてチームをまとめ、納期までにプロジェクトを完遂できる」と信じている場合、その自信は行動に反映されます。
この結果、メンバーへの的確な指示や課題解決に対する迅速な対応が期待できます。このように、効力期待が高い人は困難な状況でも積極的に取り組む姿勢を維持し、結果として成功する可能性が高くなります。
行動の結果に対する期待「結果期待」
「結果期待」は、何か行動を起こすことで望ましい成果が得られるという信念を意味します。例えば、ビジネスシーンでは、営業担当者が「積極的に顧客とコミュニケーションを取り続けることで、売上目標を達成できる」と信じて行動する場合、その期待がモチベーションとなり、結果として契約獲得率の向上につながります。
このように、結果期待が高い人は、行動することで成果が得られると信じているため、前向きに行動を継続しやすくなります。
自己効力感の3つのタイプ
自己効力感は、その性質に応じて3つの異なるタイプに分類されます。ここでは、3つのタイプの特徴と具体例をそれぞれ紹介します。
自己統制的自己効力感
自己統制的自己効力感とは、自分の行動を意識的にコントロールできると信じる力を指します。この効力感が高い人は、 未経験のことにも恐れずに挑戦し、困難な状況でも冷静に対応 することができます。
例えば、チームプロジェクトにおいて、予期せぬトラブルが発生しても冷静さを保ちながら、的確に仲間をサポートし、目標達成に向けて状況をリードすることができる人は、自己統制的自己効力感が高いといえるでしょう。
学業的自己効力感
学業的自己効力感は、学習やスキル習得に対する自信を意味します。この効力感が高い人は、 新しい知識を積極的に吸収し、自己成長の機会を自ら探す 傾向があります。
例えば、ビジネスパーソンが新たなプログラミングスキルを習得し、それを実務に応用することで業務効率を大幅に改善することに成功した場合、その人は学業的自己効力感が高いといえます。また、学習を通じて成果を残した経験がある人は、こうした自己効力感をさらに強化しやすい傾向にあります。
社会的自己効力感
社会的自己効力感とは、対人関係において自分が有効に立ち回れると信じる力を表します。この能力が高い人は、 共感力やコミュニケーション能力を発揮し、良好な人間関係を築く ことが得意です。
例えば、職場内で意見が対立した場合でも、冷静な態度と積極的なコミュニケーションによって双方の意見を調整し、全体の調和を保つことができる人は、社会的自己効力感が高いと言えるでしょう。この能力は、乳児期から児童期にかけて発達し、環境や経験を通じて大人になってからも持続するとされています。
自己効力感が決まる要因
自己効力感はさまざまな要因によって形成されます。具体的には、以下の5つの要因です。
達成経験
ほかの誰でもない自分が目標を成し遂げた経験は、強力な自己効力感を育む要素です。過去の成功体験は自信の基盤を作り、将来の挑戦に対する積極的な姿勢を促します。また、成功を繰り返すことで「自分ならできる」という信念が強化され、さらなる挑戦への意欲も高まります。
生理的・情緒的高揚
ドキドキやワクワクする気持ちは、自己効力感に大きな影響を与えます。情緒的な高揚感が成果への期待を高め、行動意欲を喚起します。例えば、ポジティブな感情が高まると、リスクを恐れず積極的に行動する自信が生まれやすくなります。
言語的説得
他者からの言葉によって能力が認められることも、自己効力感を高める要因のひとつです。「君ならできる」「あなたにはその能力がある」といった励ましは、心理的な支えとなり、挑戦する勇気を引き出します。また、信頼できる人からの言葉は、特に強力な効果を発揮します。
代理経験
自分以外の誰かの成功を観察することで得られる自信も、重要な要素です。特に、自分と似た状況や能力を持つ人が成功するのを目にすると、「自分にもできるはずだ」と感じやすくなります。このような経験は、挑戦する際の心理的な障壁を取り除く効果があります。
想像的体験
実際に体験していないことでも、心の中で達成を想像することによって自己効力感は強化されます。イメージトレーニングのように成功した場面を具体的に思い描くことで、実際の行動にも前向きな影響を与えます。この方法は、特に準備段階における自信強化に効果的です。
自己効力感を高めるメリット
自己効力感を高めることで得られる具体的なメリットについて解説します。
積極的にチャレンジができるようになる
自己効力感が強い人は、未経験の分野や困難なタスクにも自信を持って挑む傾向があります。「自分ならできる」という確信が行動力を生み出し、その結果、目標達成の可能性が大きく高まります。こうした成功体験は、さらに自己効力感を強化し、挑戦への積極性を一層高めるというよい循環を生み出します。
失敗から学んで、次に活かせるようになる
