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「むっつり」「のしのし」「やんわり」…共鳴音に共通するイメージとは? 言語学者・秋田喜美さんが日本語のオノマトペを徹底解剖!【NHK俳句】

NHK出版デジタルマガジン

「むっつり」「のしのし」「やんわり」…共鳴音に共通するイメージとは? 言語学者・秋田喜美さんが日本語のオノマトペを徹底解剖!【NHK俳句】

「もこもこ」「ゆたにゆたに」…共鳴音で始まるオノマトペが表す意味とは? 秋田喜美さんの解説を紹介!

「まんじり」「わさわさ」…オノマトペは擬態語や擬音語の総称です。

2025年度『NHK俳句』テキストに掲載の「オノマトペ解剖辞典」は、新書大賞2024(中央公論新社主催)で大賞を受賞した『言語の本質』の共著者で言語学者の秋田喜美さんによる連載です。

様々なオノマトペを俳句とともに徹底解剖するこの連載で、日本語への興味を深め、俳句作りのヒントも学んでみましょう。

今回は『NHK俳句』テキスト2025年8月号から、これまで5回に渡って見てきた「共鳴音」のイメージを振り返る解説をお届けします。

共鳴音 まとめ

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どの音で始まるオノマトペが一番多いでしょう? 第二回(2024年5月号)で触れたように、答えは「ぽっかり」「ぴかっ」「ぷりぷり」のP音で、全体の15%ほど(六分の一)を占めます。では、阻害音P、T、K、S、H、B、D、G、Zと共鳴音M、N、R、Y、Wでは、どちらで始まるオノマトペが多いでしょう?
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 答えは阻害音です。しかも圧倒的に。日本語にはオノマトペ辞典が三十冊以上存在します。そのうちの一冊を調べてみると、阻害音始まりが85%、共鳴音始まりが10%、母音始まりが5%という分布です。「共鳴音は五つしかないのに、阻害音はPも含めて九つもあるから」というだけでは説明がつかないほどの偏りです。なぜこうなっているのでしょう?

 一つの原因として考えられるのが清濁(有声性)です。阻害音には「ぱたぱた/ばたばた」「とんとん/どんどん」「きらっ/ぎらっ」「さらり/ざらり」といった対立が広範に存在し、これが日本語のオノマトペ体系の主軸となっています(2025年2月号参照)。清濁対立を有効活用するがゆえに、オノマトペの大部分が語頭に阻害音を持つという極端な偏りが生じているのでしょう。

 少数派である共鳴音始まりのオノマトペは、清濁対立では表しきれない意味を担当しています。五ヶ月に渡って見てきた共鳴音のイメージを復習してみましょう。まず、阻害音が気流の阻害によって硬く粗い印象を伝える一方、共鳴音は緩やかな気流で柔らかく滑らかな印象を伝えます。くわえてM音には、不機嫌な様子を思わせる「むつつり」のように、鈍く、遅く、重いイメージが伴います。N音は、「ぬれぬれ」の鹿の目のような潤いや、しなやかさ、あるいは大きなキャベツを積み上げる「のしのし」のような重くゆったりした動きなどを表します。

 このように、阻害音が硬くて粗々しい意味を清濁二つのレベルで写し分ける一方、共鳴音は柔らかくて緩やかな意味を、微妙なニュアンスの違いで描き、言葉に温かさを与えます。

『NHK俳句』テキストでは、共鳴音のR音、Y音、W音のそれぞれが細やかに表している意味についても、解説しています。

講師

秋田喜美(あきた・きみ)
1982年、愛知県生まれ。名古屋大学文学部准教授。専門は認知・心理言語学。著書・編書に『オノマトペの認知科学』『言語の本質――ことばはどう生まれ、進化したか』、Ideophones, Mimetics and Expressives など。
※掲載時の情報です

◆『NHK俳句』2025年8月号より「オノマトペ解剖辞典」
◆イラスト:川村 易
◆参考文献:『現代俳句擬音・擬態語辞典』(水庭進編・博友社)/『日本語のオノマトペ──音象徴と構造』(浜野祥子著・くろしお出版)/Kakehi, H., Tamori, I., & Schourup, L. (1996).Dictionary of Iconic Expressions in Japanese. Mouton de Gruyter.
◆トップ写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート(テキストへの掲載はありません)

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