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高齢者の運動量の目安は?介護現場で実践できる3つの運動と注意点

「みんなの介護」ニュース

阿部 洋輔

高齢者に推奨される運動量と介護現場での支援ポイント

厚生労働省が示す運動基準

高齢者の健康維持には、適切な運動が欠かせません。

厚生労働省が策定した「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、高齢者に推奨される具体的な運動量が明確に示されています。

その資料によると、高齢者は1日あたり40分以上の身体活動を行うことが推奨されており、これはウォーキングでおよそ6,000歩に相当します。単純な歩数だけではなく、運動の内容と質を意識することも大切です。

中でも効果が期待できるのが、心肺機能を高める有酸素運動と筋力トレーニングの組み合わせです。筋力トレーニングは、週に2~3回以上行うことが望ましいとされています。

ただし、これらはあくまで一般的な目安であるため、個人の健康状態や体力に合わせて調整し、できることから取り組むことが大切です。

たとえ推奨値に満たなくても、今より少しでも多く体を動かすことに意義があるとされています。

なお、このガイドラインは、高齢者の運動習慣を促進するための具体的な指針となるものです。

介護現場では、これを基準として利用者に適切な運動を提案し、その実施をサポートする役割が求められるでしょう。

高齢者の運動習慣の現状と介護職の役割

高齢者の運動習慣についての調査によると、65歳以上の男性で43.8%、女性で35.0%が運動習慣を持っていることが分かっています。

これはほかの年齢層と比較して高い水準であり、高齢期においても一定数の方が継続的に運動に取り組んでいることを示しています。

一方で、加齢に伴う身体機能の低下や病気、モチベーションの維持の難しさなどから、運動習慣の定着には個別の支援が欠かせません。

具体的には、利用者に対して運動の必要性を分かりやすく説明し、日常生活に運動を取り入れるきっかけを提供することが大切です。

例えば、以下のような工夫を通じて、日常に運動を取り入れる「きっかけ」をつくることが効果的でしょう。

軽いストレッチや散歩など、体への負担が少ない運動から始める グループ活動に運動を組み込み、楽しさや社会的なつながりを感じてもらう 「食後の短時間ウォーキング」など、生活リズムに合わせた定時の運動を提案する 過去の趣味や好きだった活動を参考に、個別性のある運動プログラムを考える 小さな成功体験を積み重ねられるよう、達成しやすい目標を一緒に設定する

さらに、利用者のモチベーションを高めるためには、ポジティブな声かけや励ましが効果的です。

運動を通じて得られる具体的な健康効果を伝えることで、自発的な運動習慣の形成を後押しすることができるでしょう。

運動指針を現場支援に取り入れるための考え方

介護現場で運動指針を効果的に取り入れるためには、通所介護や施設ケアにおける具体的な応用方法を考える必要があります。

まず重要なのは、利用者一人ひとりの体力レベルに応じた個別支援という視点です。

低体力の利用者には、椅子に座ったままできる軽いストレッチや呼吸法から始め、中程度の体力を持つ利用者には、施設内のウォーキングや軽い筋力トレーニングを提案するといった配慮が有効でしょう。

