人気アニメで知る天文学の扉 ― 特別展「チ。 ―地球の運動について― 地球(いわ)が動く」(取材レポート)
魚豊(うおと)氏の漫画を原作とし、2024年10月からNHK総合テレビで放送されたアニメ『チ。―地球の運動について―』。 15世紀のヨーロッパ、天動説が常識とされていた時代に、神童ラファウは神学を学ぶ道を選びます。しかし、投獄された学者フベルトとの出会いをきっかけに地動説の存在を知り、彼の死後、その遺志を継いで真理を追い求めることになります。
このアニメの世界観を体感しながら、地動説の歴史や現代の天文学について学べる展覧会が、日本科学未来館で開催中です。
日本科学未来館 特別展「チ。 ―地球の運動について― 地球(いわ)が動く」会場入口
展覧会の入り口で配布される「地動説研究ノート」を手に、クイズに挑戦しながら展示を巡ることで、地動説の証明に挑戦できます。ノートは、難易度の高い「天文学者用」と、比較的やさしい「天文助手用」の2種類から選択可能。クイズを解き進めると、本展限定のオリジナルステッカーがもらえる特典もあり、楽しみながら学べます。
地動説研究ノート「天文学者用」と「天文助手用」※配布されるのはどちらか1冊
展覧会は4つの章で構成され、第1章は「地動説との出会い」。 アニメの世界に登場する天文学の考え方を学びます。古代の天体観測機器「アストロラーベ」に触れたり、満天の星が映し出される空間を体験したりすることで、天文学をより身近に感じることができます。
第1章「地動説との出会い」
第2章は「地動説の証明」。 天文学の実験を通じて、地動説がどのように証明されたのかを体験できます。特に、金星の満ち欠けの観測を通じて、地動説が持つ説得力を実感できる展示が用意されています。
第2章「地動説の証明」
ガリレオ・ガリレイが望遠鏡で金星を観察した結果、金星の満ち欠けが地動説の有力な証拠となりました。天動説では金星は常に大きく欠けて見えるはずですが、実際には金星の大きさが6倍に変化し、満ち欠けの形も大きく変わります。地動説では、金星が太陽の内側にあるときは半月から三日月、太陽の向こう側にあるときは遠く小さく見え、手前から照らされると満月に近い形になるため、この変化を合理的に説明できます。
模型を使って、地動説と天動説での金星の見え方の違いを確認できるコーナー
第3章は「地動説の普及」。 地動説が広まるきっかけとなったルネサンス期の三大発明のうち、「活版印刷」に焦点を当てます。活版印刷の工程を実際に体験しながら、当時の社会において地動説がどのように普及していったのかを学ぶことができます。
第3章「地動説の普及」
アニメ『チ。』の時代背景を感じながら、活版印刷の簡易体験ができるコーナーも設置。登場人物たちがどのように「知」を広めていったのかを追体験し、真理を追求した人々の情熱を感じることができます。紙に刻まれるインクの風合いや活字の美しさを楽しみながら、歴史ある印刷技術の魅力にも触れられるでしょう。
活版印刷の体験コーナー
第4章は「地動説の過去~現在~未来」。 地動説を広めた偉人たちの功績を振り返るとともに、現代の天文学の発展について学びます。肉眼での観測から始まった地動説の研究が、最新の観測技術へとどのように発展していったのか、その進化の過程をたどります。
第4章「地動説の過去~現在~未来」
本展のクライマックスでは、ロックバンド「サカナクション」のアニメ主題歌『怪獣』をBGMに、幅15メートルの超パノラマスクリーンでダイナミックな映像が展開されます。圧倒的なスケールと臨場感に満ちた映像体験は、物語の余韻を一層深め、観覧者を魅了します。壮大なエンディングムービーが展覧会の締めくくりを飾ります。
クライマックスの映像
知の探求に情熱を注いだ人々の歩みを辿る展覧会。アニメ『チ。―地球の運動について―』を知っている人はもちろん、知らない人も楽しめる内容です。
天文学の歴史を学ぶだけでなく、真理を追い求めることの意味を改めて考えさせられる貴重な体験となるでしょう。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2025年3月13日 ]
©︎魚豊/小学館/チ。 ―地球の運動について―製作委員会