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【ババク・ジャラリ監督「フォーチュンクッキー」】アフガニスタンからの移民女性の「孤独」「痛み」「幸せ」とは。米国文化の多層性がくっきり浮かび上がる

アットエス

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は静岡市葵区の静岡シネ・ギャラリーで7月25日から上映が始まったババク・ジャラリ監督「フォーチュンクッキー」を題材に。パンフレットに静岡県出身のイラストレーターoyumiさんの作品が掲載されている。

イラン生まれ、英国育ちのジャラリ監督が、映画初出演のアフガニスタン移民のアナイタ・ワリ・ザダさんを迎えた2023年の米国映画。舞台になっている米カリフォルニア州フリーモントはアフガニスタン系移民の集住地区があって、アナイタさん演じるドニヤは同じ町の中華街にある手作りフォーチュンクッキー工場で働いている。米国の文化の多層性が断片的に現れ、それが時間の経過とともに、より明確な背景として浮かび上がる構成になっている。

首都カブールで通訳として働いていたドニヤが、なぜ米国に移らざるを得なかったのか。どうやってここにたどり着いたのか。不眠症に悩まされるドニヤの心にある後ろめたさや孤独の本質は何か。そんな彼女が「幸せになりたい」「恋をしたい」という自分の願いをきちんと行動に昇華できるようになるまでに何があったか。そしてその結果は。

静けさが支配する本作の中で、移民として暮らす彼女の言葉は決して多くない。だが、ちょっと風変わりなセラピスト(グレッグ・ターキントンさん)との幾度かにわたる対話を経て、観客は彼女の見たもの、経験したことをじわりじわりとわが物にしていく。彼女の抱える問題を解き明かす語り方が、とても丁寧だ。

本作はジム・ジャームッシュ監督が引き合いに出される。画面がモノクロであること、そして登場人物が無表情であることが大きな理由だろう。だが個人的にはゆっくりと、しかし着実に人物像の輪郭を濃くしていく手さばきこそ「ジャームッシュっぽい」と感じた。

何気ない場面に日本で暮らしていると実感できない、米国の移民のリアルがにじむ。ドニヤが対面するセラピストによると、特別移民ビザを持つ〝患者〟には2種類あるようだ。一つは「お金を払ってもらえる枠」、もう一つは「無償の枠」。無償の枠は「狭き門」であることがにおわされる。セラピストが語る、アフガニスタンからの帰国者のPTSDについてのくだりは深刻さが漂う。

クッキー工場のオーナーは中国出身。休憩時間にコーヒーを飲みながらドニヤに「職場の雰囲気は楽しいに限る」と呼びかけるが、その背後の壁には「忍」と書かれた筆文字が掲げられている。こうしたユーモアがあちこちにちりばめられていて、全体的に登場人物が無表情だけにそれがいちいち面白い。重要な場面に「鹿」が出てくるのだが、声を出して笑ってしまった。

主人公の過酷な過去を下敷きにしながらも、繰り返しのように見える日常の尊さ、そこに発生したちょっとした裂け目が広げるちょっと新しい景色には、希望がにじむ。こずえから響く鳥の歌声のようなヴァシュティ・バニアンの「Diamond Day」が、温かい余韻を残す。

(は)

<DATA>※県内の上映館。7月28日時点
静岡シネ・ギャラリー(静岡市葵区、8月7日まで)
シネマイーラ(浜松市中央区、8月22~ 28日)

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