加藤和樹&島 太星に聞く、互いのことやアンリ/怪物役の強みとは ミュージカル『フランケンシュタイン』インタビュー
19世紀イギリスの小説家メアリー・シェリーが生み出した同名小説を、大胆なストーリー解釈で現代に蘇らせたミュージカル『フランケンシュタイン』。科学者ビクター・フランケンシュタインが“生命創造”に挑み怪物を生み出してしまう……という骨子は原作のままだが、本作のオリジナリティは、怪物の素材となったのが、ビクターの友人であるアンリ・デュプレだというところにある。ビクターとアンリの愛にも似た友情なども見どころだが、そのキーパーソン・アンリと怪物の二役を演じるのが加藤和樹と島 太星だ。ミュージカルのみならず数々の作品で大役を務める加藤は2017年の初演より続投、そして今夏『GIRLFRIEND』主演を好演し注目された島は新キャストとして本作初挑戦。二人に話を聞いた。
『フランケンシュタイン』♪俺は怪物/加藤和樹
フランケンシュタイン』♪ただ一つの未来/小林亮太&島 太星
ーーお二人は新ビクター役の小林亮太さんと三人で韓国版『フランケンシュタイン』を観に行かれたそうですが、それ以前の接点は……?
加藤:それ以前はほぼないですね。僕の方は島くんのことはテレビで拝見して「面白い子だな、でも歌ったらすごいな」と思っていましたが。
島:ありがとうございます。和樹さんは(『GIRLFRIEND』で共演した吉高)志音のお兄様ですよね(同じ事務所の先輩)。もともと、僕の事務所の先輩である戸次重幸さんの出演していた舞台『西遊記』を観劇させていただいた時に「めっちゃ歌の上手い方がいる!」と思ったのが和樹さんでした。どんな方なのか気になって色々と調べていたし、志音にも「すごい方が先輩なんだね」と話をしていたんです。そうしたら『GIRLFRIEND』のある日の公演終了後に楽屋にいて! うわー、すごい人だ! と思ったら、今は同じ役を演じるということで隣に座らせてもらっていて、わけがわからないです……。
加藤:(笑)。僕は『フランケンシュタイン』が再々演をするにあたり、アンリ/怪物役のもう一人は島 太星くんになりました、と聞いて意外に思ったと同時に、島くんの歌を聴けるのが楽しみだなと思いました。
島:ありがとうございます……!
ーーでは、お互いの歌を聴いた感想を教えてもらえますか。ひと足先に製作発表会見で加藤さんは「俺は怪物」、島さんは小林さんと共に「ただ一つの未来」を歌われました。
島:地声がこんなにもいい声をされている上に、ローももちろん、ハイがあそこまで出ることが信じられないです。どういうトレーニングをされているんだろうと思って、実はお会いするたびにお尋ねしています。
加藤:確かに毎回聞かれている(笑)。
島:本当に不思議でたまらないんです。なんでああいう風に響くのかもわからない……。和樹さんという方自体をもっと良く知りたいと思うのですが、僕は歌が大好きで、歌マニアでもあるので、そういう意味でも気になる存在です。
ーー加藤さんは島さんの歌を聞いていかがでしたか?
加藤:ポップスの歌声しか知らなかったので、ミュージカルの楽曲はこう歌うんだ、と新鮮に聴きました。もちろん『GIRLFRIEND』の時も素晴らしかったけど、『フランケンシュタイン』はまたタイプが違うから。会見の歌唱披露では島くんの思うアンリの信念といったところに触れることが出来て、今後さらに芝居の中で歌った時にどう化けていくのかすごく楽しみになりました。
ーーありがとうございました。そして韓国観劇旅行のお話も伺わせてください。楽しかったですか?
