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​【ゆずりはすみれさんの新詩集「花だったころ」】 初の商業出版。なだらかに傾斜する主題と口調。詩集の温度が少しずつ上昇していく

アットエス

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は5月10日初版発行(奥付記載)のゆずりはすみれさん(静岡市葵区)の新詩集「花だったころ」(田畑書店)を題材に。

中学生時代に詩作を始め、2020年には雑誌「ユリイカ」の「ユリイカの新人」に選出されたゆずりはすみれさん。2020年には写真家のNon.さん(静岡市出身)とともに、静岡新聞で連載を担当した。これまで自主制作の詩集が3冊あるが、商業出版は初めてである。

片手に収まる判型の本に、2019~23年の作品から自選22編。しまむらひかりさんが手がけたマットな色合いのイラストが表紙を飾る。アンソロジー的内容にして100ページ強という控えめなボリュームに、この出版物の創り主=ゆずりはさんの世界観がよく表れている。自分にとって最も居心地がいい「かたち」が、しっかり具現化されているのだろう。

一方、作品は決して「控えめ」ではない。むしろ正反対。目次直後の「花」に漂う死のイメージに、まず横っ面を張られる。いきなり「THE END」から始めるのだ。しかも湿度は高くない。乾いている。

半径5メートルの生活圏から言葉をすくい上げたような「つらら」「くるくると春」、痛覚が記憶を呼び覚ます「編む」。叙情と叙事の間で揺れながらも、やじろべえのように立ち続ける。決してどちらかに傾かない。「ユリイカの新人」選出時に詩人水無田気流さんが「詩の胆力をお持ち」と評したことを思い起こす。

詩人と「世界」の間で生まれた言葉を中心に組み立てる作品群を経て、詩集は次第に自分と他者との関係を語るようになる。なだらかな傾斜が感じられる。「丘」は性愛がテーマのようにも読める。人と人のふれあい、ぬくもり。詩集の温度が少しずつ上昇していく。

最終詩「水辺」はアフガニスタンの女性詩人への連帯を示すプロテスト詩。穏やかな詩集が、最後の最後でトラメガを持った。

(は)

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