また、運動の成果を可視化するためには、定期的に体力測定を行い、利用者に具体的なフィードバックを提供することも大切です。

介護現場では、利用者の体調や健康状態が日々変化します。そのため、常に利用者の運動能力を把握し、必要に応じてプログラムを柔軟に見直す姿勢が求められます。

「今日はここまで」「無理のない範囲で」といった声かけも、安全な運動支援には欠かせません。

さらに、医療職との連携体制を構築し、運動プログラムについて定期的な助言を受ける仕組みを整えることで、より専門的かつ安全な運動支援が可能になるでしょう。

このように、介護現場では、利用者が安全かつ効果的に運動できるような環境づくりが求められます。

高齢者の健康寿命を延ばす3つの運動と導入方法

ウォーキングを日常生活に取り入れるコツ

ウォーキングは、高齢者の健康維持につながる基本的な運動です。特別な器具や施設を必要としないため、日常生活に無理なく取り入れることができます。

2023年の国民健康・栄養調査によると、高齢者の平均歩数と推奨歩数には差が生じていることがわかります。

65歳以上の平均歩数では、男性では5,329歩、女性では4,419歩となっていますが、前述の通り、厚生労働省の推奨値は1日あたり約6,000歩とされています。

平均歩数が推奨値に届いていない背景には、生活環境や運動習慣の違いがあると考えられます。

そのため、介護施設やデイサービスなどの支援現場では、利用者が無理なく歩行を継続できるよう、「歩行時間の確保」を意識した支援が重要になります。

介護現場では、以下のような方法でウォーキングを日常に取り入れることができます。

定期的な散歩の時間を設ける 毎日のスケジュールに散歩の時間を組み入れ、参加を促します。例えば、朝食後や午後の活動時間に設定することで、習慣化を図ることができます。 室内での代替運動 天候や体調により外出が難しい場合、室内でできるウォーキング代替運動を提案します。足踏みやその場での歩行を行うことで、歩行の効果を維持できます。 歩数計の活用 歩数計を使用して日々の歩数を記録し、目標達成を楽しむ工夫をします。これにより、利用者の関心を高めることにもつながります。

特に、転倒リスクが高い高齢者に対しては、手すりを活用した安全な歩行環境の整備や、必要に応じて歩行補助具の適切な使用を促すことも大切です。

このような細やかな配慮と工夫により、高齢者が日常的に体を動かす機会を増やし、健康寿命の延伸につなげることが期待できます。

自立支援につながる筋力トレーニング

筋力トレーニングは、高齢者の自立支援において非常に重要な役割を果たします。

特に、サルコペニア(加齢に伴う筋肉量の減少)やロコモティブシンドローム(運動器の衰えによる移動機能の低下)の予防・改善に効果的です。

次のような運動は、特別な器具がなくても筋力トレーニングとなるので、導入を検討してみてください。

椅子を使ったスクワット 椅子に座る動作を繰り返すことで、下半身の筋力を強化します。立ち上がる際には、ゆっくりとした動作を心がけ、膝がつま先を越えないように注意します。 タオルを使った抵抗運動 タオルを両手で持って引っ張ることで、上半身の筋力を鍛えることができます。継続することで、日常生活での動作がスムーズになる効果が期待できます。 ペットボトルを使った腕の運動 水を入れたペットボトルを持ち上げることで、腕の筋力を強化します。軽い負荷から始め、徐々に重さを増やすことができます。

これらの筋力トレーニングを週に2~3回、定期的に行うことで、高齢者の身体機能の維持・向上が期待できます。

特に下肢筋力の強化は、立ち上がり動作や歩行能力の改善につながり、日常生活の自立度を高める効果があります。

注意したいのが、個々の体力レベルに合わせた負荷設定です。無理のない範囲で始め、徐々に回数や強度を増やしていくことで、安全かつ効果的なトレーニングとなるでしょう。

転倒を予防するバランス運動

バランス運動は、高齢者の転倒リスクを下げるためにも不可欠なトレーニングです。

年齢を重ねると平衡感覚が低下し、転倒のリスクが高まりますが、適切なバランス運動を定期的に行うことで、この機能の維持・改善が期待できます。

介護現場では、片足立ちやつま先立ちなどのシンプルなバランス訓練が取り入れやすいですが、まずは手すりや壁を支えにして行いましょう。1分間を目安に、左右の足で交互に行うことで、効果的なトレーニングとなるでしょう。

つま先立ちの運動は、足首やふくらはぎの筋力を鍛えながらバランス能力も向上させる効果があります。これにより、歩行時の安定性が増し、つまずきによる転倒を防止することができます。

認知症の方へのバランス運動では、視覚的な手がかりが理解の助けになる場合があります。

例えば、床に色のついたマットやテープを貼り、足を置く位置を直感的に示すことで、運動の目的が伝わりやすくなります。視覚機能に配慮し、楽しみながら取り組める工夫が大切です。