失敗に直面した場合でも、「最終的には乗り越えられる」という信念があれば、精神的な回復力が高まります。自己効力感があることで、失敗を単なる挫折として捉えるのではなく、次への成長の糧として前向きに受け止めることができます。その結果、より早く新しい取り組みに再挑戦する力が養われます。
高いモチベーションが維持できる
自己効力感が高い人は「自分ならできる」という確信に基づいて、自己成長への強い意欲を持ち続けます。自分の能力を向上させようとする姿勢が強く、モチベーションを長期間にわたり維持できます。この積極的な姿勢は、個人の成長にとどまらず、組織全体に新たな価値やイノベーションをもたらす原動力となります。
自己効力感を測定する方法
測定方法として広く知られているのが、一般性セルフ・エフィカシー尺度(General Self-Efficacy Scale: GSES)です。この尺度は、個人がさまざまな状況で自分の能力をどの程度信じているかを評価するための16の質問項目で構成されています。各項目に「はい」または「いいえ」で回答し、得点を集計することで自己効力感のレベルを測定できます。
一般性セルフ・エフィカシー尺度(GSES)の16項目
1.物事に取り組む際、自信を持って行動することが多い。 2.過去の失敗や嫌な出来事を思い出して、気分が落ち込むことがよくある。 3.友人たちよりも優れた能力を持っていると感じる。 4.仕事を終えた後、失敗したと感じることが多い。 5.人と比べて、心配性である。 6.何かを決定する際、迷わずに判断できる。 7.物事がうまくいかないのではないかと不安になることが多い。 8.自分は内向的だと思う。 9.人よりも記憶力がよいと感じる。 10.結果が予測できない仕事でも、積極的に取り組む。 11.どう進めればよいか分からず、仕事に取りかかれないことがよくある。 12.友人よりも特定の分野で優れた知識を持っている。 13.どんなことでも積極的にこなす方だ。 14.小さな失敗でも、人よりも気にする方である。 15.積極的に活動するのは苦手だと感じる。 16.社会に貢献できる力が自分にはあると思う。
採点方法
項目1、3、6、9、10、12、13、16:「はい」=1点、「いいえ」=0点
項目2、4、5、7、8、11、14、15:「はい」=0点、「いいえ」=1点
評価基準
11~16点:自己効力感が高い
9~10点:平均的な自己効力感
8点以下:自己効力感が低い
この尺度を活用することで、自分の自己効力感の程度を客観的に把握し、今後の自己成長や課題克服の指針とすることができます。
自己効力感を高める具体的な方法
自己効力感は短期間で得られるものではなく、意識的な習慣の改善と環境の整備を通じて徐々に育まれます。ここでは、誰でも実践可能な具体的な方法を紹介します。
小さな成功体験を積み重ねていく
最初から大きな目標を掲げるのではなく、小さな成功体験を積み重ねることが重要です。 自分にとって少しだけ難易度の高い目標を設定し、それを着実に達成していく ことで、徐々に自己効力感は高まります。その結果、さらに大きな挑戦ができるようになり、自信の好循環が生まれます。
他者からのポジティブな評価を自信につなげる
他者からの肯定的な評価は、自己効力感を高めるために欠かせません。日常のあらゆる場面で、お互いを賞賛し励ます環境を築くことで、困難にも前向きに取り組み、成功体験へとつながります。一方で、否定的な評価が自己効力感を低下させることもあります。そのような状況でも、 ネガティブな評価を建設的に捉えてポジティブに変換 することが重要です。
身近な人の体験談を参考にする
他者の成功ストーリーを観察し、彼らがどのように課題を克服したかを学ぶことは有用です。特に、自分と同じような状況や困難を乗り越えた人々の実例を知ることで、「彼らならできるのなら、私にもできる」という前向きな気持ちが育まれ、自己効力感の向上につながります。身近な成功例に触れることで、実践的な学びやモチベーションも得られるでしょう。
セルフマネジメントを大切にする
心身の健康は、自己効力感を向上させるうえで重要です。規則正しい生活習慣を維持し、適度な運動を取り入れ、栄養バランスの取れた食事を心掛けることで、心身のコンディションを整えられます。これによって、日々のエネルギーレベルが安定し、ポジティブな気持ちを維持しやすくなります。さらに、ストレス管理やリラクゼーションの習慣も取り入れることで、心の安定感が増し、自己効力感をさらに高めることが可能になります。
まとめ
今回は、自己効力感の基本概念や自己肯定感などとの違い、そして高めるメリットと方法を解説しました。
自己効力感とは、自分が目標を達成できると信じる力で、新たな挑戦に積極的になり、失敗を乗り越える力を育てます。また、自己効力感は個人の成長やキャリア形成に大きく寄与します。この記事を参考にぜひ自己効力感を高める取り組みを実践し、さらなる成功を目指しましょう。
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