帽子をかぶればキャラが立つ!? アニメキャラクターと帽子にまつわるトリビアを紹介
SBSラジオ「TOROアニメーション総研」のイチオシコーナー、人気アニメ評論家の藤津さんが語る『藤津亮太のアニメラボ』。今回は「アニメキャラの帽子」についてトリビアを伺いました。※以下語り、藤津亮太さん
帽子をかぶればキャラが立つ!
大雑把に振り返ると、世相を反映して、アニメのキャラクターは帽子をだんだんかぶらなくなってきています。そもそもビクトリア朝時代のイギリスなどはシルクハットをかぶることが正装でした。そこまで遡らなくても、男性が大人になったら帽子をかぶるのはある時期までは当然だったんですよね。
日本でも例えば『サザエさん』の波平は会社に行くときに帽子をかぶっています。昭和30年代ぐらいまでは帽子をかぶることが大人の男性の普通の習慣でした。ですから当然、その頃を舞台にしたものでは帽子をかぶってるんです。『鬼滅の刃』の鬼舞辻無惨もそうです。あれは大正時代に流行の最先端をいっていた男性(モボ)のかぶったカンカン帽ではないですが、中折れ帽といわれているフェルトで作られた帽子をかぶっていました。
ほかに有名な帽子キャラクターというと、宮崎駿監督と御厨恭輔監督が手掛けた『名探偵ホームズ』ですね。原作はビクトリア朝時代が舞台ですが、宮崎監督が監督するにあたっては、もうすこし後の内燃機関が普及し始めた時代に変更しています。こちらのホームズは犬が擬人化されたデザインなんですが、世間的なホームズのイメージに沿った服装に身を包んでいます。
これはどういう服装かというと、服はインバネスコートで、口にはキャラバッシュパイプ。そして帽子はディアストーカー(鹿撃ち帽)というものです。非常に有名なホームズのスタイルですが、実はディアストーカーをはじめとして、これらの服装は原作ではほぼ言及されておらず、挿絵で描かれたのが定着したと言われています。
ちなみにホームズは、そのあとイギリスのグラナダTVで作られたドラマがあり、これが一番原作に近いと言われているのですが、こちらのホームズはシルクハットをかぶっています。ディストーカーは鹿撃ちに行くときの帽子なので、ロンドンの街中ではかぶらないものなんですね。
このように帽子をかぶるのが当たり前だった時代がありました。『ルパン三世』の次元大介が帽子をかぶっているのも、大人の男性が帽子をかぶる流れの一つですよね。次元の黒い中折れ帽には結構細かいスペックが作中で出てきています。「サイズ58.25cm、つばの長さ8.6cm、厚さ1.5mm、材質は4歳オスのゾウアザラシのお腹の皮」というものがそれで、これがストーリーの大事な要素になっています。
それから帽子をかぶったキャラクターでいうと、『銀河鉄道999』のメーテルと鉄郎がいますね。メーテルはコサック帽と言われてるような毛皮ででてきた筒状の帽子で、鉄郎はカウボーイハットをかぶっています。松本零士先生の世代だと、50年代に輸入されていた西部劇をたくさん見ていらっしゃると思うので、その影響も大きいのだと思います。
そういった時代の流れがある中で、アニメのキャラクターと帽子が相棒のパターンもあります。1973年に『ドロロンえん魔くん』という永井豪とダイナミックプロ原作のアニメがあったのですが、主人公えん魔くんのお目付役にシャポーじいという帽子のキャラクターがいます。喋るタイプの帽子キャラで、常に主人公と一緒にいる相方ですね。魔女みたいなとんがり帽子なのですが、そういう意味ですごくアニメらしい帽子と言えるのではと思います。
ちなみに帽子をかぶる文化は1980年頃にはだいぶ廃れます。現代でもキャップやニット帽はかぶっても、中折れ帽みたいなものをかぶる人はほとんどいなくなりました。帽子文化はストリートファッションの流儀の1つの中に収まっているという印象です。だからこそ、アニメの中の帽子は、キャラ立ての1つという要素が強くなっていると思います。かぶらないことが当たり前になっていけばいくほど、かぶっていることの意味やキャラクター性が重要になります。アニメキャラクターとしてはそこがポイントになってくるのかなと思いました。