また、音楽に合わせたリズム運動を取り入れることで、認知機能の刺激とバランス訓練を同時に行うことが可能になります。

バランス運動を行う際は、安全面への配慮が最も重要です。必ず職員がそばにつき、安全を確保しながら行いましょう。

これらのバランス運動を日常的に取り入れることで、高齢者の転倒リスクを減少させ、安全な生活を支援することができます。

安全な運動支援を行うために押さえておきたい注意点

運動前の健康チェックと情報共有

介護現場で安全な運動支援を行うためには、運動前の健康チェックを行うようにしましょう。

高齢者は体調の変化が起こりやすいため、適切なチェック体制を整えることで、運動に伴う事故のリスクを最小限に抑えることができます。

バイタルサインの確認 運動前に血圧、脈拍、体温などのバイタルサインを測定します。特に血圧が高過ぎる場合や、脈拍が不規則・異常に速い場合は、運動を控えるべきでしょう。 主治医への確認 持病のある高齢者については、どの程度の運動が可能か、あらかじめ主治医に確認しておくことが重要です。特に心疾患や呼吸器疾患がある方は、運動の種類や強度について医師からの指示を受けるようにします。 スタッフ間の情報共有 利用者の健康状態や運動の進捗状況をスタッフ間で共有することで、一貫性のあるケアが可能になります。申し送りノートやカンファレンスを活用し、特記事項や注意点を徹底することが大切です。

健康チェックの結果は必ず記録に残し、時系列で変化を追えるようにしておくことも重要です。

例えば、「先週より血圧が10mmHg上昇している」などの変化に気づけることで、早期に異常を発見し対応することができます。

また、利用者自身にも体調の自己管理の重要性を伝え、少しでも違和感があれば遠慮なく申し出るよう促すことも大切です。

利用者とスタッフの信頼関係に基づいた健康チェック体制を構築することで、より安全で効果的な運動支援が実現できるでしょう。

無理のないステップアップと休息のタイミング

運動支援において、高齢者の体調や体力に応じた適切な運動強度の調整は極めて重要です。

高齢者は身体機能の低下や疾患の影響により、運動に対する耐性が個人によって大きく異なります。そのため、一人ひとりの状態を的確に把握し、無理のないアプローチが必要となってきます。

運動を始める際は、軽い運動から開始し、少しずつ強度を上げていく「ステップアップ」の考え方を取り入れましょう。

例えば、最初は座ったままでできる足の上下運動から始め、慣れてきたら立った姿勢での足踏みや、その場での屈伸運動へと段階的に移行していくのがよいでしょう。

利用者の反応を注意深く観察しながら、「まだ余裕がある」と判断できる場合にのみ、次のレベルへと進みます。

また、運動中の疲労感への対応も重要なポイントです。高齢者は一度の疲れが長引きやすいため、「もう少し頑張れる」と思っても、適切なタイミングで休息を取り入れることが大切です。

息切れがひどくなる、顔色が悪くなる、動きがぎこちなくなるなどの兆候が見られたら、すぐに休息を促しましょう。

「休むこと」も立派な支援の一環であると認識し、休息の重要性を利用者に理解してもらうことが大切です。

無理に継続することで怪我や体調不良を引き起こすリスクを説明し、適切な休息を取ることで長期的には効果的な運動ができることを伝えましょう。

このように、個々の状態に合わせた慎重なステップアップと適切な休息の組み合わせにより、安全で効果的な運動支援が実現できるのです。

季節や気候に応じた運動環境の工夫

季節や気候に合わせて運動しやすい環境を整えることは、介護現場で運動支援を行うために欠かせないポイントです。

特に冬場や夏場は、気象条件により運動実施率が低下しがちですが、適切な対策を講じることでこの問題を解決できます。

冬場は寒さによる体温低下や路面の凍結など、運動に適さない環境となることが多いでしょう。こうした時期には、室内での運動を中心に計画し、適切な室温管理を行うことが重要です。

また、運動前のウォームアップに時間をかけ、筋肉や関節を十分に温めてから本格的な運動に移行するよう配慮します。服装選びについては、体温調節がしやすいよう工夫すると良いでしょう。

一方、夏場は熱中症のリスクが高まります。運動前の水分補給を徹底し、運動中もこまめに水分を摂取できるよう配慮することが必要です。

運動を行う時間帯を工夫し、気温が高くなる日中は避け、朝や夕方の比較的涼しい時間に設定することも効果的な対策となります。

さらに、季節の変わり目には体調を崩しやすくなります。そのため、より丁寧な健康チェックを行い、利用者の体調変化に敏感に対応することが求められるでしょう。

このような季節や気候に合わせた細やかな配慮により、年間を通して安定した運動支援が可能になるのです。

利用者一人ひとりの状態や環境に寄り添いながら、継続的に支援を行う姿勢こそが、質の高いケアへとつながっていくでしょう。

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