加藤:僕の中で島くんは「めちゃくちゃ食べる子」という認識になりました(笑)。カニ、美味しかったねー。
島:美味しかったです、サムギョプサルも! 食べ過ぎてお腹を壊しました(笑)。でも本当に美味しくて幸せでした。和樹さんはずっと韓国語をしゃべってて、マジでカッコ良かった! しかも『フランケンシュタイン』は僕ら、1階席の2列目という良席で観させていただいたのですが、チケットの券面(購入者)にKATO KAZUKIって名前が入ってて。和樹さんが全員分買ってくれていたんです……! そのことにも感動しちゃいました。そのチケットは今も僕のスマホケースに入れています。宝物です。本当にカッコいいお兄さんです。
加藤:公演も素晴らしかったよね。
島:素晴らしかった! すでに歌のお稽古をしていますので、話の筋や「ここはこのセリフだ」というのはわかるのですが、直接言葉はわからないじゃないですか。でも音楽の力がすごくて、胸を打たれたし、皆さんの歌唱力には本当に殴られた気分になりました。
加藤:歌唱力圧倒されるよね。
島:何度も圧迫されて、心臓に悪かったです(笑)。2回観させていただいたのですが、特に初回は瞬きをしたら悪いのではないかと思うくらいで。観終わったら目から血が出そうでした(笑)。
加藤:僕は今年の10周年公演は全キャスト観させていただきました。7回かな? それぞれの役のアプローチも違うし、キャストの組み合わせによって起きる化学反応も違う。(脚本家でもある)ワン・ヨンボムさんの演出が、ダブルキャスト・トリプルキャスト、それ以上でも、同じ空間で稽古をしないという方針なんだそうです。出演者も、誰がどんな稽古をしているのかわからない。だからこそそれぞれの俳優の個性が際立つ役作りになっている。そしてそれぞれの解釈で演じたものをお客さまが受け取り、さらに想像力を膨らませているんだなというのが印象的でした。今回アンリとビクターは4人ずついたのですが、それぞれが素晴らしかった。そしてやっぱり、この作品は音楽が良いですよね……。僕も客席で歌わないようにするのが大変だった(笑)。
ーー音楽、本当に素敵ですよね。かなり難しそうではありますが。
島:音階が複雑で難しい曲ばかり。本当に難しいです。和樹さんが会見で歌われた「俺は怪物」なんて、僕も歌稽古しているからわかりますが、普通あんな風に歌えないんです……。
加藤:僕も初めて韓国で観た時は「これは僕には無理だ」と思った(苦笑)。そこから色々と調べてトレーニングを始めたのですが。ブランドン・リー(イ・ソンジュン)さんの楽曲は、別作品でもそうなのですが、低音はすごく低く、高音はすごく高い。本当にレンジが広いのがまず第一の関門です。さらにそれをただ歌うのではない、芝居として歌った時にちゃんと表現することを求められる。オクターブ上で歌うか下で歌うかキャストに委ねられるところもあるのですが、声帯を準備しておかないといけない、芝居心もないといけない。自分の身体を使って歌えるようにするにはかなり時間がかかる楽曲たちです。ただ、ハマった瞬間はすごく気持ちいい!
島:芝居の稽古が始まったら“崩す”ではないですが、自分の芝居に併せて歌い方を変えていくこともあるのだと思いますが、現段階ではまず正規のメロディを叩き込まれています。
加藤:うん、太星くんもこれから自分の言葉でニュアンスを伝えていくすべを見つけていくことになると思うけれど。オーケストラが寄り添ってくれる快感も得難いものがありますよ。
島:和樹さんのアレンジも歌い方も気持ち良すぎて溶けそうになりました……。これ、稽古に入ったら何度も聴けるんですよね……こんな方が隣にいたら、僕、絶対成長できると思います!
加藤:……がんばります(笑)。
島:いえいえ、本当に本当にありがとうございます!
ーーお二人が演じるのが“アンリ・デュプレ/怪物”です。アンリという役はどういうキャラクターだと捉えていますか?
加藤:ある意味“空っぽ”の人です。両親も兄弟もいない、友だちもいない中で、唯一没頭したのが人体接合術の研究。本当に孤独だった彼がビクターと出会い、初めて自分の生まれてきた意味を見つけた。それは運命的な出会いだっただろうし、彼が初めて満たされた瞬間だったのだと思います。歌詞にもありますがアンリにとっての光、太陽がビクター。だから「君のためなら死ねる」となっていく。信念を貫き通す強い意志を持った男です。
島:僕はまだ本格的な稽古に入る前ですが、台本を読んだ段階では暗い、闇の成分が多いキャラクターだなと思ったんです。報われない人だな……と。でも前回の皆さんの映像を拝見して、闇の中に光が見えた時にグッときた。和樹さんがおっしゃったように、家族もいない、自分から死のうとすらしている。でもビクターと出会い、そのビクターのために命を落とすというのは、どこか光や希望があったんじゃないかなと思う。この先の稽古で光が見えるポイントを掴んで、僕なりのアンリを演じていけたらと思います。
ーー会見で加藤さんが「アンリ成分が怪物にどれだけ残ってるか……」というようなことをおっしゃっていました。そこの解釈は本作の眼目の一つでもありますよね。
島:それ、本当に難しいですよね……。僕もお聞きしたいです!
