昭和40年男の創刊編集長が書き上げた「俺たちの昭和後期」昭和46年〜64年の熱源を大検証!
昭和100年の今だから読むべき1冊
“俺の偏った主張を聞け!!” と、著者・北村明広は冒頭から宣言する。昭和40年に生まれた北村は “昭和" という年号でくくられた64年間を大きく初期・中期・後期と分け、中でも後期と定義した昭和46年以降から平成元年までの歴史を、丹念に振り返る。自らの生い立ちをベースに、仮面ライダーやウルトラマンに始まり、ドリフターズ、超合金からインベーダーゲーム、やがて音楽、バイク、ウォークマンに代表される音響機器まで、取り上げるテーマは実に多岐にわたる。同じ世代を生きた人にとっては、共感することばかりに違いない。
だが本書は “昭和ってこんなことがあったよね” で終わるのではなく、“こんなこと" の文化を発信した側の人間が昭和何年の生まれで、それぞれが背負った時代背景に何があったのかを分析する。例えば “阿久悠は昭和12年生まれの戦争体験世代で、終戦時の彼は8歳だから、記憶にはしっかりと残っているはずだ” としている。阿久悠が歌詞を書き沢田研二が歌った「カサブランカ・ダンディ」の世界観と、その背景を詳らかにする。
また、円谷英二と石ノ森章太郎が描くヒーローには戦争体験が滲み出ている部分があるが、それよりも少し若い永井豪の作品にそれがないことに言及。キラキラした1980年代をけん引した糸井重里は昭和23年生まれで団塊の世代として、世界に誇る日本を築いた世代であることなど。つまり “そうだった そうだった” と思った次の瞬間には “そうだったのか” と知らされるのだ。
こうして、昭和後期という時代とはなんだったのかを北村は丹念に振り返り、詳細に描き出す。同じ世代の人々にとっては、自分が育った昭和という時代の像が、ピントが合うようにしてはっきりと見えてくるはずだ。また、この時代をなんとなくでしか知らない世代にとっては、昭和を知る、よきガイドブックとなるはずである。
著者は雑誌「昭和40年男」の創刊編集長
なんといっても北村の強みは、これらのカルチャーを作った人々に直接会って話を聞いた経験を数多く持っていることだ。漫画家のちばてつや、作詞家の阿木燿子、RCサクセションのギタリスト、チャボこと仲井戸麗市、ドリフターズの加藤茶、『3年B組金八先生』(第2シリーズ)で加藤優を演じた直江喜一、さらにはこの脚本を書いた小山内美江子など。それぞれの作品のいちファンとして、北村は彼らに憧れと尊敬の念を持って会ってきた。それは本誌を執筆するためではなく、北村のそれまでの職歴によるものだ。
北村は広告代理店勤務を経て、1991年に会社を設立。バイク雑誌の創刊に関わり編集長に就任した後、編集長&プロデューサーとして複数のバイク雑誌や音楽雑誌を創刊した。中でも特徴的かつ個性的なのが、2009年10月 “世にも珍しい年齢限定男性誌” のふれ込みで立ち上げた雑誌『昭和40年男』だ。自分が読みたい雑誌を作るとの信念で、この本は “昭和40年代生まれの人” ではなく、ピンポイントで “昭和40年生まれの男” だけをターゲットにし、そして成功した。
多くの雑誌は読者の年齢層を想定して作られるが、たった1年間だけに絞った本は他にない。音楽誌でもバイク誌でもサブカル誌でもなく、ただただ “昭和40年に生まれた男” だけが読んで楽しいというコンセプトの雑誌であり、この本で北村は前述した数々の有名人たちにインタビューを重ねてきたのだ。雑誌『昭和40年男』は、藤岡弘、を、太陽の塔を、アグネス・ラムを、スーパーカーを表紙にしながら、14年間にわたって北村が作り続けてきた。自らを “昭和ジャンキー” と呼ぶ北村の昭和への愛がこれでもかと詰まった雑誌だ。
人生の再起をかけて書き上げた1冊
しかし2023年1月、『昭和40年男』の版元であり、北村が社長を務めていた株式会社クレタは倒産した。30年以上にわたり経営者、表現者として生きて来た北村にとって、これは大きなダメージとなった。倒産後は、元社員や債権者から激しい罵声が浴びせられ、その声は今もやむことはないという。表現に関わる仕事からは手を引く覚悟も決めた。一方で、我が子のような『昭和40年男』は事業譲渡され、当時のままの編集部員によって今も人気雑誌として発行が続けられていることは救いだが、現在、北村はこの本に一切関わってはいない。
半世紀以上も生きていれば、誰もが死ぬほどの思いや、立ち直れないほどの挫折を少なからず味わう。北村もまた、人並み以上の地獄を見たことは想像に難くない。だが、この『俺たちの昭和後期』を発行したワニブックスの編集者の熱心な説得によって、北村は書くことを決意したという。そしてこの人物だけでなく北村の周囲には、彼を慕い支える多くの友人や知人がいた。ひっそりといなくなることを許さない、おせっかいで心優しい人々によって、彼は再起を果たしたと言えよう。そして、倒産から2年と少しを経て、昭和100年となる令和7年4月9日に『俺たちの昭和後期』は発売となる。還暦直前の男が、まさしく人生の再起をかけた1冊だ。
冒頭の宣言通りの主観で書かれているが、昭和後期という時代を北村は幅広く俯瞰する。かつ、『あしたのジョー』を語る際には “力石徹 vs 矢吹丈” であったり、『ザ・ベストテン』なら “昭和53年のザ・ベストテン” に絞るなど、どのジャンルにおいても “ここ” というポイントを押さえ論じているのは、かの雑誌を作り続けた北村ならではと言えよう。そして最後に、北村は “昭和後期とは?” の答えを示す。その中身はぜひ、書籍を手にして確かめてほしい。