加藤:あっ、インタビュアーが二人になった(笑)。これは個々人の解釈によるし、太星くんは太星くんで考えなくてはいけない時がくると思うけれど、僕の考えでは「違う人物だけど、繋がっている」です。だって脳はアンリなんだから、繋がっていないはずはない。でも身体が違う、心臓はアンリのものではない。これは「人の記憶はどこに宿るか」という話であり、僕も色々なドキュメンタリーなどを見ましたが、臓器ですら記憶を引き継ぐ、という学説もある。心臓は“ハート”ですから、ここに残る記憶ももちろんあるでしょう。何を信じるかは人それぞれですが、僕はそういうのをけっこう信じてしまうんですよ(笑)。
島:へぇ~。
加藤:そして怪物は怪物で、生まれ落ちてから自我が芽生え「自分は何者なんだ」と自問自答を繰り返す。それなのに頭の中に先客(アンリの記憶)が住んでいるんです。だからこそ怪物は悩み、葛藤し、苛まれていく。これ、むしろアンリの記憶が残っていなければ“新たな生命創造”が成立していたはずなんです。
島:面白いです。和樹さんの考えが聞けてめちゃくちゃありがたいです!
加藤:僕、『フランケンシュタイン』のファンだから(笑)。出演しながら考察しているかも。
島:すごいです! 学ばせていただきます!
ーー興味深い話、ありがとうございます。ちなみに役柄としてはアンリも怪物もかなりシリアスな役どころですので、一公演が終わるとかなり消耗しそうですね……?
加藤:気持ち的にはそんなに落ちないですよ。というか僕、あんまり役を引きずらないタイプなので(笑)。ただ、メイクを落とすのが大変! これはかなり切実。肉体的疲労よりも、肌への影響が。
島:僕、めっちゃ肌が弱いんです……。本来はメイクも落とさずすぐに家に帰りたいタイプなのですが。
加藤:ぜったい無理だよ! 首の傷とか色々ついてるし、家では落とせない。
島:傷メイクしていたら、最終日には肌荒れでメイクいらないことになっちゃいそう……アンリに戻れなくなるかも。
加藤:……色々相談しよう(笑)。
ーー最後に、ご自身の演じる“アンリ/怪物”役の強みはどこになりそうですか? アピールポイントを教えてください!
加藤:怪物の動きにはこだわっているので、そこは見ていただきたいです。最初に韓国で観た時の怪物役はパク・ウンテさんでしたが、怪物が生まれて台の上に腕が「バン!」と出てきた瞬間に本当にゾッとしたんです。一瞬で「怪物だ」と思わせたんですよ、ウンテさんが。あの光景が忘れられず、それを追い求めているところがあります。怪物は生まれ落ちた瞬間に、お客さまに「もうアンリじゃないんだ」と思わせなくちゃいけないし、どれだけインパクトを与えられるかがキーになる。黒田育世さんの振付を徹底的に身体の中に叩き込んで表現していきたいし、お客さまにも楽しみにしていて欲しいです。
島:僕は常に、お客さまに「本当にその世界で生きる人物に見える」と思ってほしいし、できたら皆さんにもその世界の中にいると思っていただきたいという気持ちで舞台に立っています。加えて今回、僕はこの『フランケンシュタイン』に尋常じゃないくらいかけています。
加藤:「生きるか死ぬか」だって言ってたね。
島:そうなんです。今、普段の生活もすべて『フランケンシュタイン』のためだと思っている。椅子に座るのも、ペンを持つのもこの作品のことを考えながら、この作品のためだと思って過ごしている。それくらい『フランケンシュタイン』が日常に侵食してきているし、思い入れがあります。だから客席で、僕の本気のパワーを浴びて欲しいです。でもたぶん僕だけでなく全キャストがそれくらいの熱量を持っていらっしゃるはず。とにかくこの素敵な作品を皆さんにぜひ観て、感じて欲しいです。
加藤:できたら、両キャストとも観ていただきたいですよね。
島:本当にそうですよね。
■加藤和樹
スタイリスト:立山功
ヘアメイク:瀬戸口清香
■島 太星
ヘアメイク:YAHAGI RITSUKO
スタイリスト:小林洋治郎
取材・文:平野祥恵 撮影=池上夢貢